消化器内科医 加藤則廣氏

 結核は、肺の病気と思っている人が多いようですが、実は結核菌は体のどこの部位にも感染します。比較的まれですが、胃や小腸、大腸などの消化管にもみられます。今回は腸結核についてお話しします。

 腸結核の症状は、腹痛や下痢、血便、発熱の他に腹部膨満、腹部腫瘤(りゅう)や体重減少などと多彩で、特異的ではありません。また一方では、症状が軽微か全くないこともあり、健康診断の便潜血陽性の精査で診断されることもあります。

 一般的に、細菌は胃に入ると胃酸でほとんどが殺菌されます。しかし、結核菌は酸に抵抗力のある抗酸菌の一つです。そのため、肺結核の患者さんが結核菌の混ざったたんを嚥下(えんげ)すると、結核菌は容易に胃を通過し、小腸から大腸へ到達して腸結核を発症します。一方、腸結核の患者さんの半数近くは、肺に結核病変がないことが報告されています。こうした患者さんの感染経路は、血行感染などが推察されています。

 腸結核の好発部位は、小腸の末端から大腸の入り口の盲腸にかけての回盲部と呼ばれる場所です。ちょうど右下腹部のあたりで、クローン病や急性虫垂炎などの他の病気との鑑別が必要です。腸結核の発症は、糖尿病や他の病気のためにステロイド剤、免疫抑制剤や抗がん剤を投薬されていて、免疫機能が低下している患者さんにみられることが多いようです。しかし、全く基礎疾患がないこともあります。

 腸結核は、大腸内視鏡検査やバリウムを肛門から入れ、レントゲンで大腸を映し出す注腸検査などで診断されます。確定診断には、内視鏡検査の際に採取した粘膜の一部を、病理検査で結核菌や乾酪性肉芽腫を証明、またはPCR法で結核菌の構造物を検出することが必要です。採取した腸液を培養して結核菌が陽性であれば、確定診断となります。なお、クオンティフェロン検査やT-SPOTといった血液検査でも、結核菌の感染が証明されます。

 治療法は肺結核と同じで抗結核薬が用いられ、治療期間は数カ月から1年に及ぶこともあります。また外科切除が必要な場合もあります。なお、腸結核の患者さんは、肺に結核病変を合併していなければ、隔離の必要はありません。

 2006年には、従来の結核予防法が廃止されて感染症法に統合されました。結核菌による感染症は、患者さんだけでなく、接触者検診など慎重な対応が必要です。

(岐阜市民病院消化器内科部長)