循環器内科医 上野勝己氏

 新型コロナウイルスの猛威に対して岐阜県をはじめ全国で緊急事態宣言が出されました。すでに報道されているように、高齢者は死亡率が高いこと、また重症化率が高いことが分かっています。適切な治療薬もワクチンも無い以上、この病気から身を守る方法は、今のところウイルスとの接触を避けることしかありません。従って、若い人はもちろんのことですが、とりわけ中高年はできるだけ外出をせず家にいること、"自主隔離"が求められています。

 高齢者の自主隔離を支援するためのさまざまな制度が利用できるようになりました。その一つにオンライン診療(電話診療)があります。高齢者の多くは慢性疾患で薬を飲んでいますが、定期的に医療機関に薬を取りに行かなければなりませんでした。特例を除いて医療機関側も必ず患者と対面しなければ処方箋を発行できませんでした。感染拡大防止に伴って今回、電話で主治医が患者の状態を確認すれば(インターネットは必要ありません)、処方箋を、患者の最寄りの調剤薬局に病院から直接ファクスできるようになりました。患者は薬局に電話して薬が出来上がった頃に受け取りに行けばよいのです。これによって医療機関と調剤薬局での「3密」を避け、外出の機会を減らすことができます。

 さて、自主隔離に伴う二つの大きな問題があります。その一つが運動不足による筋力低下です。筋肉は筋線維が束になっていますが、筋力低下には二つのタイプがあります。加齢によって筋線維そのものが少なくなるもの(サルコペニア)と、運動不足によって筋線維の数は十分にあっても一本一本の筋線維がやせて細くなり力が出せなくなるもの(廃用性筋萎縮)の二つです。両者が合わさると、生活機能の維持ができなくなることがあります。高齢で骨折して入院してしまうと本来のサルコペニアの状態に加えて、廃用性筋萎縮が合併して寝たきりになってしまうのがその一例です。このサルコペニアは40歳ごろから始まっています。従って特に中高年では今回の自宅待機で運動不足にならないようにすることが大切です。しかし感染のリスクがあるスポーツジムに行くことはお勧めできません。家の近くを30分程度散歩することや、座っても立ってもできるNHKのテレビ体操は毎日定時に放送されるため、後述する生活リズムを作るためにもお勧めです。

 もう一つが心の問題です。各年齢層、家族構成によって自宅待機のストレスはそれぞれ異なると考えられますが、全年齢層に共通して大切な心の健康維持のこつは、日常の生活リズムを乱さないことです。心穏やかに過ごすために役立っている重要な脳のメカニズムの一つが"体内時計"であり、日常を規則正しく過ごすことでこの"時計"がスムーズに働くのです。そのための自己管理術として、次のことが勧められています。①毎日同じ時間に起床して同じ時間に床に入る②一定時間屋外で過ごす、特に朝の光を浴びる③外出できなければ2時間は窓際で日の光を浴びる④在宅の仕事などは毎日同じ時間にする⑤同じ時間に運動をする⑥同じ時間に食事をする⑦誰かと電話などで話す時間を作る⑧日中の昼寝は避ける(日本うつ病学会のホームページに掲載された国際学会からの提言による)

 これらの項目は、禅の修行僧が規則正しい生活をする姿が連想されます。精神医学的にみても心の平穏を得る方法のようです。むしろ、今回のことは健康寿命を延ばすために良い機会を与えられたと前向きに考え、この非常事態を乗り切っていきましょう。

(松波総合病院心臓疾患センター長、羽島郡笠松町田代)