東海ゴールドCをヒストリーメイカーで制覇した田口輝彦調教師と貫太騎手
地下馬道で「タービン、頑張れ」という声が聞こえ、ジョッキーの力にもなり「GⅠ馬」へあと一歩と迫る激走を見せた。
「(調教師になって)僕が3年目の時(2004年)にミツアキタービンという馬がいて、ダートグレード競走に挑戦。一番うれしかったのはフェブラリーSで4着になったこと。最後の直線をね、強豪に交って走ってきて、あのときが一番感動したんで、これからもああいう感動できるレースをできたらいいなと思います」
JRAで4年目を迎えた田口貫太騎手(22)。父が元笠松競馬騎手の田口輝彦調教師(60)、母は笠松初の女性ジョッキーとして活躍した中島広美元騎手。両親も共にジョッキー経験者というのは、JRAでは初めてのケース。そんな遺伝子を受け継いで「良血のサラブレッド」ともいえる存在の貫太騎手。今回は昨年11月に笠松の調教師として「地方競馬通算1000勝」を達成したパパの騎手&調教師ライフにスポットを当てた。
「アタック!地方競馬」のインタビューに答える田口輝彦調教師
田口調教師は1000勝達成でNARの「アタック!地方競馬」(グリーンチャンネル番組)に出演され、ミツアキタービンの健闘ぶりなども熱く語っていらっしゃった。笠松競馬場の装鞍所エリアでカメラマンさんに同行させていただいた。
■芦毛馬、ダービーグランプリでユートピアなどに続き3着
ミツアキタービンもオグリキャップのような徐々に白さを増していった芦毛馬だった。2000年生まれで通算46戦13勝。上山デビューですぐ笠松に移籍(加藤健厩舎)。初戦を向山牧騎手で勝った。地方・中央交流のダートグレード路線で才能開花。盛岡・ダービーグランプリ(JpnI)では1着ユートピア(安藤勝己騎手)、2着ビッグウルフ(武豊騎手)。馬連120円という鉄板レースで6番人気ミツアキタービン(東川公則騎手)は3着に粘り込み、複勝230円。中央のファンからも注目を浴びた。笠松勢は加藤健厩舎が2頭出しで、エンシェント(柴山雄一騎手)は6着だった。
■開業2年目の田口調教師、JRA初挑戦初勝利
3歳秋に本格したミツアキタービンは岐阜金賞Ⅴ、JBCクラシック5着を経て、開業2年目の田口厩舎に移籍。初戦が中京・香嵐渓特別(2勝クラス)で3コーナー先頭から押し切って勝利。田口調教師はJRA初挑戦で初勝利という快挙を達成した。東海ゴールドカップV、京都・平安S(GⅢ)5着で迎えたのが中央GⅠ(東京)のフェブラリーSだった。
2004年のフェブラリーS、残り200メートルを切って、最内で先頭に立っていたミツアキタービン
■フェブラリーS、残り200メートルで先頭に立った
22年前の2月22日、2番枠からスタートしたミツアキタービンの走りはすごかった。騎乗した東川公則騎手は好位2番手から「残り200メートルでは先頭に立ったね。レース前には『タービン、頑張れ』という声が聞こえ『地方馬を応援してくれているんだ』と力になりました」。アドマイヤドンには敗れたが大健闘の4着に粘り込んだ。
東川騎手は「フェブラリーSに乗せてもらうことができ、中央GⅠという最高の舞台に立たせてもらった。ジョッキーみょうりに尽きるね」。03年、JBCクラシック5着から挑んだ中京・香嵐渓特別を4馬身差圧勝。フェブラリーSでは12番人気。好位2番手を進み、最後の直線では最内から伸びて先頭に並び掛けた。
■メイセイオペラ以来「地方馬中央GⅠ制覇の夢」一瞬見えた
結果は大健闘の4着。勝ったJRAのアドマイヤドンにはアンカツさんが騎乗。ミツアキタービンは1馬身余り、0秒2及ばなかったが、大舞台で力を出し切った。1999年の岩手・メイセイオペラ(菅原勲騎手)以来となる「地方馬の中央制覇」の夢を一瞬見ることができ、胸が熱くなる一戦だった。
