全国重賞くろゆり賞をイイネイイネイイネで制覇。ゼッケンを手に満面の笑みの筒井勇介騎手(左)と田口輝彦調教師
笠松競馬場でたくましく荒波を乗り越えてきた田口輝彦調教師や筒井勇介騎手ら「田口厩舎ファミリー」。現在は笠松競馬の馬券販売も、厩舎の勝利数も右肩上がりで「順風満帆」。所属する愛馬たちとの1着ゴールを目指してホースマン一丸、日々精進を続けている。
21世紀になって馬券の販売額がデッドラインまで落ち込んだり、調教師・騎手らの馬券不正購入による「黒い金」事件など厳しい時代もあった笠松競馬。田口厩舎でも所属騎手が不在になったが、どんなに苦しくても、厩舎で暮らし、調教やレースで走る競走馬たちの存在が生命線であり、騎手や厩務員たちの「生活の糧」でもある。
■少数精鋭で「クリーン度100%」へと浄化
2020年に発覚した不祥事では8か月もレースが自粛され、一時400頭ほどまでに激減していた笠松競馬の所属馬は約560頭にまで回復し、増加傾向にある。騎手や調教師の数は減ったが、少数精鋭で「クリーン度100%」へと浄化を進め、公正競馬の確保に努め明るさを取り戻してきた。競走馬という相棒たちの世話をする調教師、騎手、厩務員ら現場のホースマンたち。毎日の努力の積み重ねがレースを支え、競馬場に足を運んだりネットで馬券を買うファンたちを楽しませている。
装鞍所で出走馬の状態をチェックした田口調教師
調教師という仕事はやはりジョッキー時代の経験は大きいが、これまでになかった苦労も多い。もちろん馬づくりの手腕が問われ、厩舎では厩務員と一緒に愛馬を育て上げることが一番だが、馬主さんやジョッキーたちとの信頼関係が大切。馬を預けてもらうための「営業力」も必要になってくる。
田口厩舎には現在、筒井勇介騎手(42)と深沢杏花騎手(24)の2人が所属している。筒井騎手は2年連続で笠松リーディングにも輝いた名手で、昨年は自身最高の132勝を挙げて2位。深沢騎手は笠松では20年ぶりにレースで勇姿を見せた女性ジョッキーとしてファンの人気も高く、騎乗技術は徐々に向上。2人とも笠松競馬の盛り上げには欠かせない存在で、攻め馬からレースでの勝利を目指し、人馬一体で笠松コースを連日駆け抜けている。
田口厩舎に所属し、昨年132勝を挙げた筒井騎手
■筒井騎手について「悔しい思いをしたんで気迫もある」
筒井騎手は静岡県出身で2002年デビュー。1年目は8勝だったが2年目に30勝。10年にはエレーヌとのコンビで半年間に東海ダービーなど全国で重賞8勝の快挙。馬券不正購入事件の余波を受け、21年4月に騎手免許を取り消されて一時引退扱いになっていたが、最高裁で「潔白」が証明された。空白の3年を経て免許を再取得し、24年8月にレース復帰。昨年は自厩舎のミランミランでジュニアグローリー 、イイネイイネイイネで全国重賞くろゆり賞を制覇した。
田口調教師は筒井騎手について「前よりも気持ちが違うと思うんですよね。本人もちょっと悔しい思いをしたんで気迫もあるし、いいんじゃないかな」とレースに挑む姿勢をたたえた。19年に124勝、20年には131勝を挙げてリーディングトップ。昨年はその数字を上回っており勝率20%、連対率は37%にアップ。騎手免許を失うという大きな試練を乗り越えて、騎乗や精神面でも成長を遂げている。インタビューでも明るくにこやかで、ハキハキとした受け答えが好印象である。
ジュニアグローリーを制覇したミランミランと筒井騎手、田口調教師ら
■田口調教師への印象「勝負には厳しいが、義理堅い人」
そんな筒井騎手。師匠である田口調教師の印象を聞くと「義理堅い人ですね、昔から。僕は最初の頃、違う厩舎(原定弘厩舎)でしたが、先生も開業したばっかりでした。隣の厩舎だったんで、いろいろと相談に乗ってもらっていたんですよ」。
「やっぱり勝負には厳しい人ですが、昔ながらの、義理人情じゃないですけど、まあそういう人ですね印象は」
筒井騎手は高木健騎手とともに裁判で勝訴が確定した後、田口厩舎の厩務員として働き、早朝の調教タイムには所属馬の攻め馬にも励んでいた。当時「以前のように田口先生の厩舎ですね」と聞くと「ずっと所属だったんで。処分を受けて裁判中も気に掛けてくださっていて、田口先生から『戻ってこいよ』と言ってもらっていたんで。またリーディングを目指して頑張っていきたい」と騎手復帰を喜んでいた。
