撮影した写真を確認する長尾明子さん(中央)。「この古民家で楽しいことをしたい」と話す=加茂郡七宗町神渕
土産に用意された朴葉ずしと鮎の塩焼き(撮影・長尾明子さん)

 岐阜県加茂郡七宗町神渕の空き家となっている築100年余りの古民家で、1日限りの「神渕写真館」がオープンした。館主は、本紙くらし面で「毎日ごはん」を月1回連載中の料理家、写真家minokamoこと長尾明子さん(49)=東京都=。亡き祖母和子さんとの思い出が詰まった家に再びにぎやかな声を響かせたいと、町民らとともに活用法を模索している。

 「好きな芸人さんの顔を思い浮かべて」。レンズの前で硬い表情の客から笑いを引き出そうと、ちょうネクタイ姿の長尾さんが声を掛ける。町内へのチラシや会員制交流サイト(SNS)で呼び掛け、この日、11組の予約客が訪れた。家族や友人同士で、田園風景が広がる古民家の庭や広間でポーズを取ったり、子どもを抱きかかえたり、20分で約50カット。長尾さんの朗らかな雰囲気に乗せられた客たちの自然な姿が次々写真に収まった。

 美濃加茂市出身の長尾さんは日本各地の郷土料理を取材し書籍を出版するなど、「食」にまつわる活動をしている。幼少期にいつも遊んでいた和子さんの家を拠点に、町内の主婦らとともに郷土料理会を開いてきた。コロナ禍で予定が中止となり、代わりに「写真館」を企画した。

 企画には、同所の道の駅「こぶしの里」の加藤太一さん(42)や農家民宿「のこ山」の土屋朋子さん(42)も参加。郷土料理を楽しんでほしいと、軒先で炭火焼きした鮎と、朴葉(ほおば)ずしを土産に用意した。

 母や息子ら3世代6人で訪れた愛知県春日井市の女性(49)は「自然豊かな場所で写真が撮れ、記念になった」。同市も空き家が問題化しているといい、活用策に感心した様子。夫婦で予約した美濃加茂市の男性(73)も「昔住んでいた家のようで、この雰囲気はなかなか残っていない。古民家を生かすアイデアを若い人がどんどん出してほしい」と期待する。

 加藤さんは、七宗町への移住者が増えてきていることを喜ぶ一方、昔からの住民と距離感があることを気にしている。「長尾さんは七宗町にゆかりがあるものの今は東京在住。そういうニュートラルな存在が、移住者と住民を結びつけるきっかけになるかも」

 長尾さん自身は肩肘張らず、七宗町の魅力を伝えたいと考える。地元の仲間の存在は心強い。「私だけの発信ではなく、仲間が多いほど楽しいアイデアが増える」。

 いずれはこの古民家で、岐阜の食材で作ったごはんを囲める楽しい場所を提供したいと模索する。周囲には飲食店が少なく住民にも喜ばれ、移住者も含めた交流の場になるのではないかと想像を膨らませる。東京から岐阜へ、活動の比重を増やすことも視野に入れており、「道なきところに道を作るのが楽しい」と笑う。