登山道が整備された権現山の山頂展望台からの眺め。町の南北が見渡せる=加茂郡川辺町下吉田
飛騨川でサップを楽しむ客
改装した蔵で談笑する加藤祐基副社長(左)と村瀬将司さん=加茂郡川辺町中川辺、白扇酒造

 室町-明治時代に、飛騨から木材を運ぶ水運の要衝として栄えた加茂郡川辺町。飛騨川に川辺ダムが造られ、穏やかなダム湖を利用した県川辺漕艇場ができるなど、川とともに発展してきた歴史を持つ。そんな町に「山」という新たな魅力が加わった。気軽に登れる低山が多く、それぞれに登山道が整備されたことから、レジャーを目的に訪れる人が増えている。

 「登山道は元々あったが、木が生い茂っていて道なき道だった」。住民グループ「ふるさと吉田愛好会」の赤坂良造会長(80)=同町下吉田=は、最近までの権現山(397メートル)の様子を語る。

◆住民ら6座整備、人気じわり

 町の南北を見渡すことができ、御嶽山、伊吹山、金華山も見える権現山に今年、愛好会と町、森林組合が協力して登山道と展望台を整備した。丸太を運んで登山用の階段を造り、休憩用のテーブル、ベンチも設置、「急な坂道ガンバッテ登ろうね」などと書かれた、味わい深い手書き看板も各所に立てた。

 町では2019年度から愛宕山(261メートル)、八坂山(225メートル)、大谷山(215メートル)、鬼飛山(291メートル)、遠見山(272メートル)、権現山の6座の登山道が順に整備された。特徴的なのは、ふるさと吉田愛好会のように、山ごとに周辺住民のグループがあり、それぞれで整備・保全活動を行っていること。町はこれらのグループと協力して整備を進め、今年になって権現山が完了したことで、活動は区切りを迎えた。

◆サップ絶景の中で 

 誘客効果も表れ始めた。川辺町での軽登山は口コミで評判になる一方、登山サイト「ヤマップ」でその魅力が大きく取り上げられたことで、町を訪れる登山愛好家が急増している。

 レジャー客を取り込む動きは、飛騨川でも行われている。ボードに乗ってパドルでこぎ進む「サップ」。サップガイドの川田尚規さん(43)=美濃加茂市=が16年から体験ツアーを始めた。

 コースは、漕艇場の上流にある川辺大橋から加茂郡七宗町境の蛇ケ谷までを往復する約7・5キロで、大きな滝や、崖が迫ってくるような峡谷もある。川田さんは「コースの左右に樹木が張り出しているため、民家や道路からは見えない景観。車の音も聞こえないので秘境にいる感覚になる」と語る。サップに挑戦した地元の人が、見たことのない景色に驚くといい、最初のシーズンは50人ほどだった客が、今シーズンは約150人にまで増えた。

 町には、ともに江戸時代後期に創業した白扇酒造と平和錦酒造があり、レジャーを楽しんだ客が土産を買いに立ち寄る。白扇酒造は昨年、蔵を明るくおしゃれな販売・休憩スペースに改装した。椅子は、酒だるを分解して再利用し、横幅約3メートルのレジカウンターやキッチンは、酒搾りに使う道具を転用した。

 家具デザイナーとして改装に携わった村瀬将司さん(41)=同町下麻生=は「歴史ある酒造の蔵を、魅力的に生まれ変わらせることができた」と話す。同酒造の加藤祐基副社長(38)は「蔵を見るだけでもいいので、多くの人に来てほしい」と、買い物以外の目的での来客も歓迎する。

 飛騨川に並行して町を南北に走る国道41号。これまで、町内を通る県外ナンバーの車の多くは飛騨を目指していた。だが最近は、町内で足を止める客の姿が目立つようになった。「川辺町を通過点ではなく、目的地にしたい」。住民のそんな熱意と行動によって、誘客増に光が差し始めている。