岐阜大学皮膚科医 松山かなこ氏

 ここ数年、新しいがん治療として、免疫チェックポイント阻害薬が脚光を浴びています。この治療は皮膚科領域の悪性黒色腫(メラノーマ)で研究、開発が進み、日本では臨床の場でも、2014年にメラノーマが最初に認可されました。

 がん薬物療法は、主にDNA合成や細胞分裂を阻害する殺細胞性抗がん剤や、がん細胞の増殖シグナルを抑制する分子標的薬が使われています。一方、免疫チェックポイント阻害薬は、がんによってブレーキがかかった免疫の攻撃力を回復させる治療法であり、従来のがん治療薬物と異なる作用を持ちます。

 人の体には、免疫をつかさどる数種類の細胞があります。免疫には、自分に対して不適切な攻撃がされないようにするためや、過剰な炎症反応を抑制するためにブレーキをかけるいくつかのスイッチがあります。スイッチを入れるには、鍵(リガンド)と鍵穴(レセプター)のような対になった分子の結合が必要です。がん細胞はさまざまな方法で生来、人が持っている免疫にブレーキをかける鍵を作ります。それを利用し、免疫から逃げて体内で生存、増殖しています。

 その鍵の一つが、PD-L1という名前のタンパク質です。免疫にかかわる細胞には、PD-1と呼ばれる鍵穴があります。このPD-1(鍵穴)が、がんの持つPD-L1(鍵)と結合することで、免疫細胞のブレーキにスイッチが入り、攻撃が弱まってしまいます。そこで、この鍵穴に鍵が入らないように、ふたをしようというのが免疫チェックポイント阻害薬の役割です。免疫細胞の鍵穴をあらかじめふさいで、がん細胞の鍵が入らないようにすれば、スイッチは入りません。その結果、免疫細胞はがん細胞を攻撃し、がん細胞が増えるのを食い止めることができると考えられています。岐阜大学医学部付属病院皮膚科では、14年に保険で使えるようになって以来、多数のメラノーマの患者さんに対し、免疫チェックポイント阻害薬による治療を行っています。多くの患者さんで優れた効果が現れていますが、残念ながら効果が乏しいこともあります。どういう患者さんが効きやすいかは世界的に研究されていますが、まだはっきりしたことは分かっていません。

 副作用に関しては、今までの抗がん剤のような脱毛や吐き気などの副作用はまれですが、免疫のブレーキが外れることで本来攻撃してはいけない自分自身を攻撃し、思わぬ副作用が出現することもあり、慎重に治療を行っています。

(岐阜大学医学部付属病院皮膚科臨床講師)