放射線治療医 田中修氏

 皆さんは、放射線にどのようなイメージをお持ちでしょうか? 原子力爆弾や原発事故などマイナスのイメージを連想する人も少なくはないと思います。そこで今回は、放射線治療が体に及ぼす影響についてお話しします。

 放射線の特徴は目に見えないこと、体に当たっても痛みを感じず、その影響もすぐには表れないことが挙げられます。例えるならば、日焼けと同じように光が当たった部位にのみ、徐々に効果が表れてきます。そのため抗がん剤治療のように髪の毛が抜けたり、吐き気をもよおしたりすることはほとんどありません。

 ただ、欧米では手術や抗がん剤治療と同じ割合で放射線治療が行われているのに対し、日本では放射線治療を選ぶ患者さんは、圧倒的に少ないのが現状です。治療効果については世界中で研究され、子宮頸(けい)がんや早期肺がんでは、手術と放射線治療で生存率に差はないという結果が出ています。放射線は正しく利用することで、私たちの命を守る大きな味方になってくれます。

 放射線治療を受けた患者さんの中には、放射線が体に残っていないか、周りに影響を与えないかと不安を感じる方もいるかもしれませんが、一般的な放射線治療は、そのような影響は全くありません。放射線治療装置から発生する放射線は、スイッチを入れた時にしか放射線は出ませんので、治療が終われば体に放射線が残ることはありません。

 放射線治療では、「目に見えない放射線」「痛みを感じない放射線」を高精度に扱うため、放射線治療認定医師や医学物理士ら専門スタッフの知識や技術は欠かせません。これらの環境が整っていれば、手術と同等の治療効果を入院せず、痛みも無く受けることが可能です。朝日大学病院でも、7割以上の患者さんが通院で放射線治療を受けています。

 「仕事の前」「休憩時間」「仕事の後」「曜日ごとに時間を選択」など、できる限り患者さんの生活リズムに合わせ、働きながらがん治療が受けられる環境を心掛け、患者さんの社会生活の維持にも努めています。

(朝日大学病院放射線治療科准教授)