「パクじぃ」の愛称で親しまれたハクリュウボーイに誘導され、ゴール前に向かうオグリキャップ
「まさか、また走らされるのでは」。暑さのせいか、足取りがやや重いオグリキャップ
多くのファンの前でアンカツさんとも再会。ちょっぴり興奮気味のオグリキャップ

 2010年7月、オグリキャップが天国に旅立ってから、ちょうど7年。笠松競馬場へ最後に雄姿を見せたのは、里帰りした05年4月のことだった。

 「先輩、まだ笠松に居たんですか、元気ですね。ファンも多いし、すごい熱気で暑いですね。昔のように、僕と一緒に走るんですか~」と、キャップはやや重い足取りで、つぶやいているかのようだ。

 キャップの前を歩くのはハクリュウボーイ。「パクじぃ」の愛称で親しまれ、キャップと同じ芦毛馬だった。現役引退後も、競走馬をパドックまで先導する「誘導馬」として活躍。笠松競馬の名脇役ともいえる存在で、全国最高齢の誘導馬としてファンに愛された。

 キャップには、存廃問題で揺れていた笠松競馬復興のために一肌脱いでもらう形で、「オグリキャップ記念」開催に合わせて里帰りしてもらった。2日間にわたって3度のお披露目式。有馬記念を2度制覇した「芦毛の怪物」は雄大な馬体を見せると、2歳年上の「パクじぃ」の誘導に従った。

 現役時代はレースで対戦したこともあり、調教でも顔を合わせていたことだろう。芦毛馬同士で、お互いに見覚えがあったのかもしれない。キャップ20歳、パクじぃは22歳で、馬体は共に真っ白になっていた。風格漂うキャップの迫力に圧倒され、パクじぃは普段よりおとなしかったが、現役誘導馬として活躍中で、若々しくも見えた。

 涼しい北海道・新冠町から馬運車での長旅だったキャップ。この日の岐阜地方の最高気温は29度で、暑さを感じたことだろう。かつて何度も疾走した懐かしいダートコースを、2人がかりで引かれて、大勢のファンの元へ。「おかえり、オグリキャップ」と書かれた肩掛けで、顔の汗を拭いてもらいながらか、パクじぃの後ろをゆっくりと進んだ。

 パクじぃの世話係で、誘導馬騎手の塚本幸典さんも、キャップの方を心配そうに振り返りながら、ゴール前まで先導。ファンで埋まったスタンドでオグリコールが響く中、笠松競馬で主戦騎手だったアンカツさんとも対面したキャップ。「また僕を走らせるんですか」と言わんばかりに興奮気味に、大きく立ち上がる派手なアクションも見せていた。

 「キャップに会いたくて」という7700人のファンが詰め掛け、全レース終了後には、里帰りセレモニーが盛大に行われた。馬主の小栗孝一さん、鷲見昌勇元調教師ら懐かしい顔が勢ぞろい。キャップは笠松競馬復興の救世主としてのオーラを放っており、「よくぞ、来てくれた」との思いを来場者全員が共有した。

 オグリキャップとハクリュウボーイが対戦したのは、1987年12月7日の笠松「師走特別」。当時3歳(現2歳)だったオグリキャップにとっては古馬との初対決。岐阜新聞スポーツ面の笠松競馬予想欄では、オグリキャップが本命印の◎で、ハクリュウボーイは対抗印の○だった。キャップはそれまで9戦7勝2着2回で、5連勝中と抜群の成績。芝コースの中京盃(中京競馬場)でも圧勝し、中央競馬への移籍話も浮上していた。

 キャップは、追い込みタイプだが、素早く好位に取り付く出脚を備えており、距離延長はプラス材料。単勝1.7倍の1番人気でアンカツさんが手綱を取った。一方のハクリュウボーイは3番人気で、ハマちゃん(浜口楠彦騎手)が騎乗。レースをネット動画で振り返ってみると、ハクリュウボーイは典型的な逃げ馬で、この日も気持ち良く先行したが、3~4コーナーで一気に詰め寄ったキャップの追撃に屈した。最後の直線でも末脚を伸ばしたキャップは、2着ヤングオージャに6馬身差をつけて完勝。ハクリュウボーイは見せ場たっぷりの5着だった。

 デビューした年に古馬と対戦し、あっさりと撃破した。中央競馬では、この時期の古馬戦は考えられないことだ。キャップにとってこの経験は、中央入り後に大いに生かされた。同世代との対戦でペガサスSから重賞4連勝。古馬相手でも気後れすることなく、高松宮杯、毎日王冠と連勝を伸ばしていった。

 笠松・師走特別での1600メートル戦は、最も得意とした距離で、中央移籍後もマイルCSや安田記念を制覇した。笠松でのハクリュウボーイらとの一戦は、中央移籍後の快進撃を予感させるレースとなった。