パドック前で深沢杏花騎手(中央)と関本玲花騎手(右)

 笠松競馬場でも地方、中央の女性ジョッキーの騎乗が増えてきた。この冬、場内には応援するファンらの横断幕も並び、華やかで明るい雰囲気が漂っている。
 
 地元の深沢杏花騎手(21)は、2月前半戦でオープン勝ちを含め2勝を飾った。岩手から期間限定騎乗の関本玲花騎手(22)は1月に2勝。JRA勢では、今村聖奈騎手(19)=栗東=が笠松初騎乗Vの快挙。永島まなみ騎手(20)=栗東=もJRA交流参戦。名古屋勢では宮下瞳騎手(45)がママさんパワーを発揮し、けがから復帰した木之前葵騎手(29)も元気な姿を見せている。
                 

昨秋のヤングジョッキーズ笠松ラウンドに騎乗した深沢騎手 

 ■深沢騎手、トンネル抜けて今年初V

 昨年、48勝を挙げて成長が目立った深沢杏花騎手だが、今年は1カ月以上も勝てない日々が続いた。睦月シリーズ最終日には、単勝1.6倍のスカイクリアーで快調な逃げ。レース映像を見ていて「やっと勝てたな」と思っていたら、ゴール寸前で差し切りを許してハナ差負け。「2着は悔しいですよ」という深沢騎手だが、勝たれた相手が教養センターで後輩だった長江慶悟騎手だけに、杏花ファンは「まさか、慶悟君にやられるとは」との思いもあっただろう。

 オマタセシマシタが初勝利を飾った日、パドック前のスタンドでは「深沢騎手推し」の女性ファンが横断幕を掲げ、姫路市出身・深沢騎手のお母さんも応援に駆け付けていた。競泳で鍛えた身体能力が高い深沢騎手。「彼女はもっと成長するし、上達しますよ。今年はもっと勝てますよ」と応援団に声を掛けた。昨年、年間最多勝記録を更新した渡辺竜也騎手でさえ、春には一時45レースも勝てない時期があった。1カ月未勝利でもどうってことはない。地方通算74勝で、今年は100勝達成が目標になりそうだ。

 深沢騎手が今年初Vを飾ったのは2月7日のC級セレクション。所属する田口輝彦厩舎のサンジョノコで、1番人気に応えて逃げ切り勝ち。今年52戦目で、長かったトンネルを抜けることができた。この日は、田口調教師の長男・貫太さん(19)がJRA騎手試験に合格。お母さんは笠松・元祖女性ジョッキーの広美さん(旧姓中島)。貫太さんの卒業式後も深沢騎手の今年初Vを願っていたが、田口厩舎の馬で「深沢V」の朗報が届き、おめでたい一日となった。

マーミンラブに騎乗し、オープン勝ちを飾った深沢騎手(笠松競馬提供)

 ■最高のパフォーマンスでオープン初Ⅴ

 深沢騎手は10日のメイン「フリージアオープン」(A1特別)では6番人気・マーミンラブ(牝4歳、栗本陽一厩舎)で逃げ切った。名古屋勢3頭が強力で、岡部誠騎手のメイショウシルトが断トツの1番人気。笠松勢も渡辺竜也騎手や向山牧騎手ら名手が騎乗しており、ハイレベルな一戦となった。

 1600メートル戦でスタートダッシュを決めると、重馬場で軽快な逃げ。4コーナーでは2番手・ヒロシゲウェーヴ=加藤聡一騎手=に並ばれ、先頭を譲りかけたが、最後の直線のたたき合いを制してクビ差で勝利。最高のパフォーマンスでうれしいオープン初勝利となった。1着賞金は170万円で、かつての水準へと改善傾向にある。

 騎乗したマーミンラブは吉田勝利オーナーの持ち馬で、金沢から転入4戦目。深沢騎手は初騎乗だったが、8頭中唯一の牝馬で、負担重量は6~7キロ軽い「恩恵」もあって、終盤失速することなく逃げ切ることができた。前走で重賞・白銀争覇(9着)を経験したこともプラスに働いた。陣営も「オープンで簡単に行かせてもらえないのでは」と苦戦覚悟だったが、深沢騎手の好騎乗で、ゴール前では力強く突き抜けた。

