岐阜県関市内のマンションの一室にある「靴磨き専門店LEON」。若き靴磨き職人の市原レオンさん(25)がコロナ禍の2020年4月にオープンした完全予約制の靴磨き店は、SNSや口コミで評判が広がり、人気店となった。市原さんは小学生の頃から人間関係に悩み、生きづらさを感じていたが、没頭できる靴磨きに出会い、中学1年から路上靴磨きの世界に飛び込んだ。18歳の頃にASD(自閉スペクトラム症)と診断された。集中力と記憶力を強みに修業を重ね、独立を果たした市原さんは、発達障害に悩む人たちの相談にも乗っている。「靴磨きは心磨き」と語る市原さんに生い立ちや職人としての信念を聞いた。
路上が原点
「世界のどこでも通じる名前がいい」。〝レオン〟と名付けてくれた両親は、市原さんが3歳のときに離婚した。母、年子の妹との3人暮らしが始まった。「バイクに乗っていたお母さんが週末の休みに靴墨と布、ブラシを使ってブーツを磨いていた。その隣で手伝っていました。」。母は生活のため、昼間はゴルフ場で働き、夜はコンビニでのアルバイトを掛け持っていた。小学校から帰ると母はいない。不在時にブーツやパンプスを磨いて、玄関に置くことが日課になった。「お母さんは『いつもありがとう』と言ってくれる。母と会えずに寂しいので、うれしくて、うれしくて」。感謝されるときの喜びが忘れられず、友人の野球のグラブやスパイクも磨くようになった。
小学5年のある夜。寝ていると、〝金縛り〟に遭った。家には妹との二人だけ。体が動くようになると、恐怖を紛らわせようと、居間にあるテレビを付けた。番組で靴磨きが特集されていた。「靴磨きが仕事になるんだ」。インターネットで調べると、路上の靴磨きを紹介するサイトがいくつも表示された。市原さんは友人らから磨かせてもらえるものはほぼ磨いていたこともあり、路上の靴磨きに憧れを抱いた。
中学校に入学すると、路上の靴磨きを始めるため、名古屋市に向かった。しかし、何から手を付ければよいのかわからない。靴磨きをしている男性に声を掛けると、やり方を教えてくれた。通行人に声を掛けてはいけないようで、ホワイトボードか段ボールに「靴磨き」と書いて客を待つように助言された。市原さんは近くの100円ショップで購入したホワイトボードに「くつみがき むりょう」と書き、路上に置いた。
夏休みや学校の授業が早く終わった日、東海北陸自動車道美濃インターチェンジの近くにある停留所から高速バスに乗って、名古屋市に向かった。午前11時ごろから路上のルールを教えてくれた男性の横に座り、待ち続けた。雨をしのげる名古屋高速の高架下で、子どもが靴磨きする姿は目立った。立ち止まってくれた人に「靴磨きが好きでやっています。磨いていきませんか」と誘った。「磨き終わると、サラリーマンの疲れた顔がぱっと明るくなるんです」。市原さんは当時を思い起こす。ガムを付けられたり、酔っ払いから空き缶を投げつけられたりする嫌がらせにもあったが、「結果で見返す」とくじけることはなかった。いつしか常連もできた。岐阜市内の通信制の高校に進学しても、生活は変わらなかった。通学は週2日でよく、アルバイトをしながら、同じ場所で靴磨きを続けた。