■ミツアキタービンは「カリスマ厩務員」が担当
前回、田口厩舎が管理したミツアキタービンでの「フェブラリーS4着」という感動的なレースについてお伝えした。筒井騎手は「調教師として開業当初で、先生もミツアキタービンのときは大変だったと思いますよ。いきなりすごい馬で、結構なプレッシャーだったでしょうが。世話をしていたのは『カリスマ』ともいえる、できる厩務員さんの担当でしたね」と振り返ってくれた。
オグリキャップを育て上げた鷲見昌勇元調教師は「強い馬づくりは、優秀な厩務員の存在が一番」と力説されていたが、かつては厩務員も愛馬たちと厩舎で寝食を共にしていた時代。毎日の世話は大変だったが、厩務員の役割はいま以上に大きく、スターホースを次々と競馬場に送り込んでいたのだ。
LJSザ・ファイナルの表彰式。深沢杏花騎手が総合2位で待望の表彰台に上がった。1位は小笠原羚騎手、3位は佐々木世麗騎手
■深沢騎手について「脚力がついてきた、もっと強引なレースも」
深沢騎手は兵庫県出身で2020年にデビューして6年。1番人気で初勝利が有力だったのに「ゲート事件」(厩務員がゲート内にいるのに発走)があってレースが取りやめになったり、2年目には9カ月間のレース自粛で騎乗できない時期があった。それでも奮起。笠松の女性騎手として、中島広美騎手の通算120勝を上回る155勝を挙げている。笠松のアイドル的存在でもあり「LJSザ・ファイナル」では総合2位に輝き、ジョッキーズ戦で待望の表彰台に上がることができた。
2021年のレース自粛中は所属厩舎が廃業となり、深沢騎手は「このまま競馬場がつぶれたらどうしよう」と感じたこともあった。一連の不祥事の余波で所属厩舎が変更になって、夫婦が元笠松競馬騎手という田口厩舎に移籍。「再開されて良かった。しっかり仕上げてレースで一生懸命乗りたい」と前向きになった。新しい厩舎で競馬ファミリーの一員に加わり、乗っている馬について「今までと馬力がすごく違いますよ。馬群でうまくちゃんと抑えられていないんで、難しいですね」と話し、レースで騎乗できる喜びを感じていた。
深沢騎手の成長面について田口調教師は「まだまだなんだけど、ちょっと脚力もついてきて、下半身も安定してきたんで。あとはもうちょっと強引さとか迫力が出てくると、変わってきてくれるのでは。(レースでは)ちょっと優しいところがあるので、もっと強引にレースをしてもらえるとありがたいかな」とさらなる成長を期待した。普段から体幹などを鍛えており、パワフルさも増してきた。「100勝以下の減量騎手」は卒業し勝ち星は減ったが、きっかけ次第でもっと勝てるジョッキーだと思っている。自信を持ってより積極的なレース運びで勝ち切っていきたい。
笠松の女性騎手として、中島広美騎手の通算120勝を上回る155勝を挙げている深沢杏花騎手。田口厩舎に所属している
■「他厩舎の馬に乗って失敗しても、先生はアドバイスくれる」
深沢騎手にも田口調教師の印象を聞いてみた。「自厩舎じゃなくても、他の厩舎の馬に乗ってちょっと失敗したレースとかでも、先生がちゃんと見てくれていて、アドバイスをしてくれたり。うまく乗った時や勝てた時には『おお、うまく乗ったなあ』と言ってくれます」
「さっき自厩舎の馬で2着といいレースでしたね」と聞くと、意外にも「あれは先生、渋い顔していました」とのことだ。7番人気の馬で好騎乗だったが、先生は見るところが違うのか。同じ自厩舎で岐阜金賞優勝経験があるダルマワンサ(筒井騎手)が6着に敗れたことにがっかりされていたのでは。
田口家の貫太騎手はパパのことを「結構何でもズバズバ言うタイプ」と話していたが「まあ、そうですね」と深沢騎手。「厳しいわけではなく、優しくもないです」とのことだが、勝負に徹して弟子である深沢騎手の成長を願って温かく見守っていることは確かである。
1月はやや出遅れ気味の深沢騎手。2年前には3勝を挙げたが、3年前と昨年は未勝利。今年も勝ち星がなく2着5回。逃げて息切れしたり、差し届かないレースもあって勝利にはあと一歩。惜しいレースが続いている。
2023年2月、JRA騎手試験に合格した田口貫太騎手と元笠松競馬騎手の母・広美さん(右)、父・輝彦調教師
