ジュニアキングのゴール前。渡辺竜也騎手が騎乗したセイジグラットが鮮やかな逃げ切りVを決めた

 2022年もあと2週間。寒風が吹き抜け、師走の寒さが身に染みる屋外スタンドだが、レースが始まれば熱気ムンムン。迫力あるゴール前の攻防で、馬券を握りしめて観戦するファンは一瞬、カッと熱くなれる。一連の不祥事から「再生・元年」としてクリーンになった笠松競馬。期間限定騎手も多く、若手・中堅ジョッキーたちが腕前を競う「ガチンコ勝負」の追い比べは見応えがある。

セイジグラットでジュニアキングを制覇。喜びの渡辺騎手(右)と厩舎スタッフ(笠松競馬提供)

 ■ジュニアキング、渡辺騎手がセイジグラットで制覇

 2歳馬オープンの「第9回ジュニアキング」(JRA認定、1600メートル)は、笠松所属馬限定レースで、地元厩舎が送り出した精鋭10頭が出走。若駒たちによるフレッシュな戦いを制したのは、渡辺竜也騎手が騎乗した1番人気のセイジグラット(牡2歳、後藤佑耶厩舎)。鮮やかな逃げ切りVを決めた。  

 「速さが魅力」というセイジグラットは、好スタートを切ってマイペースの快調な逃げ。3~4コーナーでいったん後続を引き付けて、最後の直線で突き放す圧勝劇。いずれも逃げ切りで5連勝を飾った。ラブミーチャン記念2着馬・メイクストーム(牝2歳、川嶋弘吉厩舎)が末脚を発揮し、後方から2着に突っ込んだ。好位にいたヒロチャン(牝2歳、栗本陽一厩舎)が3着に食い込んだ。

 ジュニアキングは岐阜県知事杯として行われ、表彰式では優勝馬セイジグラットを管理する後藤佑耶調教師らに、副賞として県産品の飛騨牛も贈られた。           
 
 ファンの大きな拍手と歓声に迎えられた渡辺騎手。笠松ではやはり地元エースが乗って、全国・地方交流を含めた重賞級のレースをバンバン勝つのが理想の姿。優勝インタビューでは「自信を持って乗り、ハナに立つことができた。『強いなあ』と思っていますし、(1600メートルの)距離も心配なかったです。乗りやすいですが、まだ完全に仕上がっておらず将来が楽しみ。馬と共に応援してください」と喜びを語った。東海ダービー馬のニュータウンガールや、昨年はイイネイイネイイネが勝った出世レース。来年のダービー戦線に向けて、さらなる成長を期待できる1頭になりそうだ。 

ジュニアキングを制覇し、ファンの声援を受けて喜びに浸る渡辺騎手

 ■年間最多勝へカウントダウン「あと3勝」

 ウインターシリーズの4日間。笠松リーディングを快走する渡辺騎手は2勝、3勝、3勝、4勝と4日連続のマルチ勝利で計12勝。一気に160勝とし、川原正一騎手の年間最多勝「163勝」まで「あと3勝」に迫った。27日からの年末特別シリーズも4日間開催で、記録更新へカウントダウンに入った。本人はプレッシャーを感じることなく、快調に白星を量産。高いモチベーションで挑戦しており、安定感も増して記録更新の可能性が高まった。

 ゴール前で応援したファンも「最多勝まであと何勝?」と注目。渡辺騎手の魅力を聞くと「乗り方がきれいでスマート」と騎乗姿をたたえ、重賞級レースでのゴールインは特に「カッコイイ」と絶賛。

 昨秋は左腕骨折で、年明けまで3カ月も戦線を離脱した渡辺騎手。年間を通して騎乗できるよう体力強化に励んできたとみられ、ファンたちも「胸板が厚そうだし、体幹などかなり鍛えていそう」「かわいい顔と強い体とのギャップがすごい」と注目。本人のツイッターなどを見て、プライベートでは「休日の過ごし方など、オンとオフの切り替えができていていい」という声もあった。

 ■年末開催では「タツヤメーター」も登場か

 年末特別シリーズで記録更新を期待する渡辺騎手ファンの一人は、メジャー時代のイチロー選手の安打数を表示した「イチメーター」をお手本に。163勝達成を願って「次開催に向けて『タツヤメーター』を作ろうかな」と熱烈応援モードにも突入した。

 まずは、けがなどなく無事に1年を締めくくることが第一。年末のライデンリーダー記念や東海ゴールドカップなどでも騎乗馬が当然あるだろうし、頼りになる真のエースジョッキーへの成長を期待。1着ゴールを決めて、年内にもう1度ウイナーズサークルでファンと喜びを分かち合いたい。

「初雪特別」でデルマエメラルドに騎乗し3着。YJSでも活躍が期待される及川烈騎手

 ■及川騎手、名古屋と中京でYJSファイナル挑戦

 「2022ヤングジョッキーズシリーズ(YJS)」には、笠松で期間限定騎乗中の及川烈騎手(浦和)が、地方・東日本地区トップの成績でファイナルラウンド(16日・名古屋、17日・中京)に進出。JRA、地方競馬の若手ジョッキー計16人が頂点を目指す。

