循環器内科医 上野勝己氏

 心臓の冠動脈に動脈硬化プラークによる目詰まりができて狭窄(きょうさく)となると、さまざまな問題が起きます。心筋梗塞や狭心症、心不全を引き起こし、重篤な場合は突然死を来すこともあります。治療にはカテーテル治療やバイパス手術が行われます。1977年に初めてヒトに行われたバルーンを使ったカテーテル治療は、目覚ましい進歩を遂げました。狭窄を起こしたプラークを拡張するバルーンカテーテルはより細くしなやかになり、冠動脈の中に容易に入れていくことが可能になりました。

 しかし超高齢化社会を迎えて、冠動脈疾患の治療は新たな問題に直面しています。それは冠動脈石灰化です。冠動脈石灰化は高齢者や慢性腎臓病に多く発生します。複雑な冠動脈の分岐部に多く発生し、3本の冠動脈の複数が罹患(りかん)していることも多く治療は極めて困難です。カテーテル治療でもバイパス手術でもその成績は、石灰化のない患者に比べて明らかに悪いのです。

 冠動脈のプラークは時間の経過とともに硬くなり、さらにカルシウムが沈着して石灰化プラークとなります。石灰化プラークは骨と同じ硬さですのでバルーンで拡張することは不可能です。これまでは、歯科治療の原理を応用したロータブレーターやダイヤモンドバックというカテーテルを使って石灰化プラークを部分的に削って拡張してきましたが、技術的に困難で、容易な治療ではありません。削った石灰化の粉は赤血球よりも小さく血流によって流れ去り体内で吸収されますが、石灰化の量が多いと冠動脈の流れが一時的に悪くなる危険性もあります。

 この冠動脈石灰化病変の治療に、衝撃波(ショックウエーブ)を利用した全く新しい考え方の治療カテーテルが使用できるようになりました。腎結石や胆石の破砕に使用されてきた衝撃波を冠動脈治療に応用したもので、バルーンカテーテルを用いて冠動脈内で衝撃波を発生させるのです。この衝撃波は軟らかい動脈組織を傷付けることなく石灰化プラークのみに亀裂を入れ拡張しやすくします。衝撃波血管内砕石術(IVL)といいます。

 病変部にIVLカテーテルを入れます。図1では、石灰化プラークが硬くてバルーンがしっかり広がっていません。図2のように、バルーンの中にあるエミッターから衝撃波が発生して冠動脈石灰化プラークに小さな亀裂を入れていきます。亀裂が入り軟らかくなった石灰化プラークはバルーンで拡張され、広い血管内腔(ないくう)が得られます=図3=。

 利点は、高度なカテーテル技術を必要としないこと、冠動脈の末梢(まっしょう)を塞栓(そくせん)させる危険がないこと、冠動脈破裂の危険がないことです。欠点としては、石灰化の量が減るわけではないので(あくまで少し軟らかくするだけ)、厚みが0・5~1ミリ以上の重度の石灰化病変では十分な血管拡張効果が得られないことです。

 いずれにせよ、冠動脈治療の最大の難敵である高度石灰化プラークに対して新しい治療手段が加わったことで、治療の選択肢が広がり、より多くの患者のメリットとなるのは間違いないでしょう。