【3回戦 帝京大可児4―2各務原西】

 「速いだけじゃなく、勝てるピッチャーになる」。帝京大可児のプロ注目の大型左腕加藤大和が、自ら誓ったバージョンアップした投球を今夏の初マウンドで繰り広げた。ストレートの最速は138キロ、常時130キロ中盤ながら低め、コースに制球され、変化球を効果的に交える。加藤大和の名を高めた昨秋県3回戦大垣日大戦での「将来性豊かだが、ストライクが入らない」という周囲の評判とは真逆の安定感。まだまだ発展途上ながら、逸材の大きな可能性を証明した。

帝京大可児×各務原西=力投する帝京大可児の先発加藤大和=長良川球場

◇制球に苦しむ将来性豊かな長身左腕

 72キロと細身ながら、左腕で185センチの長身は魅力で、プロ5球団が訪れている。大学球界で熱いまなざしを送る岐阜聖徳大の近藤真市監督も「テイクバックもしっかりし、下半身もうまく使えているのでフォームは問題ない。パーツ、パーツがしっかりし、かみ合えば150キロも超えてくるはず。非常に伸びしろが大きく、楽しみ」と期待を寄せる。

 中学ではヤングリーグの名古屋コンドルズに在籍。「投手育成に定評がある」と、ドラゴンズに入団した県歴代最速投手・加藤翼と入れ替わるように帝京大可児に入学した。入学時の球速は130キロ前後だったが、2年の5月に138キロ、3年になって144キロまで伸びた。だが制球には苦しんだ。0―2で惜敗した昨秋の大垣日大戦も先発し、3回無失点ながらボール球が多く、球数は78球。今年1月には練習で左手薬指を骨折。復帰したが、全く調子が上がらなかった。

帝京大可児×各務原西=3回表帝京大可児1死、加藤大和が左翼線に三塁打を放つ=長良川球場

◇今は勝てる投手に 今春の悔しさが、逸材を変える

 逸材の考えを一変させたのが今春。地区大会でも制球に苦しみ、短いイニングで降板し、県大会では登板すらなかった。「チームに迷惑をかけた。何としても変わりたい」と願った。変身の糸口は腕の使い方にあった。バドミントンのスマッシュの要領で、ひじを支点に、ひじから先をしならせることを田口聖記監督やコーチに教わり実践。「ゴールデンウイーク頃にはコツをつかんだ」と加藤大和。各務原西戦の先発マウンドに上がった。

 立ち上がりから130キロ中盤の伸びのあるストレートをコースに決め、六回2死まで毎回の8奪三振、被安打1。ここから連打されて降板したが、「8割の力でゾーンに決められた。何とかいいスタートが切れた」と有言実行のマウンドを振り返る。

 豊富で多彩な投手陣の帝京大可児。この日も5人がマウンドに立ったが、「次からも自分がしっかりゲームをつくる。その中で強いボールが投げられたら」と決意。目標は150キロ超え、そしてもちろんプロ入りだが、今の目標は甲子園。「勝てるピッチャー」としてチームを初の夢舞台に導く。

 森嶋哲也(もりしま・てつや) 高校野球取材歴35年。昭和の終わりから平成、令和にわたって岐阜県高校野球の甲子園での日本一をテーマに、取材を続けている。