消化器内科医 加藤則廣氏

 黄疸(おうだん)は皮膚が黄染したり眼球が黄色になったりする症状のことです。体質性黄疸は先天的な代謝異常症によって黄疸が出現する疾患です。今回は、体質性黄疸について概説します。

 黄疸は、血液検査で肝機能検査の一つの総ビリルビン値が高値になって出現します。直接ビリルビンと間接ビリルビンの総和が総ビリルビン値です。総ビリルビン値の正常値は0・2~1・2ミリグラム/デシリットルで、2・5ミリグラム/デシリットル以上で黄疸が出現します=図=。

 赤血球の寿命は約120日で、古い赤血球は脾臓(ひぞう)で分解され、赤血球中のヘモグロビンからビリルビンができます。最初のビリルビンは水に溶けない脂溶性の間接ビリルビンであり、肝臓でグルクロン酸抱合を受けて水に溶ける直接ビリルビンになり胆汁に流入します。グルクロン酸抱合はUDP-グルクロン酸転移酵素の一つであるUGT1A1によって行われます。ちなみにUGT1A1のグルクロン酸抱合能は、生まれたばかりの赤ちゃんは成人の1%以下で、生後3カ月になるとほぼ成人と同じレベルになります。母乳で育てられている赤ちゃんで、新生児黄疸が少し長く続く母乳性黄疸がありますが、この遺伝子の働きがまだ低い期間と関連しています。

 UGT1A1の働きは個人によって差があり、遺伝子多型と呼ばれます。実は日本人の6~8%の多くの人に遺伝子多型が見られ、抱合能は30%程度に低下していて間接ビリルビンから直接ビリルビンへの転換率が低いことが明らかにされています。ギルバート症候群に分類されますが、総ビリルビン値は高くてもほとんどが5ミリグラム/デシリットル以下で、間接ビリルビンが優位です。健康診断などで偶然に診断されることが多く、また感染やストレス、低カロリー状態などの影響で数値は変動します。臨床的には治療は必要とせずに経過観察です。

 一方、体質性黄疸の中にはUGT1A1遺伝子の働きが全くないクリグラー・ナジャール症候群Ⅰ型や10%程度のⅡ型があり、新生児期からの対応が必要です。しかし患者数は極めてまれで1000万人に1人程度です。さらに体質性黄疸には、直接ビリルビンの排せつ障害によるデュビン・ジョンソン症候群やローター症候群もありますが、いずれも極めてまれで乳幼児期に診断されます。

 また、肺がんや胃がん、大腸がんなどに広く使用されている抗がん剤の一つにイリノテカンがあります。イリノテカンはUGT1A1によって分解されますので、ギルバート症候群の人には投与量を減らす必要があります。またUGT1A1遺伝子の測定は体質性黄疸には保険では認められていませんが、イリノテカンを投薬する場合は保険適応がありあらかじめ測定しています。

 黄疸の出現は、こうした体質性黄疸以外の多くの疾患があり、後天性黄疸といわれます。黄疸を指摘されましたら早めに医療機関で受診してください。