消化器内科医 加藤則廣氏
喉の詰まり感や心窩(か)部(みぞおち)の不快感などの症状の要因の一つに、「薬剤性食道炎」があります。傷害の程度によっては吐血を来すこともあります。今回は、服用した薬剤が長時間にわたって食道内に停滞すると、薬剤が食道の粘膜を直接に傷害することがある薬剤性食道炎について説明します。
服用した薬剤が胃まで到達せずに食道内に停滞する理由の一つは、何らかの疾患で食道の運動機能が低下することです。また、食道裂孔ヘルニアや逆流性食道炎も食道内に薬剤が停滞する要因になります。さらに唾液量の減少も食道内に薬剤が滞る一因です。高齢になると、食道の運動機能が低下したり、唾液量が減少したりすることが知られています。
高齢者の中には、多くの薬剤を服用している方も少なくありませんので、薬剤性食道炎を防ぐには、服用1回につき100㏄以上の水でゆっくりと内服することが必要です。また薬剤は上半身を起こして服用し、30分程度は横にならないようにして薬剤が胃内に到着する時間的余裕を持たせる配慮も重要です。
なお最近は口腔(こうくう)内崩壊錠といって、薬剤が口腔内で溶け、「お水なしでも服用できる」タイプの薬剤が多くなっているので選択することも一案です。また、循環器系の疾患がある患者さんで、左心房の拡張を来していると、心臓が食道を圧迫して薬剤性食道炎を生じやすいこともあるので注意が必要です。
薬剤性食道炎を引き起こしやすい薬剤として、これまでに100種類以上が報告されています。表に薬剤性食道炎を来しやすい薬剤を頻度の高い順に示します。最も高頻度の薬剤は抗菌剤で、特にテトラサイクリンやクリンダマイシンで生じやすいようです。次に痛み止めの消炎鎮痛剤ですが、この薬剤は食道だけなく、胃や小腸から大腸に至るまですべての消化管において出現します。
また、最近では骨粗しょう症の薬であるビスホスホネートでの報告が増えてきています。立位または座位で30分以上保てない患者さんは服用することが禁忌となっています。
なお薬剤性食道炎は服用開始直後だけでなく、1年以上の長期間の服用後に出現することもあります。薬剤性食道炎の診断は内視鏡検査で行われます。投薬された薬剤を服用していて前胸部や心窩部の違和感に気付いたら、決して自分の判断で服薬を止めることはせず、早めに担当医に伝えることが大切です。
(岐阜市民病院消化器内科部長)