「レース後はアンカツさんに『よく頑張ったなあ』と声を掛けてもらった。勝っても負けても、どのレースでも強い競馬をしてくれた。動じない馬で、こんな僕でも安心させてくれて落ち着きがあった。スタートも上手でつかまっているだけ。何も考えずに乗っていられた」
圧巻のレースで、笠松ファンもしびれた。ゴール手前では「中央のGⅠ制覇か」とドキドキ。2着サイレントディール(ペリエ騎手)、3着スターリングローズ(福永祐一騎手)に続いた。笠松の馬がまだ中央のGⅠでも上位争いできるいい時代だった。
笠松・ローレル争覇(2005年)を制したミツアキタービンと東川騎手
■平成の笠松最強牡馬「オグリキャップの再来」とも
ミツアキタービンは芦毛の馬体で「オグリキャップの再来」とも呼ばれた平成の笠松最強牡馬。フェブラリーS後には、ダイオライト記念(船橋)とオグリキャップ記念の地方・中央交流重賞(GⅡ)をともに1番人気で連勝した。
ダイオライト記念では5馬身差圧勝。2着イングランディーレは次走で天皇賞・春を制覇しており、2着にゼンノロブロイ(その年のジャパンC、有馬記念優勝馬)。この頃のミツアキタービンの強さを分かってもらえるだろう。
続くオグリキャップ記念では「やりました、東川公則」の実況とともにゴールを1着で駆け抜けた。武豊、和田竜二、松永幹夫騎手らが笠松に参戦し、(前年Vの)カネツフルーブが2着。「タービンが力をつけて強くなったので、アンカツさんも見にきてくれた」と東川騎手もうれしそうだった。
GⅠでの好走から20年以上。ミツアキタービンについて印象に残っていることを聞くと田口調教師は「もう忘れたわ。東京競馬場の調教師席から見ていたが」というが、無我夢中で育てた愛馬を中央のGⅠ舞台に立たせていたのだ。2番手から残り200メートルを過ぎてもまだ先頭に立っていた。「上から見ていて、それはよく頑張ったなと。アドマイヤドンがまくってきて、よく踏ん張っているなと思って感動したということ」。アンカツ、ペリエ、福永という名手の騎乗馬に続いて笠松の馬がゴールイン。レース映像を見れば、すごいレースだったことが分かる。
■ダイオライト記念圧勝、2着にイングランディーレ
次のダイオライト記念の2着馬は「イングランディーレやったね」とやっぱりよく覚えていらっしゃった。当時、ミツアキタービンはすごく強かったということだが「そうやね。調教師になったばっかりで夢中だったんで、別にそんなに思い出もないが。いま振り返ってみて、あの馬、強かったなということ。調教師になって2年の頃で一所懸命やっていただけ」とまさかの快進撃だったようだ。そんな愛馬の力走は笠松ファンにも大きな夢を与える感動的なレースを見せてくれたのだった。
田口調教師は「4着はすごかったし、本当に感動しました。暮れの東海ゴールドカップでも11歳古豪のヒストリーメイカー。あの馬もあれだけ頑張ってくれて感動したんで。目の前のレースは全部勝ちたいですが、これからもああいう感動できるレースをできたらいいなと思ます」と力を込めた。
東海ゴールドCをヒストリーメイカーで勝ち、喜びの関係者
■ヒストリーメイカー、田口厩舎の新たな歴史を築いた
そのヒストリーメイカーは東海ゴールドCの翌日には12歳になった。笠松ではまだ2戦だが、田口厩舎入りして「田口調教師の通算1000勝」と「東海ゴールドC勝利」という快挙に貢献し、馬名の通り田口厩舎の新たな歴史を築いてくれた。小倉で14着に完敗した2017年9月以来、実にデビュー10年目。中央の重賞で2着3回、3着1回と活躍した実績馬。金沢、北海道を経て笠松入りし大輪を咲かせた。
田口調教師は管理するヒストリーメイカー(筒井勇介騎手)で地方競馬通算1000勝を達成した
「1000勝」の大台達成は昨年11月27日の笠松10R「グリーンチャンネル開局30周年記念」。筒井勇介騎手の好騎乗もあってヒストリーメイカーで達成。4コーナーを回ってあっさり抜け出す若々しいレースで健在ぶりを示し、田口調教師に大きな節目となる1勝をプレゼントした。
田口調教師の通算1000勝達成を祝う騎手、調教師仲間