■「元祖・笠松の女性ジョッキー」広美さんが励まし
3年前、貫太君がJRA競馬学校を卒業。ご両親をはじめ、姉や弟も卒業式に駆け付けて祝福した。この頃、深沢騎手は田口厩舎に移籍していたが、厩舎仕事も手伝っている貫太君の母・広美さんは「まさか女の子を面倒見るとは思わなかったが、お父さんに任せっきりです」とのことだった。「元祖・笠松の女性ジョッキー」として、深沢騎手には「勝てない時もあるけど、一つ勝てばポンポンと勝てる」と励ましたそうだ。
貫太君の卒業式当日も、広美さんはスマホで笠松での深沢騎手の成績をチェック。田口厩舎・サンジョノコで新年初勝利を飾り、一安心。フリージアオープンでは6番人気馬マーミンラブで2勝目。いずれも逃げ切りで、広美さんの言う通りポンポンと乗っていくことができた。
金沢でのYJS。返し馬に向かい、遠征先でもにこやかな深沢騎手
■高校生が「笠松競馬の魅力発信」動画、深沢騎手も登場
オグリキャップの聖地として人気の笠松競馬場については、ウマ娘ファンの若者も注目している。岐阜各務野高校情報課3年生の生徒さんが、卒業前の課題研究として「つながるヒトとウマ 笠松競馬」をテーマにした映像コンテンツを制作した。
笠松競馬の魅力発信へ高校生が奮闘。10代の目に映った笠松競馬場の過去と現在が、みずみずしい感性で描かれ、動画の発表会も行われた。笠松競馬の全面協力で場内や厩舎でも密着取材。水野善太調教師は厩務員さんと一緒に登場し「毎日調教し管理して、その馬がレースで勝ってくれることがみんなの喜びだし、一番は無事に帰ってきてほしい。けがをして競走中止になったら悲しいことだから」と語っていた。
そこへ名古屋でのレースを終えたばかりの深沢騎手が厩舎へ駆け付けてくれた。高校生に騎手人生でうれしかったことを問われると「普段から乗っている馬で、ゴール板を1着で駆け抜けた時が一番うれしいです。それと、周りの人に『あのレースおめでとう』『良かったね、頑張ったね』と言ってもらえるのがすごくうれしいです」とにこやか。レース前には「馬のケアは厩務員さんにお願いして、私たちはその馬の過去のレースを見て、どう乗ろうとか考えています」と答えていた。
■「馬は戦友かな。かわいいね」と愛情注ぐ
「馬とはどういう関係になりたいのか」とも聞かれ「もう、おともだちかな。『戦友?』って言っていいのかな。私たちは馬がいないとできない仕事なので。馬は戦友ですよね。かわいいね」。深沢騎手はいつも馬をなでながら、愛情をたっぷりと注いでいる姿が印象的だ。
さらに「笠松は返し馬に行くときにファンの人との距離が近くて、レースも迫力のあるものを届けられるので、それが笠松のいいところですね」と年下の高校生からの質問に対してうれしそうに答えていた。
この映像作品ではハヤヒデも取材を受けており、2004年以降の笠松競馬存廃問題について「全国のファンからの『オグリキャップの聖地をつぶすな』という声や、最後まで諦めない走りで感動を与えた『オグリキャップ精神』といったものが現場にもあって、経費削減を受け入れたから」などと語らせてもらった。
オグリキャップの調教にも乗っていた田口調教師。開業して24年になる厩舎には、冬場でレースがない門別などから全国重賞でも好走できる有力馬が入厩してきた。強い馬づくりへ、田口ファミリーの挑戦は続く。
☆ファンの声を募集
競馬コラム「オグリの里」への感想や要望などをお寄せください。 騎手や競走馬への応援の声などもお願いします。コラムで紹介していきます。
(筆者・ハヤヒデ)電子メール ogurinosato38hayahide@gmail.com までお願いします。
☆最新刊「オグリの里4挑戦編」も好評発売中

「1聖地編」「2新風編」「3熱狂編」に続く第4弾「挑戦編」では、笠松の人馬の全国、中央、海外への挑戦を追った。巻頭で「シンデレラグレイ賞でウマ娘ファン感激」、続いて「地方馬の中央初Vは、笠松の馬だった」を特集。
林秀行(ハヤヒデ)著、A5判カラー、196ページ、1500円(税込み)。岐阜新聞社発行。ふらっと笠松(名鉄笠松駅)、ホース・ファクトリー(ネットショップ)、酒の浪漫亭(同)、岐阜市内・近郊の書店、岐阜新聞社出版室などで発売。岐阜県笠松町のふるさと納税・返礼品にも。