人気馬ナラとのコンビで主戦の深沢騎手

 ■地元・姫路でナラに騎乗しリフレッシュ

 深沢騎手といえば、全国の重賞戦線を駆け巡るナラ(牝7歳、伊藤勝好厩舎)とのコンビでも注目されている。2月2日には姫路競馬場の重賞「白鷺賞」に騎乗。中央から佐賀に移籍したヒストリーメイカーが勝ったレース。ナラは11着に終わり、2000メートルは長かったが「ローテはきつくても、行きたがっていて元気いっぱい。距離に不安はあったが、スムーズに走ってくれた」とのこと。トウホクビジン、タッチデュールからの流れを受け継ぐ「鉄の女」として、全国にファンも多い。深沢騎手にとっては、出身地・姫路でリフレッシュできて、笠松での勝利につなげることができた。オープン勝ちを弾みに、若手の東川慎騎手や長江騎手が達成していない「重賞V」を目指していきたい。

名古屋のモンチに騎乗。笠松での期間限定騎乗で2勝目を飾った関本玲花騎手(笠松競馬提供)

 ■関本騎手、豪快に差し切って2日連続勝利

 関本玲花騎手は、2020年の期間限定騎乗では、名古屋を含め5勝を挙げた。ツイッター上では「玲花おじさん」を名乗るファンたちも出現。笠松初勝利などでセレモニーが3度も開かれるなど、笠松競馬を盛り上げてくれた。一昨年は競馬場の不祥事でレース自粛が続き、攻め馬だけで岩手に戻った。

 3年ぶりに笠松のレース騎乗。1月23、24日にいずれも名古屋・沖田明子厩舎の馬で勝った。1勝目はハーランズセンスで6番手から青柳正義騎手を、2勝目はモンチで7番手から長江慶悟騎手をともにクビ差で豪快に差し切った。

 笠松滞在は1カ月間だったが、今回は無事にレースを終えた。お別れセレモニーでは「短い期間でしたが、応援ありがとうございました。久々の笠松競馬場でいい勉強をさせてもらい、二つ勝たせていただき良かったです。水沢に帰ってからも応援してください」とファンに感謝。3月11日からの水沢開催に向けて調教に励み、レースに備える。
 

モズスナイパーに騎乗し、笠松初騎乗Ⅴを決めた今村聖奈騎手 

 ■今村騎手は笠松初騎乗Ⅴ、名古屋でも勝ち地方3連勝

 JRA女性ジョッキーでデビュー2年目の今村聖奈騎手は1月25日、笠松競馬のJRA交流戦「若松特別」で笠松初騎乗Ⅴを飾った。師匠である寺島良調教師は岐阜県北方町出身。吉田オーナーの持ち馬ミスマンマミーアが寺島厩舎在籍時は、今村騎手はトレセン研修の調教で騎乗し、ファンだったそうだ。今回、いきなりの「笠松V」はやはり岐阜とのゆかりの深さが感じられた。

 今村騎手は昨年7月のCBC賞(小倉)で重賞初騎乗Ⅴを飾るなど活躍。女性騎手最多の年間51勝を挙げ、JRAの最多勝利新人騎手賞を受賞した。

 笠松のレース前日には高知競馬で東川慎騎手、岩本怜騎手(笠松で期間限定騎乗)らと全日本新人王争覇に参戦した(6着、11着)。降雪の影響で移動に苦労したが、無事笠松入り。「若松特別」(1400メートル)で2番人気のモズスナイパー(牡3歳、村山明厩舎)に騎乗。好スタートを切り、2番手から2コーナーでは渡辺竜也騎手騎乗のムギコをかわして先頭に立つと華麗な逃げ。最後はメイショウゴルシ=富田暁騎手=に2馬身半差をつけて押し切った。3着はベントディパーチェ=角田大河騎手=。 

