消化器内科医 加藤則廣氏

 健康診断や人間ドックなどで、肝機能検査項目のアルカリフォスファターゼ(ALP)やγ(ガンマ)-グルタミルトランスフェラーゼ(γGTP)の高値を指摘されて心配されている方もいらっしゃると思います。一方で、単なるお酒の飲み過ぎだと思って放置される方も少なくないと思いますが、初期の原発性胆汁性胆管炎(PBC)と呼ばれる病気の可能性もあります。今回は原発性胆汁性胆管炎について説明します。

 これまでは病気が進行して肝硬変になってから診断されることが多かったため、原発性胆汁性肝硬変と呼ばれていました。しかし最近は早く診断がついて肝硬変になる患者さんが少なくなってきましたので、2016年から原発性胆汁性胆管炎と病名が変更されました。患者さんは50代から60代の女性に多くみられ、厚生労働省の指定難病の一つになっています。最新の調査結果では患者さんの数は全国で約3万7千人みられます。

 原発性胆汁性胆管炎は、肝臓で作られる消化液である胆汁が肝臓にうっ滞する慢性の進行性の疾患です。胆汁は肝細胞で作られ、肝臓内の毛細胆管や小葉間胆管などの肝内の小型胆管から総肝管に集められて、胆嚢(のう)内で濃縮され、食事の際に総胆管を通って十二指腸に流れます=図=。しかし原発性胆汁性胆管炎は、肝内の毛細胆管や小葉間胆管が何らかの免疫異常によって破壊され、胆汁の流れが悪くなって胆汁が肝臓内に慢性的に停滞して肝障害を来します。なお、原発性胆汁性胆管炎は、免疫異常によって肝細胞が障害される自己免疫性肝炎や胆管系の全てが免疫学的に障害される原発性硬化性胆管炎と併せて自己免疫性肝疾患と総称されます。

 原発性胆汁性胆管炎の初期は長期間にわたって無症状であり、多くは健康診断などの血液検査で偶然に診断されます。無症候期と呼ばれますが、合併しやすい慢性甲状腺炎やシェーグレン症候群などの自覚症状が出ることがあります。しかし中期・後期になると胆汁うっ滞による皮膚のかゆみが出現するようになり、さらに進行すると黄疸(おうだん)や腹水といった肝硬変の症状がみられます。なお最近では肝硬変に至る頻度は少なくなっています。

 診断の契機は血液検査です。初期ではALPやγGTPは上昇しますが、アスパラギン酸アミノトランスフェラーゼ(AST、従来のGOT)やアラニンアミノトランスフェラーゼ(ALT、従来のGPT)は正常範囲内です。また抗ミトコンドリア抗体(AMA)が90%以上の頻度で陽性になり診断に有用です。診断基準には肝臓の一部を採取する肝生検による組織診断の項目がありますが、AMAが陽性であれば肝生検は必ずしも必要としないとされています。

 治療法はウルソデオキシコール酸の内服が第一選択です。約70%の患者さんに有効で、継続することにより病気の進行が抑えられます。

 最近の研究では、腸内細菌や歯周病の一因とされる口腔(こうくう)内の細菌が関与する報告もみられます。血液検査で肝機能障害を指摘されましたら、放置せずに早めに医療機関を受診されることをお勧めします。