デビュー1年目には名古屋競馬にも参戦した藤田菜七子騎手

 競馬界のアイドル・藤田菜七子騎手がフェブラリーS(2月17日、東京)で、JRA女性騎手では初めてとなるGⅠ騎乗に挑むことになった。

 1月27日の根岸S(GⅢ、東京)で重賞2連勝を飾ったコパノキッキング(4歳、村山明厩舎)との初コンビで実現する。オーナーのDr.コパこと小林祥晃さんが「菜七子ジョッキーでいく。素直に乗ればこの馬に合うはず。見たいよね」と起用を明言。最高峰のステージへの挑戦は、競馬界全体を盛り上げるだけでなく、女性活躍の社会現象としても大きなニュースになりそうだ。

 藤田菜七子騎手は1997年生まれの21歳。同世代の97年生まれの若手ジョッキーは、このところ中央・地方競馬での活躍が目覚ましく、男性陣もおしゃれなイケメンぞろいで華がある。伸び盛りで、騎乗依頼も増えており、 重賞挑戦のチャンス到来。今年の大ブレークへの期待も込めて「菜七子世代」と呼ばせてもらおう。見習騎手から一人前の騎手へと羽ばたく将来性豊かな面々。平成から新時代を迎える2019年を「飛躍の年」にしたい。

笠松移籍2年目で飛躍が期待される水野翔騎手=笠松

YJS金沢ラウンドに出場した水野翔騎手

 この世代、昨年は川又賢治騎手が44勝、荻野極騎手が30勝、藤田菜七子騎手が27勝と活躍。さらに菊沢一樹騎手19勝、加藤祥太騎手17勝、森裕太朗騎手15勝、坂井瑠星騎手10勝と続く。そして、競走距離を間違える珍事を起こした新人の山田敬士騎手が7勝を挙げている。

 地方競馬では、笠松の水野翔騎手(笹野博司厩舎)も97年生まれ。神奈川県川崎市出身で、昨年1月、北海道から笠松に移籍。「厚底と派手髪が好き」とネット上で自己紹介。笠松の「おしゃれ番長」ともいえるファッションセンスで注目され、道営時代からのファンも多い。渡辺竜也騎手とともに笹野厩舎に所属。昨年秋、調教中のけがでヤングジョッキーズシリーズ(YJS)挑戦は途中で断念したが、45勝を挙げて笠松リーディング8位と健闘した。

 移籍2年目は「けがをしないで、数多く勝ちたい」と抱負。勝負の年で、大化けする可能性を秘めている。既に1月には、1日3勝を含め計9勝を挙げて笠松リーディング3位に躍進。佐藤友則騎手の22勝、筒井勇介騎手の14勝に続く勝ち星で、好調さをアピール。相変わらず2着は多いが、今年の連対率は35%と高く、安定感を増した。先輩の藤原幹生騎手の所属厩舎が、2月1日付で笹野博司厩舎から後藤正義厩舎に変更になり、3年連続リーディングの笹野厩舎では、大きなレースでの水野翔騎手の起用も増えるだろう。逃げ、差し自在の思い切った騎乗で勝利を積み重ね、重賞初Vを飾りたい。

ミルコ・デムーロ騎手とのトークショーで、笠松競馬を盛り上げた川又賢治騎手

 一昨年、YJSがスタートし、JRA若手騎手の地方競馬での騎乗機会が増えた。昨年6月の笠松ラウンド1戦目では山口以和騎手(佐賀、引退)が勝ち、川又賢治騎手が2着、荻野極騎手は3着。2戦目では森裕太朗騎手が1着と、97年組が大活躍。地元の水野翔、渡辺竜也騎手と腕を競った。

 昨年、JRAで最も活躍した若手は川又賢治騎手で、笠松でのトークショーでもおなじみ。地方・JRA交流戦では笠松などで10勝を挙げて、ベテランも含めた全騎手のうちでトップの成績。JRA勝利数も1年目の9勝から44勝と急増。顕著な成長と成果が認められた関東、関西の若手騎手に贈られる「中央競馬騎手年間ホープ賞」に輝いた。17年には藤田菜七子騎手と荻野極騎手が受賞。05年には笠松から独学でJRAに移籍した柴山雄一騎手も、80勝を挙げて受賞している。