レース後「笠松は乗りやすく、また来たい」と語った今村騎手

 ■「すごく乗りやすい競馬場。機会があればまた来たい」

 笠松初Vをあっさり達成した今村騎手。装鞍所前では優勝馬モズスナイパーとの口取り写真の撮影も行われ、歓喜に浸った。村山明調教師の姿もあったが、4年前には藤田菜七子騎手=美浦=も村山厩舎のヒマリチャンで笠松デビュー。「菜七子フィーバー」に包まれた。「つくし賞」5着のレース後、藤田騎手は笠松競馬場の印象について「パドックが内馬場にあったり、ゲート近くを電車が通ったりして驚きました」と話していた。

 今回も村山厩舎は「女性騎手の軽量を生かして」と挑み、モズスナイパーは待望の初勝利。今村騎手は「初めての競馬場だったんですが、笠松はすごく乗りやすい競馬場でした。いい馬に乗せてもらって、スピードを生かしたレースができた。機会があればまた来たい」と好印象を持った様子。観戦したファンは「よく粘って逃げ切った。彼女は格好良かった」「中央の若手騎手がワンツースリーで実力をつけてきた」とたたえた。降雪の影響で、高知→栗東→笠松と強行軍になって大変だったが、勝利のメッセージを頂けて良かった。
 
 今村騎手はこの後、佐賀、名古屋でも勝利を飾って地方競馬3連勝。15日・名古屋ではJRA交流戦・ストロベリー賞で、ジークシュベルトに騎乗し1着。今村騎手は先手を奪って、永島まなみ騎手の追撃を振り切った。JRA女性騎手2人がワンツーを決め、今村騎手は今年10勝目(JRA7勝、地方3勝)と2年目も波に乗っている。

 ■永島まなみ騎手は地方交流トップの4勝

 笠松・若松特別には永島まなみ騎手も参戦。シゲルスゴウデに騎乗して6着。今年の地方競馬では佐賀、船橋、名古屋、姫路で計4勝を挙げ、JRA騎手トップの成績。 昨年11月、笠松でのヤングジョッキーズ戦では東川慎騎手に続いて2着。長江慶悟騎手が勝ったレースでは3着。通算40勝(中央31勝、地方9勝)で着実に成績アップ。「地方交流クイーン」として、笠松での騎乗も増えそうだ。
 

笠松でも「格好いいママ」の姿を見せている宮下瞳騎手(笠松競馬提供)

 ■宮下騎手「格好いいママ」の姿、木之前騎手も笠松参戦

 騎乗数は少ないが、名古屋の宮下瞳騎手と木之前葵騎手も笠松に参戦している。宮下騎手は栗本陽一厩舎の馬への騎乗が目立ち、勝利には届かないが、3着ぐらいにまとめるレースが多い。パドックから存在感は抜群で、女性初の通算1100勝ジョッキーとして「レジェンド級」の輝きを放ち、息子たち2人に「格好いいママ」の姿を見せている。

 木之前葵騎手は鎖骨骨折で3カ月近く戦列を離脱していたが、1月末に復帰した。今年はまだ1勝だけだが、地方通算500勝に「あと1勝」と迫っている。2月7日には笠松参戦。名古屋のハーランズセンスで6着だったが、3コーナーでは2番手に上がり、ゴール前では深沢騎手のミスシャーロックと競り合うなど、見せ場はつくった。まずは笠松戦にも復帰で、葵ちゃんファンを安心させた。
 
 地方競馬のレディースジョッキーズシリーズは盛岡戦を終えて関本騎手がトップで、深沢騎手は7位。3月2日の川崎戦で優勝者が決まる。

優秀表彰を受け、笑顔の笹野博司調教師(右)と渡辺竜也騎手の師弟コンビ

 ■笹野調教師&渡辺騎手の師弟コンビら優秀表彰

 笠松競馬の2022年「騎手等成績優秀者表彰」が行われ、笹野博司調教師と渡辺竜也騎手の師弟コンビら厩舎関係者4人と、重賞勝ちなどの競走馬2頭の活躍や貢献がたたえられた。
 
 優秀調教師には、自身の笠松歴代最多勝記録を更新して170勝を挙げた笹野博司調教師が選出され、栄誉を受けた。受賞は4回目。笠松最多タイとなる7年連続の調教師リーディングの快挙も達成。全国リーディングでは全国2位に躍進。昨年9月にはアリオンダンスで地方通算1100勝も達成。重賞は2月にスタンサンセイでウインター争覇を制した。今年は「全国調教師リーディングと、全国で活躍できる馬づくり」を目指している。

