岐阜×関商工=9回表関商工 2四球を出すも関商工を無失点に抑え吠える岐阜のエース鷲見(右)=長良川
岐阜×関商工=1回表関商工 力投し三者凡退に打ち取る岐阜のエース鷲見=長良川
岐阜×関商工=9回表関商工 岐阜の捕手篠田(左)がエース鷲見に声をかける=長良川

 岐阜大会の長い歴史の中でも起こりえない〝まさか〟が現実となった。五回終了時点0―8からの関商工の大逆転。甲子園最大差逆転タイ記録の2014年の大垣日大が起こした奇跡と同じ8点差。自分がその点差で降板した時とは、一変したマウンドに舞い戻った岐阜のエース鷲見旺宥の気迫はすさまじかったが、流れは最後まで変えられなかった。日本最古の高校野球部が69年ぶりに目指した夏の甲子園への道はあまりに早すぎる終えんを迎えた。

◇再登板した絶対的エース鷲見でも止まらない流れ
 理想的過ぎると言える展開だった。立ち上がり、主軸の3連打による3点先取で流れをつかみ、140キロ前後の速球と切れのいい変化球を武器に5回わずか1安打のエース。応えるように4点をだめ押しし、8―0で、グラウンド整備。厳しい組み合わせに「すべて鷲見が頭でいく」と語っていた北川英治監督。少しでも大会序盤に鷲見の登板イニングを減らすことは、終盤のV争いのために必須。予定通りの継投のはずだった。ところが…。

 一発勝負の高校野球で、一度失った流れを取り戻すのは容易なことではない。北川監督は「2番手の小倉悠叶を交代するタイミングが遅れた」と悔やむが、同時に「3番手の井上雄貴を厳しい状況で投げさせたくなかった」のも事実。ついに同点。大垣日大の阪口慶三監督が前日「夏を戦う上で絶対にやってはいけないこと」と語った降板させたエースを再びマウンドに送る苦渋の決断を北川監督は余儀なくさせられた。

 だが、絶対的エースをもってしても流れは変わらない。三塁走者の3フィートオーバーが、超えていないと判定される不運もはさみ、失策でついに勝ち越された。それでも鷲見の気迫は衰えるどころか、どんどん加速していった。この回、奪った3三振のうち2死目のストレートは、自己最速の142キロだった。

◇逆転信じた気迫のマウンド。記憶に残る日本最古の高校野球部105回目の夏
 この時、マウンドの鷲見の脳裏をよぎったのは、先輩たちの最後の夏を自分がマウンドに立って終わらせた1年時、2年時の記憶だったという。「(大逆転につながった投球の)2年の小倉に同じ思いをさせたくない。必ず逆転するために全力で投げた」と唇をかみしめる。

 「鷲見こそ誇れるエース。目指す結果は出せなかったが、3年間、バッテリーを組めて本当によかった」と相棒をたたえる主将で捕手の篠田健太朗。北川監督も「魂を込めて投げていた姿に感動した。鷲見がいたから甲子園を狙えた」と最大の賛辞を送る。鷲見は「入学した時は120キロ中盤だった僕が、ここまで成長できたのは北川監督、仲間、応援してくれるすべての人のおかげ。感謝しかない」と語り、得がたい最後の夏の経験を胸に、目指す慶大での飛躍を誓う。

 学校創立150周年の節目に最高の結果は残せなかったが、最高の記憶に残る夏を日本最古の高校野球部の歴史に刻み込んだのは確かだ。

 森嶋哲也(もりしま・てつや) 高校野球取材歴35年。昭和の終わりから平成、令和にわたって岐阜県高校野球の甲子園での日本一をテーマに、取材を続けている。