昨年のYJS笠松ラウンドに出場したJRAの川又賢治騎手(右)と荻野極騎手

 笠松でも3勝を挙げている荻野極騎手は、JRA通算100勝に到達。昨年のYJSでは大井でも勝利を飾り、総合2位となった。地方騎手では船橋の臼井健太郎騎手も97年生まれで、YJS初代王者に輝き、「NARグランプリ2017」の殊勲騎手賞も受賞した。近年、海外遠征で騎乗技術を磨く若手も増えており、臼井騎手はオーストラリア遠征で、1年間の武者修行に挑戦中だ。坂井瑠星騎手もオーストラリア遠征では、ソールインパクトに騎乗しGⅠの舞台を経験した。

 藤田菜七子騎手は昨年8月19日、JRA女性騎手初となる1日2勝を新潟で達成したが、2レースとも2着に絡んだのが「意外性の男」山田敬士騎手だった。第3Rは13番人気で3連単325万円、第7Rは9番人気で73万円と波乱を呼んだ。菜七子騎手との相性がいい山田騎手だが、復帰後初勝利はいつになるのか。

笠松ではゴールドジュニア挑戦前に落馬。重賞初挑戦がお預けとなった山田敬士騎手

 山田騎手にとって重賞初挑戦がお預けとなった笠松・ゴールドジュニア。放馬のアクシデントを改めて検証してみると、やはり小回りの初コースで戸惑いがあり、スタート地点が3コーナー奥になった1600メートル戦での返し馬はオーバーラン気味だった。

 パドックから返し馬に向かう際には、笠松の辛口ファンからも「山田、頑張れよ」と大きな声援が飛び、笑顔で応えていたが...。新潟で1周早くゴールしたかと思えば、笠松では返し馬を1周多くやろうとして放馬。競走モードでスイッチが入った騎乗馬のエリアントは、スタンド前の外ラチ添いでスピードアップ。抑え切れなかった山田騎手は振り落とされ、無念の競走除外となった。

 一歩間違えれば落馬事故や競走馬逃走にもつながっただけに、周囲をハラハラさせた。山田騎手にとっては、またしても大きな試練となったが、最終レースにも騎乗できて一安心。帰り際には、意外と元気そうな表情も見せ、笠松関係者をホッとさせていたし、重大な事故にならなくて本当に良かった。

 2日後の東京競馬場では、9番人気馬でいきなり2着と好走した。笠松でも6戦した1400メートルのダート戦を、後方から追い込んだがあと一歩届かなかった。1年目から「大穴馬券」に絡むことも多かったが、ファンの注目度もますます高まり、復帰後初勝利での喜びの声を早く聞きたいものだ。

福永祐一騎手とのコンビで笠松のレースを勝利したラブミーチャン。オーナーはDr.コパさん

 藤田菜七子騎手のGⅠ騎乗を後押しするのは、オーナーのコパさん。所有馬の活躍は、笠松のラブミーチャンが始まりだった。09年に全日本2歳優駿を制覇するなどJRA交流重賞を5勝。北海道サマーセールで、315万円で購入したラブミーチャンとの出会いは、この世界での馬主としての快進撃につながっている。福永祐一騎手とのコンビで、笠松・オッズパークグランプリを制覇したこともあった。フェブラリーSを16番人気と1番人気で連覇したコパノリッキーでは、GⅠを11勝。コパさんと村山調教師のコンビは最強タッグといえよう。

コパノキッキングでGⅠ・フェブラリーSに挑戦する藤田菜七子騎手=中山

 今年の藤田菜七子騎手のJRA初勝利は中京での50戦目。5番人気・コパノピエールで逃げ切った(通算48勝目)。「コパノ」の冠名馬との相性は抜群で、通算6勝目。フェブラリーSで騎乗するコパノキッキングは4連勝中。東海S勝ちのインティ(武豊騎手)、一昨年覇者・ゴールドドリーム(ルメール騎騎手)らとともに上位人気を集めそうだ。97年組ではこれまで4人がGⅠに挑戦したが、川又賢治騎手のエリザベス女王杯10着(ヴァフラーム)が最高で、いずれも2桁着順に終わっている。

 藤田菜七子騎手も、これまで10戦した重賞成績は、新潟記念のベアインマインドでの8着が最高。フェブラリーSは、JRAでは今年最初となるGⅠレース。寒風が吹き付ける東京競馬場には、徹夜組を含めて日本ダービー並みに開門ダッシュする大勢のファンの姿が見られそうで、パドック周回から熱狂的な声援が飛び交うことだろう。菜七子騎手は「夢のようなお話で驚いています。好結果を出せるよう頑張りたいです」と意欲を見せている。