 優秀騎手は、デビューして6年目の渡辺竜也騎手が初受賞。川原正一騎手の記録を上回る笠松歴代最多勝の164勝を挙げ、初めての騎手リーディングを獲得した。1日6勝、1開催16勝を挙げるなど白星を量産。昨年9月には地方通算500勝も達成。全国リーディング10位に躍進した。重賞勝ちは金沢・MRO金賞(イイネイイネイイネ)で通算6勝目。年明けには名古屋の4歳馬メルトに騎乗し、名古屋記念を制覇。各地ジョッキーズ戦での活躍も期待されている。渡辺騎手は「頑張りますので、応援よろしくお願いします」とファンに呼び掛け。今年も師弟コンビの笑顔がいっぱい見られそうだ。
 
 優秀厩務員には2人。加藤幸保厩舎所属の渡辺聖嗣厩務員、森山英雄厩舎所属の小沢健介厩務員が受賞。競走馬育成に尽力され、長年の貢献がたたえられた。

3歳最優秀馬・イイネイイネイイネの馬主・吉田勝利さん(左)と、2歳最優秀馬セイジグラットの馬主・金田成貴さん

 ■2歳最優秀馬にセイジグラット、3歳最優秀馬にイイネイイネイイネ

 
 競走馬では、2歳最優秀馬にセイジグラット(牡、後藤佑耶厩舎)、3歳最優秀馬にイイネイイネイイネ(牡、田口輝彦厩舎)が選出され、表彰を受けた。

 セイジグラットは渡辺騎手の騎乗で準重賞・ジュニアキングや木の葉特別を制覇した。2月からJRA(美浦・天間昭一厩舎)へ移籍した。
 
 イイネイイネイイネも渡辺騎手の騎乗で金沢・MRO金賞や名古屋・霜月昇竜戦を制覇。東海3冠レースは駿蹄賞と東海ダービーが2着、岐阜金賞は3着。笠松の年度代表馬といえる活躍を見せた。2月23日の「ウインター争覇」に出走予定で、重賞戦線での飛躍が期待されている。
 
 セイジグラットの馬主・金田成貴さん、イイネイイネイイネの馬主・吉田勝利さんがウイナーズサークルで表彰状などを受け、活躍がたたえられた。最後は笑顔で、さらなるスターホースづくりを誓っていただけた。

23日に協賛レースが開かれ、出版される「オグリの里・聖地編」

 ■「オグリの里・聖地編」を出版、23日に協賛レース

 日本競馬界最大のヒーロー・オグリキャップを生んだ笠松競馬場から愛を込めて。笠松競馬にスポットを当てて、2016年3月から岐阜新聞Webで連載している「オグリの里」を書籍で再録しシリーズ化。笠松競馬を熱く応援するファンはもちろん、聖地巡礼のウマ娘ファンにも笠松競馬の魅力をもっと知ってもらおうと、第1巻・聖地編が出版される(岐阜新聞社発行)。

 2月23日(祝)の笠松競馬3Rで、協賛レースとして「オグリの里・聖地編出版記念」を開催。人気馬・オマタセシマシタも出走を予定しており、注目の一戦となりそうだ。

 地方・笠松競馬場からJRAのステージに駆け上がったオグリキャップ。ラストラン有馬記念Vでの伝説の「オグリコール」は永遠の響きとなって、日本の競馬史上でも最高の名場面として語り継がれ、ファンの胸を熱くしてきた。正門横でファンを出迎えてくれるオグリキャップ像は、存続を支える「笠松競馬の守り神」であり、勇気と元気を生むパワースポットでもある。

 第1巻では「ウマ娘シンデレラグレイ賞」で盛り上がった笠松競馬の現在地を振り返り、ゲートオープン。オグリキャップ初代オーナー・小栗孝一さんが、オグリ一族に懸けた夢へとタイムスリップする。

 「オグリの里・聖地編」はA5判(カラー)、200ページ、1300円。問い合わせは岐阜新聞情報センター出版室、電話058(264)1620=月~金(祝日除く)9~17時=、または090(5118)6472。23日の協賛レース当日、笠松競馬場内で先行販売される。