産婦人科医 今井篤志氏

 日本だけではなく、豆類の食習慣のある国では、大豆を積極的に摂取すると女性はいつまでも元気と若々しさを保てると言われてきました。また、若い女性では、ニキビ、肌荒れや月経開始前の気分的な落ち込み(月経前症候群)が軽減され、一部のアスリートは不調時の底上げや好調持続にも役立つことを実感していました。このような素晴らしい働きの源が、大豆に含まれるイソフラボンという成分です。

 大豆イソフラボンの化学構造は女性ホルモンであるエストロゲンに似ているため、エストロゲン作用を有しているからです。最近、イソフラボンの働きの主役はエクオールという物質であることが明らかになりました。

 人の腸内には約1千種類の細菌が存在し、ビフィズス菌や乳酸産生菌などの善玉菌とウェルシュ菌や大腸菌などの悪玉菌に分類されます。腸内細菌の種類と数には個人差が大きく、人はそれぞれ自分だけの腸内細菌の種類と割合を持っています。大豆が食事として摂取されると、イソフラボンであるダイゼインが乳酸菌の仲間のエクオール産生菌の作用によってエクオールに変換します。

 面白いことに、このエクオール産生菌が存在していても、エクオールを作れる人と作れない人がいます。日本人や中国人は約50%の人が産生できますが、欧米人は約30%、さらに日本人でも20歳前後の若年女性は20%、男性も30%しか産生できません=図=。産生率の低下には、食習慣の欧米化が影響しているのかもしれません。

 腸内細菌によって産生されたエクオールは腸管から吸収され、全身に運ばれます。エクオールの一部は尿中に排せつされるので尿中のエクオールを調べることで、エクオールを作り出せる体質かどうかをチェックできます。尿中のエクオール測定キットは誰でも入手できます。

 エクオールは体内に蓄積されないので、エクオールを作れる人でも、1日に必要な量のエクオールを産生するためには木綿豆腐1/2~1丁、納豆1パックを毎日摂る必要があります。まして、エクオールを作れない人はサプリメント、あるいは健康食品としてエクオールそのものを摂ることがお勧めです。

 閉経年齢前後の女性が適正な量のエクオールを摂取すると、更年期症状の改善や加齢に伴う目尻のシワ、首や肩こり対策、骨密度減少の防止に役立ちます。エストロゲンの1/1000~1/100程度のエストロゲン作用ですが、血栓症になりやすい体質や乳がんの術後などさまざまな理由でエストロゲンを使えない場合にも、エクオールは代替療法の一つになっています。

 日本人には馴染(なじ)みの深い大豆ですが、その恩恵を享受するためにも、まずはイソフラボンを活用できるかどうかを尿検査で調べてみましょう。

 なお、前回3月25日付のコラムで、胎児期の男女の決定について触れましたが、LGBT(性的少数者)の部分で、私の勉強不足のため正確さに欠ける部分がありました。この場をもっておわびしたいと思います。

(松波総合病院腫瘍内分泌センター長、羽島郡笠松町田代)