岐阜バスで利用できるICカード乗車券アユカ。住民の暮らしにすっかり定着した=羽島郡岐南町

 「他のカードも使えたら便利なのに」。ICカード乗車券が普及し、全国の公共交通機関を1種類のカードで利用できるようになって久しい中、岐阜市やその近郊を走る「岐阜バス」の路線バスで使えるカードが「ayuca(アユカ)」だけなのはなぜ-。そんな疑問が「岐阜新聞 あなた発!トクダネ取材班」に届いた。運営する岐阜乗合自動車(岐阜市九重町)に尋ねると、ICカード乗車券における“先駆者”ならではの苦悩があった。

 JR東海の「TOICA(トイカ)」、名鉄や名古屋市営地下鉄で使える「manaca(マナカ)」など、運賃の支払いに加え、チャージ金額を普段の買い物にも使える電子マネー機能が付いているICカード乗車券。2013年に全国10のカードを相互に利用できるサービスが始まり、トイカやマナカが東海圏以外でも使えるようになった。

 アユカが導入されたのは06年。相互利用サービスが始まる前の全国でも比較的早い時期で、東海3県のバス会社では初めてだった。当時設置した約320台の運賃箱はアユカ専用で相互利用には対応しておらず、電子マネー機能もない。

 「要望はお客さまからはもちろん、乗務員からも上がっている。導入すれば確かに使い勝手は良くなる」と話すのは、岐阜乗合自動車の武藤行儀専務。観光客にとっては普段使うカードで支払えて、地元客はカードを1枚にまとめられる。だが、更新には億単位の投資が必要になるという。

 岐阜市が今月1日開会した市議会定例会に、路線バス利用環境整備事業として2100万円を計上する補正予算案を提出するなど、地元行政からの期待も大きい。市はシステムの導入を見据えて、まずは34両分の運賃箱の改修などに充ててもらいたい考えだ。

 ただ、武藤専務は「あくまでも現状では検討の段階」と強調する。新型コロナウイルスの影響で収益が落ち込む中で投資計画の見直しを迫られており、仮に他のカードを使えるようにすることが決まっても、ソフト開発や試験に3、4年を要するといい、ハードルは高い。

 一方、年間輸送人員約1700万人のうち3分の2がアユカで運賃を支払っており、発行枚数の累計が約30万枚に上るなどすっかり定着してきた。そのため、アユカを廃止して全国で使える他のカードに切り替える選択肢はないという。

 アユカならではの機能もある。岐阜市が70歳以上の市民らを対象に交付している「高齢者おでかけバスカード」だ。デザインは異なるがアユカと同じように使えるカードが3千円をチャージされた状態で渡され、使い切った後も終日2割引で乗車できる特典が付く。JR岐阜駅前のターミナルでバスを待っていた市内在住の80代女性は「行き先は片道800円。割引はありがたい」と話していた。

 「こうした小回りの利いた、地域独自のサービスができるのがアユカの良さ」と武藤専務。「利用客の希望により応えられるよう模索しながら、地域の足を守っていきたい」と語った。