笠松8Rで1~5着が枠順通りに並んだ着順掲示板。さらにミラクルな全着順となった(笠松競馬ライブ配信提供)

 「1、2、3…8、これは美しい」「奇跡かよ、珍しすぎる」。笠松競馬オグリキャップ記念シリーズの後半戦。重賞レースもなく平穏だったが、最終日に日本の競馬史を揺るがす珍事が発生。ライブ中継のネット越しやツイッター上の速報でも、目の肥えた競馬ファンを驚かせた。

8頭が枠順通りに1~8着となった笠松8Rのレース結果

  5月12日、笠松競馬8Rは8頭立て1400メートル戦(A3組・稲葉山特別)。競馬専門紙には「小波乱」とあったが、終わってみれば1→3→4番人気での順当な結果になった。ところが、その全着順が発表されると全国の競馬ファンもびっくり。1着から8着までの着順が、枠順通りに数字がストレートに並ぶ決着となったのだ。「枠順表ではなく、着順表なのね」との声も上がった。

  地方、中央競馬を通しても、記録にも記憶にもない超レアなレース結果だった(1986年以降)。「オグリの里」の珍事ネタでは、これまで「3頭立てレース」や「初勝利の『セン馬』は『牡馬』だった」があるが、今回のレースも笠松競馬史を彩る1ページに加えたい。

大畑雅章騎手騎乗のヴァーツラフを先頭にゴールを目指す8頭。枠順通り1~8着で入線した(笠松競馬ライブ配信提供)

■最低人気・ツクバキセキが5着に突っ込み、ミラクル呼ぶ

 レースには名古屋から2頭、笠松から6頭が参戦し、森山英雄厩舎は4頭出しだった。大畑雅章騎手騎乗の1番人気・ヴァーツラフ(牡6歳)が逃げて押し切った。2着と3着はハナ差で、4着とはクビ差。長江慶悟騎手騎乗の最低人気・ツクバキセキが後方から5着に突っ込み、ミラクルを呼んだ。

 全馬ゴール後、清流ビジュンの着順掲示板には1~5着の着順が左から「1、2、3、4、5」と点灯。これだけでも珍しいことだが、レースが確定して全着順が発表されると「掲示板外も枠順通りだったのか」とネット上でも驚きが広がった。笠松競馬金曜日ライブでは「内から順じゃないですか」と実況アナウンサーの百瀬和己さん。この後、痛快な結末が明らかになったのだ。

 「笠松8R、枠順通りに決着」。国内最大級の競馬情報サイト「netkeiba」で速報されると、ファンの書き込みが相次いだ。その後の白毛馬ソダシが2着に惜敗したGⅠ・ヴィクトリアマイルをはるかに上回る注目度となった。

8R、パドック前で整列したジョッキー8人。ミラクルな結末となった(笠松競馬ライブ配信提供)

■確率的には4万320分の1「一気通貫。気持ちが良い」

 8頭立てで枠順通りに決まるのは、確率的には4万320分の1。笠松では年間約1000レース行われるが、8頭立ては1日2レースほど。宝くじのナンバーズ4(ストレート)なら当たる確率は1万分の1だが、競馬で8頭が枠順通りストレートに決まる可能性は極めて低いといえる。

 タイムは1分28秒7(良馬場)で速かった。先行有利な馬場で好タイムが出やすく、内枠ほど有利になった。ツイッター上のファンの声をさらに拾ってみると。
 「一気通貫。着順・枠・馬番がきれいに並んでいて気持ちが良い」
 
 「2番人気の6番が6着に沈んでいるのがファインプレーすぎる」

 「頑張ったね8番人気。ツクバキセキが奇跡をもたらした」
 
 レースで不祥事が相次いだ笠松競馬だけに「何が起きたんですかね(笑い)」といった声も。

2020年2月8日、佐賀3Rの成績。9頭立てで9→1と枠番の逆順で決着した

■佐賀の9頭立てでは、9→1と枠番の逆順で決着

 netkeibaによると「1986年以降、JRAで枠順通りの決着となったのは3回。7頭立ての1998年10月18日・東京6Rで1~7着が枠順通りに決まった。このほか6頭立ての86年8月30日・小倉1R、5頭立ての86年9月27日・福島1Rでも。8頭以上では該当なし」。多頭数のレースが多い中央では8頭立てが少なく、達成はほぼ不可能のようだ。