 岐阜市内でも今年の初雪を観測したウインターシリーズ3日目。最終レース「初雪特別」でデルマエメラルドに騎乗した及川騎手は、後方8番手から最速の上がりタイムで追い込んで3着。戻ってきた装鞍所前では笑顔も見られた。

 レース映像をチェックしていた及川騎手に「今のレース、無印(専門紙)で3着。いい脚だったね」と聞いてみると「時計的には結構速いんで、前回は鼻血が出ちゃいましたが、能力的にそんなに差がなかったんで」と好走を引き出した。

YJSファイナル出場の壮行セレモニーで、ジョッキー仲間に囲まれた及川騎手

 いよいよファイナルを迎えたYJSに向けては「楽しみです。ワクワクしています」と秘めた闘志をみなぎらせた。弥富市の新しい名古屋競馬場では1度だけ騎乗経験はあるが、ゴールまでの直線距離は笠松より40メートルほど長く「馬に合わせて、落ち着いて乗りたいな」と闘志。YJSでは盛岡、浦和で勝利を挙げており、「トップ通過ですごいじゃない」と勝因を聞くと「いやー、馬も仕上がっていて良かったですね。展開が向いてくれた感じでした」と厩舎スタッフに感謝していた。

 ■「頑張ります。上へ行きたいですね」

 笠松のジョッキーでは、渡辺騎手がYJSファイナルに2度チャレンジした。総合8位と9位だったが、及川騎手には、もうちょっと上位進出を期待すると「頑張ります。上へ行きたいですね」と意欲を示した。

 「中京には竜也さん(渡辺騎手)らが応援に来てくれます」とのことだ。中山の芝コースで2着の経験もあるファイナリストの先輩で、壮行会も兼ねた前日の食事会では「芝での乗り方など教えてもらうつもりです」。当日は笠松での攻め馬もなく、YJSに専念してゴールを目指す。

 ファイナルへ行けるだけでもすごいことだが「頑張ります。抽選で当たったその馬なりに乗って、結果を待つだけです」。騎乗馬はくじ運にも左右されるが、人気薄の馬でも上位に持ってくることができれば「夢の表彰台」も可能になる。

 最近は笠松での勝ち星も増えている及川騎手。現在リーディング2位の後藤佑耶厩舎に所属し、他厩舎の1番人気の馬に乗せてもらうこともあり、「馬がいいからです」と好結果に結びつけている。YJSでは、笠松でもよく騎乗している名古屋の浅野皓大騎手(羽島市出身)とともに2日間計4戦のファイナルに挑む。

YJSファイナルに向けて闘志を燃やす及川騎手

 ■「烈風のごとく走り切れ」と熱い応援

 YJS前日の15日、笠松7R後には及川騎手の壮行セレモニーも開かれた。2017、18年の渡辺騎手以来4年ぶりのことで、笠松・名古屋勢に期間限定騎手も加わって8人が応援に駆け付けた。「祝 壮行セレモニー」のプラカードを持ったのは東川慎騎手。長江慶悟騎手とともに、笠松ラウンドで勝利を挙げたが、もう1レースが2人ともしんがり負けでファイナル進出を逃したが、笑顔で盛り上げてくれた。
 
 午前3時に一番乗りした男性ファン。6R後には及川騎手の勝負服カラーをイメージしたオリジナルマスク(埼玉県浦和競馬組合提供)のプレゼントも行われ、ゲットしたファンたちがオレンジ色のマスク姿で及川騎手らを出迎えた。

 熱い笠松競馬ファンを前に及川騎手は「名古屋ではいい騎乗をしたいし、中京での芝のレースも楽しみです。目指すは1位です」と力強い意気込み。拍手と「頑張って」の声援に「一生懸命、騎乗してくるので応援お願いします」と後押しを呼び掛けた。
           
 大原浩司騎手会長は「予選で2勝してファイナルへ行くのはすごいこと。頑張ってきてほしいです」とエール。及川騎手と同じ埼玉県出身の女性ファンらは「中央の馬場でも(騎乗馬と)烈風のごとく走り切れ」と熱い応援。「若手騎手しかいないから遠慮なく乗って、人馬とも無事にゴールを」「JRA勢をやっつけて」と活躍を期待。将来的には「笠松に移籍してきてほしい」とも願っていた。

年間50勝を目標に、成長著しい深沢杏花騎手

 ■深沢騎手は目標の年間50勝へ「あと3勝」

 デビュー3年目の深沢杏花騎手は、12月17日が21歳の誕生日。YJSでは騎乗馬に恵まれなかったが、長江騎手とともに来年もチャレンジでき、ファイナル進出のチャンスはある。深沢騎手は今年47勝を挙げており「年間50勝は目標でもあり、達成できたらいいなと思っています。でも考えすぎたら空回っちゃうんで、いつも通り乗ります」とマイペースでの騎乗を心掛けている。

 最近は勝ち鞍も増えており「他の厩舎からもいい馬に乗せていただき、チャンスをもらっています」と今年は大きな飛躍の年にもなった。逃げ切りや好位から抜け出す競馬での1着ゴールも目立つようになり、3年目で通算71勝。成長著しく、来年夏には100勝ラインも突破できそうだ。