園田競馬場で行われた地方競馬ジョッキーズチャンピオンシップ・ファイナルステージで総合5位に入った渡辺竜也騎手

 各地方競馬のトップジョッキーがバチバチと火花を散らし、熱いバトルを繰り広げた。

 好位につけて総合Vの可能性もあった「笠松の若大将」渡辺竜也騎手(23)。最後はしんがり負けで砕け散り、総合5位。「悔しいです」とほろ苦さを味わった。表彰台には届かなかったが、夢のステージで全力を尽くし、敗れて爽やか。「成長して来年またこのステージに」とさらなる飛躍を誓った。

出場騎手の紹介式で(左から)青柳正義騎手、渡辺竜也騎手、岡部誠騎手

 ■宮川実騎手が最終戦を制し、総合優勝

 地方競馬の騎手ナンバーワンを決める頂上決戦「2023ジョッキーズチャンピオンシップ」。ファイナルステージが6日、園田競馬場で行われ、2戦目で逃げ切り勝ちを飾った高知の宮川実騎手(41)が、初出場で大逆転の総合優勝を飾った。浦和の福原杏騎手(22)が2位、1戦目を勝った地元・兵庫の吉村智洋騎手(38)が3位。昨年王者の愛知・岡部誠騎手(46)は最終戦3着に食い込んだが、9位に終わった。

 笠松競馬代表の渡辺騎手は初チャレンジ。盛岡で5着、4着。園田では1戦目3着。1段ずつ着順をアップさせ、総合4位をキープしていたが、2戦目は騎乗馬に恵まれずに11番人気で、12着に終わった。 

 各競馬場の勝利数トップ(昨年4月~今年3月)のジョッキー12人が出場し、盛岡、園田計4戦で腕を競った。優勝した宮川騎手は8月26、27日に札幌で行われる「2023ワールドオールスタージョッキーズ(WASJ)」=国際騎手招待競走=の地方代表候補騎手に選定された。

紹介式で「そのたん」を手に笑顔の騎手たち

   【総合順位】(P=ポイント)
                     ファースト・盛岡 ファイナル・園田
①宮川 実(高知) 54P(2着、9着)  (9着、1着)
②福原 杏(浦和)   48P(8着、1着) (4着、9着)
③吉村智洋(兵庫) 47P(12着、3着) (1着、10着)
④落合玄太(北海道)45P(1着、11着) (6着、7着)
⑤渡辺竜也(笠松) 38P(5着、4着) (3着、12着)
⑥矢野貴之(大井) 37P(4着、8着) (12着、2着)
⑦山本聡哉(岩手) 34P(9着、6着) (2着、8着)
⑧青柳正義(金沢) 32P(10着、2着) (5着、11着)
⑨岡部 誠(愛知) 32P(7着、5着) (11着、3着)
⑩山崎誠士(川崎) 28P(6着、7着) (7着、6着)
⑪山口 勲(佐賀) 16P(3着、10着)  (欠場)
⑫森 泰斗(船橋) 15P(11着、12着) (10着、4着)
                    (同点の場合は、最上位者を優先)

 レース前に行われた紹介式で岡部騎手は「さっきの6Rで勝ったのでポイントに加えてほしい」と冗談交じりであいさつ。渡辺騎手は「笠松のみんなにいい思い出話を持って帰られるように頑張ります」と意欲を示した。

 ■渡辺騎手1戦目3着「もうちょっと頑張りたかった」

第1戦は吉村智洋騎手、山本聡哉騎手に続いて3着だった渡辺竜也騎手(右奥)

 渡辺騎手は1戦目の9R、3番人気のクロシンジュ(牝4歳)に騎乗し1番枠を好スタート。3番手からの競馬で上位進出を狙ったが、吉村騎手騎乗のスターザサンライズが大外から一気に先団をのみ込み、後続を3馬身半突き放した。渡辺騎手と山本聡哉騎手との2、3着争いは激しいたたき合いになったが、クビ差で山本騎手が制した。

第1戦3着の騎乗馬と、ちょっぴりうれしそうな渡辺騎手

 検量室前に戻ってくると笑顔も見せていた渡辺騎手。「もうちょっと頑張りたかったですね。先生には『好きなように乗ってきて』と言ってもらった」と狙い通りの好ポジション。「2着に頑張ってくれ」と応援していたが、最後は伸び切れずに3着。結果的には1、2、3番人気の順に決着。15ポイントを獲得し、総合4位をキープ。「うまく切り返せば良かった。2着だったらポイント的にも良かったですが」ともうワンパンチ欲しい結果だった。

 ■パドックでは、家族が横断幕を掲げて熱い応援

パドック前には渡辺騎手の横断幕も張られ、家族らが応援した

 パドックには、笠松競馬でも見掛ける渡辺騎手の横断幕が張られていた。千葉県から駆け付けた渡辺騎手のご両親らが掲示したもので、人馬が近づくとうちわを振るなどして応援。最終戦を前にトップとは9ポイント差で、「奇跡が起きないか」とゴール板前でも熱い視線。笠松で今年すでに109勝を挙げる活躍を見せている渡辺騎手へは「謙虚に、感謝の気持ちを大切にして」と背中を押しながら、応援にも力が入っていた。
 

第2戦はしんがり負けに終わった渡辺騎手(右)