 地方競馬では笠松の逆バージョンの記録があった。2020年2月8日、佐賀3Rは9頭立てだったが、9→1と枠番の逆順で決着していた。これはこれですごい結果である。
 
 笠松では稲葉山特別での珍事だったが、稲葉山は金華山の旧称。漫画「ウマ娘シンデレラグレイ」でオグリキャップがトレーニングを行った場所でもあり、何か奇跡を呼ぶパワーが舞い降りてきたのか。眼下の長良川では鵜飼開き(5月11日夜)もあって、かがり火特別など岐阜の観光をアピールするレース名が多かった。

笠松競馬場デビューを果たした守永真彩さん。レースを楽しみ、「オグリの里・聖地編」も手にしていただいた

■守永真彩さん「来ちゃいました笠松競馬場」着順通りのレースも目撃

 この日は、グリーンチャンネルなどでおなじみの人気タレント・守永真彩さんが笠松競馬場に来場。「地方競馬全場制覇」が今年中の目標だそうで、自らのツイッターで「来ちゃいました笠松競馬場」とコメントを寄せていた。

 7Rで加藤幸保調教師が「地方通算1200勝」を達成。守永さんは「区切りの瞬間を観戦できました。おめでとうございます」と祝福。続く8Rでは「言われて気づいたのだけど、なんと8着まで全着順、番号通りでした」と貴重なレースを目撃。笠松デビューを果たしサプライズの聖地降臨に、ジョッキーたちはより熱いバトルを繰り広げ、ミラクルを引き起こしたかのようだった。

 場内の丸金食堂では「チョコバナナ」を買い求めて「かわいい」と競馬場グルメも堪能された守永さん。レースの合間には生ビールを手に「競馬場で飲むビールは、いつもよりおいしく感じる」とも。のどかな景観が広がる笠松競馬場で生観戦する楽しさをアピールしていただけた。
 
 ゴール前では「SNSを見て来ちゃいました」という女性ファンもいて、にこやかに交流の輪ができていた。内馬場パドックが珍しい笠松競馬場の印象を守永さんに聞いてみると「パドックはよく見ていませんでしたが、美しいです。アットホームな感じですね」と爽やかな笑顔。「馬券は当たっていないですけど」とのことだったが、笠松競馬場での午後のひとときを満喫していただけた。来場記念に「オグリの里・聖地編」をプレゼントできて良かった。

佐々木朗希投手そっくりさんの長江慶悟騎手。テレビ番組に出演した

■長江騎手、「そっくりさん」で全国デビュー

 プロ野球・ロッテの佐々木朗希投手のそっくりさんとして知られる笠松競馬の長江慶悟騎手(23)が5月6日、テレビ番組に出演した。東海テレビ=フジ系列=特番で「顔だけそっくりさんNo.1決定戦」のコーナー。いつもの勝負服ではなく、野球のユニホーム姿で全国デビューを果たしたのだ。

 長江騎手は笠松3年目のホープで、中学時代は野球部に所属していた。昨年11月、ヤングジョッキーズシリーズ笠松ラウンドで1着になるなど活躍。レース後には、野球ファンの報道陣からロッテのユニホーム(レプリカ)をプレゼントされ、コスプレの乗りで佐々木投手の投球フォームや完全試合後のポーズも披露。「オグリの里」でも詳しく伝えた。

 番組表に「佐々木朗希」とあり「「長江騎手が登場するのでは」と笠松競馬ファンも注目。プロ野球選手では大谷翔平選手、牧秀悟選手らのそっくりさんとともに出演した。
 
 千葉ロッテマリーンズの広報さんには「佐々木投手によく似た騎手が笠松にいます」とメールが送られ、イベントや始球式などでの登場も期待。「オグリの里」の記事とともに、長江騎手の存在がアピールされていた。そんな経緯もあって、テレビ局からオファーを受けた長江騎手。4月初めに番組収録があった。

笠松でもユニホーム姿で投球フォームを披露した長江騎手

■「いつかロッテ戦の始球式に登板できたら」

 「165キロ投げられない佐々木朗希」として、プロ野球選手らの顔そっくりさんが登場したコーナーで、待望の「テレビ登板」となった。「投球フォームは以前、練習したことがあります」と佐々木投手が脚を高く上げるまねを堂々と披露。残念ながら勝ち抜いて「勝利投手」にはなれなかったが、「岐阜の佐々木朗希」を全国にアピールできた。