田口調教師は2002年4月、オグリキャップとは縁があったようで小栗孝一さん所有馬のオグリクリークでデビュー。21戦目、アクティブブラウンで初勝利。これまで重賞は19勝。ミツアキタービン(04年・オグリキャップ記念)、ニューホープ(19年・東海ゴールドカップ) 、ダルマワンサ(20年・岐阜金賞)、イイネイイネイイネ(25年・くろゆり賞)など。笠松勢は近年、重賞戦線で名古屋、兵庫勢にVをさらわれ続けていたが、昨年は田口厩舎が重賞4勝と勝負強さを発揮し、意地を見せてくれた。
1000勝達成セレモニーで喜びを語る田口調教師
■「何百頭もの馬が勝ってくれたから、感謝したい」
初出走から23年8ヵ月での通算1000勝達成。田口調教師は「素直にうれしいです。ずっとうちの厩舎を支えてくださったオーナーはじめ、厩務員さんら全ての人に感謝したいです。振り返ってみれば早かった。1000勝ということは、連勝した馬もいたから何百頭もの馬が勝ってくれたから。そこがうれしいので、苦労したというよりも感謝したいですね、馬たちに」と喜びを語った。
年末に開かれた1000勝達成セレモニーでも「ミツアキタービンという馬が出たんですけど、もう一度そのように活躍できるような馬を出せたらいいなと思います。隣に4500勝近い調教師(名古屋の角田輝也調教師)が来てくれているので、見失わないよう頑張って付いていきたい」と笑顔で意気込みを語っていた。
東海ゴールドCをヒストリーメイカーで制覇した塚本征吾騎手
■11歳、10歳馬の超ベテランが暮れの大一番ワンツー
大みそかの東海ゴールドCでは田口厩舎から、くろゆり賞勝ちのイイネイイネイイネ(筒井勇介騎手)とヒストリーメイカー(塚本征吾騎手)の2頭出し。2500メートル戦でヒストリーメイカーは2周目の3~4コーナーからニホンピロタイズ(望月洵輝騎手)とのマッチレースに競り勝ち、10歳馬ゴールドギア(木之前葵騎手)の追撃もしのいだ。塚本騎手は左手を大きく上げて歓喜のゴールイン。中央の元オープン馬は格の違いを見せつけた。
21歳の塚本騎手は11歳・大ベテランに対して「最後まで頑張ってくれて、馬をねぎらいたいです。ずっと手応えよく回れたので自信があった。これからも活躍できると思います」とたたえた。
ファンらの祝福を受けた東海ゴールドCの表彰式
■貫太騎手がプレゼンター、塚本騎手に花束
この日、トークショーを行った田口貫太騎手がヒストリーメイカーの口取り写真撮影にも参加。輝彦調教師と親子一緒に手綱を持ち、喜びを分かち合った。
貫太騎手は表彰式でもプレゼンターを務め、塚本騎手に花束を贈呈。にこやかな2人をファンも「おめでとう」と祝福し笑顔の輪が広がった。貫太騎手がトークショーで注目していた元自厩舎のニホンピロタイズも3着に粘り込み、見せ場をつくった。
プレゼンターの貫太騎手から花束を贈られた塚本騎手
■騎手時代、オグリキャップに調教で乗っていた
田口調教師はジョッキー時代の1987年、笠松でデビューしたばかりのオグリキャップにも調教で騎乗していた。笠松競馬秋まつりでの「オグリの里」即売会でのこと。オグリキャップの出馬表(競馬エース)も置いていたが、田口調教師にも立ち寄っていただけ、それを眺めて「調教で俺もオグリに乗っていた」と話されたことがあった。
秋風ジュニア出馬表の調教欄(競馬エース)にはオグリキャップを追い切った田口騎手の名前も
アンカツさんがレースで騎乗した秋風ジュニアやジュニアクラウンでは、田口調教師がキャップの攻め馬を担当していたことが、調教タイム欄にも記載されていた。秋風ジュニア追い切りでは馬なりでラスト3Fを39秒6と好仕上がり。「馬力は最高」とある。レースはアンカツさんが初騎乗し、マーチトウショウに4馬身差完勝。キャップが2回負けたマーチには川原正一騎手が追い切りにも騎乗していた。
■脚の状態がひどく「誰も乗りたがらず、代わりに」