 ■11番人気馬で厳しいレース、「いやあ、悔しいです」

 「優勝を目指して頑張ります」と闘志を燃やしていた渡辺騎手。ここまでは3戦とも人気通りの着順で騎乗馬をゴールインさせた。ラストの11Rは11番人気ということで、やはり厳しいレースになった。中団やや後ろからの競馬で、3~4コーナーでも後方のまま。先頭からは大きく引き離されて12着でゴール。全国から集結した名手たちの戦いが終わった。

 渡辺騎手は「いやあ、悔しいです。(最後の直線を向いても)手応えがなかったし、伸びなくて駄目でした。表彰台に乗って笠松をアピールできれば良かったですが」。全国のトップジョッキーとの対決については「地元とは違った刺激があって、すごく実になる2日間でした。またこのステージに来られれば。(優勝して)WASJを目指したいし、別の刺激をもらいたいです」と充実感を味わい、初出場で得たものは大きかった。「今回、盛岡の時よりも覚悟を持って、レースに向けて気持ちが入っていたので、来年は成長した姿を見せたいです」と前を向いていた。

検量室前でレース映像をチェックする渡辺騎手

 ■総合Vへの良いステップに

 昨秋のヤングジョッキーズシリーズ笠松ラウンドでは、東川慎騎手と長江慶悟騎手が勝利を挙げながら、2人ともしんがり負けもあってファイナル進出を逃した。渡辺騎手も今回「最後方」でのゴールを味わった。やはりジョッキー戦で2本とも、好結果をそろえるのは難しいようだ。

 総合Vを果たすには「まず1勝」をゲットし、人気薄の馬でもいかに一つでも前の着順へ持ってくるかが大切になる。かつてアンカツさんが18年連続で笠松リーディングを獲得したように、渡辺騎手の連続リーディングも当分続きそうな勢いだ。毎年のように最強ジョッキーの座に挑むチャンスがあるだろうし、今年5位に食い込んだのは良いステップになった。

 ほろ苦い最終戦となったが「悔いはないです。全力で挑んだんで。来年また頑張ります」。昨年準Vに輝いた藤原幹生騎手に言われた「前祝い」はしなかったそうだが、笠松に帰ったら『そのせいだ』と言われちゃいそうです」と苦笑い。この日、エキストラで12Rにも騎乗。6着に終わったが充実した一日になった。

表彰式でファンらの祝福を受けた(左から)準優勝の福原杏騎手、優勝の宮川実騎手、3位の吉村智洋騎手

 ■宮川実騎手「今度は札幌で優勝」

 晴れの表彰台に立ったのは3人のジョッキー。総合Vに輝いた宮川実騎手。「うれしいです。1戦目が終わった時点で7位だったので、優勝は意識しておらず、まだびっくりしています」。46ポイントでトップに並んでいた福原騎手と吉村騎手がそれぞれ9着、10着に沈み、宮川騎手が一気にまくって、キリリとした表情で表彰台の真ん中に立った。

総合Vに輝いてボードを掲げ、優勝賞金100万円も獲得した宮川騎手

 8月のWASJに向けては「こういう舞台で勝つことができ、高知代表として良いパフォーマンスができた。まだレースは先ですが、もう既に緊張しています。地方競馬の代表になったので、恥じないように世界に通用する騎乗を見せたい。(高知の)赤岡修次騎手、永森大智騎手に続けて良かった。今度は札幌で優勝してくるので、応援よろしくお願いします」と力強いメッセージ。詰め掛けたファンはドッと沸き、優勝ボードを高々と掲げた宮川騎手を祝福し、サインも求めていた。

 昨年は、笠松代表の藤原幹生騎手がラスト10人抜きで2位に躍進したが、今年は最終戦での逆転劇で、宮川騎手が頂点まで突き抜けた。この大きな1勝は地方競馬通算2200勝目でもあり、最高の1日となった。

 ■福原騎手2位、1ポイント差で吉村騎手3位

準優勝を飾った最年少の福原騎手

 総合2位の福原騎手は22歳で出場騎手の最年少。現在は門別での期間限定騎乗に励んでいる。「2、3着が多いんで広い馬場での乗り方を学んでいるところ。園田でも外に出すのは門別に似ているんで、うまく立ち回れたら」と。2戦目は9着に終わったが、1ポイント差で吉村騎手を上回った。渡辺騎手とは年も近くて気になる存在のようで、報道陣に聞いてポイント差をチェックしていた。

 総合3位の吉村騎手は1戦目勝利で「ここは僕の庭なんで。馬の力が一枚抜けてたし、ぐるっと回ってきただけ。基本は外に出すのがセオリーなんで、教科書通り乗って勝てた。きのうが雨で、きょうはいい天気。下から蒸してくるんで、しんどいですね」と蒸し暑さに悲鳴を上げながらも、この日は6勝の固め打ち。田中学、下原理騎手ら4人が笠松のサマーカップに遠征しており、「吉村騎手1強」が際立った。2戦目は10着だったが、総合3位が決まると賞金もゲットできて、うれしそうだった。

今年の5位からステップアップ。来年は表彰台を目指す渡辺騎手

 ■渡辺騎手「来年は馬券圏内を目指して」

 12Rを終えて、翌日の笠松開催へと備える渡辺騎手。地元でのサマーカップは兵庫勢がワンツーで、馬渕繁治騎手が3着に入ったことを告げると、仲の良い先輩の活躍がうれしそうで「何かおごってもらおう」と声が弾んだ。さらに渡辺騎手自身が総合5位だったことを知ると「掲示板ですね。来年は馬券圏内(3着以内の表彰台)目指して頑張ります。もうちょっと、うまくならなあかんですわ」と悔しさもかみしめながら、新たな目標を胸に園田競馬場を後にした。


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