整形外科医 今泉佳宣氏

 腰椎椎間板ヘルニアという病名は、整形外科の病気の中でもよく知られたものだと思います。しかしどのような病気であるかについては、あまり皆さんに知られていない面もあります。今回は腰椎椎間板ヘルニアについて解説します。

 腰椎というのは背骨の中でも腰の骨を意味します。腰椎は通常五つあります。それぞれの腰椎と腰椎との間に椎間板と呼ばれる軟骨があります。椎間板は水分を多く含んだ弾力のある組織で背骨のクッションの役割を果たしています。

 クッションの働きをしている椎間板には絶えず圧力が加わっており、その圧力は姿勢によって変化します。椎間板の圧力が最も高まる姿勢は立った状態だと思われがちですが、実はいすに座った状態が一番圧力が高くなります。

 姿勢に関係なく椎間板に過度に圧力がかかり続けた状態が続くと、椎間板の外側を構成している線維輪(せんいりん)という組織に亀裂を生じます。そして椎間板の内側にある髄核(ずいかく)という組織が線維輪の亀裂を通って椎間板からはみ出すように突出します。突出した髄核は腰椎の脊柱管内にある神経根を圧迫して脚の痛みやしびれを生じるようになります=図=。これが椎間板ヘルニアです。

 よく、「腰が痛いイコール腰椎椎間板ヘルニア」と思っている患者さんがいますが、これは正しくありません。腰椎椎間板ヘルニアでは、先ほど述べた髄核が線維輪の亀裂を通ってはみ出すときに確かに腰の痛みがありますが、通常数日で治まります。そして腰の痛みが治まった頃から脚の痛みやしびれを感じるようになります。

 代表的な脚の痛みに坐(ざ)骨神経痛があります。坐骨神経は神経根が合わさりお尻から太ももの後面を通る太い神経です。腰椎椎間板ヘルニアによりこの神経の走行に沿ってお尻から太ももの裏が痛くなります。また脚のしびれはヘルニアの存在部位によってさまざまな部位に生じますが、主に膝から下の下腿(かたい)部や足に生じることが多いです。

 次回は腰椎椎間板ヘルニアの診断についてお話しします。

(朝日大学保健医療学部教授)