循環器内科医 上野勝己氏

 私が循環器内科医になって最初に受け持った50代の急性心筋梗塞の患者には、未治療の糖尿病がありました。当時、普及が始まったばかりのバルーンカテーテル治療が成功し、心筋梗塞の経過は良好でした。しかし外来で経過観察をする間に、みるみる腎機能が悪化していき、9カ月後には糖尿病性網膜症で視力をほとんど失い車椅子生活となってしまいました。私はカテーテル治療の勉強のために岐阜を離れることになりましたが、最後の外来で患者が見せた涙は忘れられない苦い思い出となりました。

 成人糖尿病のほとんどは2型糖尿病で、肥満やストレス、過食、アルコール、そして遺伝(家族歴)が複合的に作用して発症するとされています。この中で最も影響が大きいのが遺伝です。家系に糖尿病患者がいる人は、高い確率で糖尿病を発症します。一方で、肥満の増加に伴い家族歴のない糖尿病も増えてきています。

 糖尿病の治療は従来、すい臓のインスリン分泌細胞を刺激する薬物が主でした。「薬物により強制的に血糖値を下げる→強い空腹感→さらに食べる→薬が増える→すい臓が疲弊してインスリンを分泌できなくなる→インスリンの注射→空腹感によってさらに食べる→大量のインスリンを打つ」という経過をたどるようになります。インスリンの害には発がん性、動脈硬化の促進、易感染性があります。まさに負の連鎖です。

 では糖尿病の治療に光明はないのでしょうか? 実は最近の日本人の調査で、2型糖尿病と診断されても1%の患者が緩解して薬物治療が不要になることが報告されました。その中でも、初期段階の糖尿病患者に限ると2・78%、それまで薬物療法を受けていない患者で2・17%、1年間で体格指数(BMI)が5~10%低下した患者で2・5%、BMIが10%低下した患者で4・82%と、高い緩解率が認められました。残念なことに緩解を達成できた患者の67・7%が再発しました。体重の再増加した患者や糖尿病歴が長い患者に再発が多かったとのことです。血糖の指摘を受けたらできるだけ早期に減量するのが有効であることが示されました。

 また海外の報告では、薬物療法を組み合わせた症例も含めてではありますが、低糖質食を6カ月継続して減量すると糖尿病の緩解に有効であったとのことです。さらに、20人と症例数は少ないのですが、肥満でなくとも低糖質食を利用して10%の減量をすると、2型糖尿病の70%が緩解するとの報告もあります。

 40、50代の健康診断で過去1~2カ月の平均の血糖値を示すHbA1C(ヘモグロビンエーワンシー)が6・0を超えたら、放置しないで減量に取り組んでみてください。ただし高齢者では厳格な血糖管理は不要であり危険です。かかりつけ医とよく相談してください。