 笠松でのレース後「どうだった?」と長江騎手を直撃すると「まあまあですね。WBCがあったんで、その(ジャンパンの)ユニホーム姿でした。自己紹介で職業(笠松競馬の騎手)を聞かれたり、投げるまねもしましたが一部カットされていました」。

 画面越しの長江騎手は、メークで普段とちょっと違う感じだった。佐々木投手により近づこうと、目をやや細めていたように見えた。本人は「普段生活しているときの方が、多分似ているのでは。かしこまってメークとかで作っちゃうと駄目なんですよ。真正面より横顔の方が似てる気がします」とちょっぴり悔しさも。

 全国デビューの第一歩となり「これを足掛かりに始球式にも登板してほしいという笠松ファンの声も大きいよ」と伝えると、「またチャンスがあるかも。次は違う局でリベンジしたいし、いつかはプロ野球の始球式に出たいです。バンテリンドームでのロッテ戦の始球式に登板できたら最高ですね」と目を輝かせていた。

 もちろん本業の競馬で腕を磨いて、今度は「笠松でジョッキーをやっている長江さん」とちゃんと紹介してもらえるよう、頑張っていく決意である。

オグリキャップの孫娘レディアイコ。北海道の引退馬牧場でのんびりと過ごしている「(Yogiboヴェルサイユリゾートファーム提供)

■オグリ孫娘のレディアイコ、放牧でのんびり

 オグリキャップの孫娘レディアイコ。昨年1月、盛岡から笠松に移籍。2戦後、脚のけがで引退したが、朝の攻め馬は長江騎手が担当していた。現在は北海道・日高町の引退馬牧場「Yogiboヴェルサイユリゾートファーム」で元気に暮らしている。同じ佐藤牧場の生産馬で大先輩のエンパイアペガサスも引退後はヴェルサイユに在籍しているつながりで、レディアイコもお世話になっており、牧場に近況を聞いた。

 レディアイコは毎日、昼夜放牧で仲間と一緒に、ほぼ一日外でのんびりと過ごしている。オグリキャップの血統を継承する母馬としての期待もあったが、体が小さいため、繁殖馬入りはできなかった。まだ5歳と若く、将来的には「乗馬」への道を歩んでいく可能性もあるそうだ。
 
 脚元はもう大丈夫で、元気に走り回っている毎日。放牧地に「ビーズソファ」をたまたま置いてみたら、とりこになったそうだ。ゴロンと横になって寝息を立てたりして気持ち良さそうだったという。ユーチューブで動画が投稿され「かわいらしいお姿で癒やされます」と好評だ。寝そべりを2回体験したが、牧場では「愛くるしい表情と優しい性格で、みんなに愛されるまだまだ若い女の子です」と大切に育てており、見学者の人気を集めている。Yogibo(ヨギボー)は引退馬を支援する冠スポンサー。なんといってもオグリキャップの貴重な孫娘。レディアイコのセカンドライフでの幸せを願っていきたい。

渡辺竜也騎手とのコンビで活躍したイイネイイネイイネ。笠松から中央に移籍し、成長が期待されている

■イイネイイネイイネは中央へチャレンジ

 東海ダービー2着馬のイイネイイネイイネは、笠松からJRAに移籍した。昨年末、川原正一騎手を迎えて東海ゴールドカップで果敢に逃げたが5着。今年は主戦の渡辺竜也騎手騎乗でウインター争覇2着、マーチカップ5着。新たな適性を求めて、中央へのチャレンジとなった。

 5月13日・京都の上賀茂ステークス(16頭立て、ダート1800メートル)。イイネイイネイイネには笠松競馬出身の柴山雄一騎手が騎乗。新コースで中団につけてよく踏ん張っていたが、最後は伸び切れず12着に終わった。16番人気だったが、まずは無事に駆け抜けてくれた。

 吉田勝利オーナーは「まだトモの弱さなど改善の余地がある中でも、競馬ができていたのは収穫。スタートから道中はしっかり馬群に取り付き、自分でハミをとっていった。着順よりも未来のある競馬でハッピーな気分になりました」とコメントを寄せていた。笠松から重賞馬が中央に挑戦。夢があることで今後も応援していきたいし、広い馬場で大きく羽ばたいてほしいものだ。