特発性大腿骨頭壊死症のMRI。矢印が壊死部分

整形外科医 今泉佳宣氏

 前回、股関節が痛くなる病気の一つである特発性大腿(だいたい)骨頭壊死(えし)症の話をしました。今回は特発性大腿骨頭壊死症の診断と治療についてお話しします。

 特発性大腿骨頭壊死症の診断手順は、他の疾患と同じです。まず問診で股関節の痛みの期間・程度を尋ね、発症と関連があるアルコール飲用歴や薬剤であるステロイドの使用歴を尋ねます。次に股関節を触診し、さらには股関節を動かすことで痛みが出るかどうかをみます。次に歩く姿を観察し不自然な歩き方になっていないかをチェックします。

 その次に画像検査をします。基本の画像検査はエックス線写真です。症状が進行しており大腿骨頭の陥没変形を認める場合はエックス線写真で容易に診断できます。しかし初期の段階で骨頭壊死の範囲が小さく、骨頭が変形していない場合はエックス線写真に異常が見られないことがあり、異常なしと判断されてしまうことがあります。早期診断を含めた最も有用な画像検査は磁気共鳴画像法(MRI)です。エックス線写真に異常を認めない段階でもMRIにより大腿骨頭壊死症を診断することが可能です。MRIにより大腿骨頭の陥没変形が生じる前から壊死が生じている範囲を詳細に把握することが可能です=写真=。

 治療は痛みが軽度で、壊死の範囲が小さい場合は保存療法で経過観察をします。保存療法は体重減量の指導、歩行時の杖(つえ)使用の推奨、股関節周囲筋の筋力増強訓練を行いながら、痛みに対して消炎鎮痛剤を中心とした薬物療法を行います。

 保存治療が無効の場合は手術療法を行います。手術には股関節温存手術と人工股関節置換術の2種類があります。股関節温存手術とは壊死した骨頭を取り出すことなく、骨を切り大腿骨頭を回転させることで壊死していない部分で体重を受け止め、大腿骨頭の変形を防止する方法です。この手術は自分の骨を温存できるという利点があり、年齢が若くて症状が軽い場合に適応となりますが、技術的に難易度が高いこと、治療期間が長くなることが欠点です。

 一方、人工股関節置換術は変形した骨頭を取り除き、代わりの骨頭(人工骨頭)を装着し、かつ変形した骨頭により軟骨が削られてしまった骨盤の臼蓋(きゅうがい)と呼ばれる部分も人工物に置き換えることで痛みを取り除く方法です。この方法は確実に股関節の痛みを取り除くことができるという長所がありますが、手術後の脱臼や感染といった合併症の可能性や人工股関節の耐用年数といった問題があります。ただ治療期間が短くできることや、人工股関節がより改良されて耐用年数が長くなっていることから、最近では股関節温存手術より人工股関節置換術を選択する症例が多くなっています。