田口調教師に当時、オグリキャップに騎乗した感触を聞くと「俺が乗ったのは、脚の状態がひどい時だった。蹄叉腐爛(ていさふらん)といって(蹄の裏の角質が)腐っていて誰も乗りたがらなかったから、俺が代わりに乗せられていただけ」とのことだった。
それでもアンカツさんが騎乗し始めた秋風ジュニアの頃には「そのときには良くなっていた」と、田口騎手が追い切りも担当していた。当時はデビューして4年目。「まだ若い頃に乗せられていただけで、この馬がすごいかどうか分からなかった。いろいろ乗って経験を積んで。いま思えばあの馬は強くなったんやなと思うけど、当時を振り返っても印象は特にない」とのことだ。笠松時代のキャップは、デビュー4戦目までは脚元に不安を抱えていたが、新たに担当した川瀬友光厩務員の手で完治したという。
ファンの間では「田口先生、オグリキャップに乗っていたんだ」と注目するネット上の声もあった。有馬記念を2度も制覇したほどのレジェンドホースの追い切りを担当されていたことは確かであり、素晴らしい経験を誇りに感じていただきたい。
ジョッキー時代の田口輝彦さんと中島広美さん(笠松競馬提供)
■「心に残っている馬」重賞3勝馬キンカハッピー
騎手としては1984年デビューで、96年に中島広美騎手と結婚、2001年に引退した。笠松競馬ジョッキー名鑑(1999年)によると、田口騎手は先行馬が好きで「心に残っている馬」としてキンカハッピー(アラブ)の名を挙げていた。90年の岐阜銀賞、中京スポーツ杯、コスモスジュニアを制覇した重賞3勝馬。父は大井の全日本アラブ大賞典や笠松・アラブダービーを制覇したキンカイチフジ(重賞6勝)という笠松が誇る名馬の血脈を受け継いでいた。
アンカツさん、川原騎手らがリーディングだった時代の中堅騎手として通算288勝。身長170センチと長身だったこともあり、レース前の減量には苦労されていたようだ。2002年に調教師に転身。03年12月に長男・貫太君が誕生した。
2023年3月、デビュー初勝利を地元・笠松競馬場でのJRA交流戦で飾った貫太騎手
■貫太騎手は心機一転、再び丸刈りに
ところで貫太騎手は大みそかの笠松競馬トークショーでは髪の毛を伸ばした姿で登場していたが「いずれ丸刈り戻り説もあるのでは」という長谷川満アナの突っ込みを否定していなかった。
1月5日、吉村誠之助騎手の「JRA100勝セレモニー」では、貫太騎手が再び丸刈りにしていたことが判明。永島まなみ騎手コラム「まなみの学び」(競馬ラボ)によると、貫太騎手と西塚洸二騎手は、岩田康誠・岩田望来騎手にお世話になっており、昨年掲げていた目標を2人とも達成できなかったため、康誠騎手にバリカンで丸刈りにしてもらったそうだ。まなみ騎手は「康誠さんはすごく優しいので、これは愛のムチですね」と明かしている。
再び丸刈り姿でデビュー当時の初心に戻った貫太騎手。さっぱりとした姿で心機一転、飛躍の年としたいところだが、今年はまだ勝ち星に見放されており、35戦して3着以内もなし。そろそろ逆襲モードで巻き返して、京都で1着ゴールを決めてもらいたい。
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(筆者・ハヤヒデ)電子メール ogurinosato38hayahide@gmail.com までお願いします。
☆最新刊「オグリの里4挑戦編」も好評発売中

「1聖地編」「2新風編」「3熱狂編」に続く第4弾「挑戦編」では、笠松の人馬の全国、中央、海外への挑戦を追った。巻頭で「シンデレラグレイ賞でウマ娘ファン感激」、続いて「地方馬の中央初Vは、笠松の馬だった」を特集。
林秀行(ハヤヒデ)著、A5判カラー、196ページ、1500円(税込み)。岐阜新聞社発行。ふらっと笠松(名鉄笠松駅)、ホース・ファクトリー(ネットショップ)、酒の浪漫亭(同)、岐阜市内・近郊の書店、岐阜新聞社出版室などで発売。岐阜県笠松町のふるさと納税・返礼品にも。









