田中英高:小児のめまい・平衡障害―コロナ禍に発症しやすい起立性調節障害―小児耳2022;43(1):51-56より引用

小児科医 福富悌氏

 新型コロナウイルス感染拡大により、この数年間に多くのことが変化してきました。その一つにスマートフォンやパソコンなどによるICT(情報通信技術)の普及があります。

 小学生にはタブレット端末が与えられ、今までとは勉強方法が大きく変わりました。勉強だけでなく、友達との関わりや遊びもICTにより大きく変化しました。ここ数年、友達とはLINEなどのICTを用いて会話をする機会が多くなり、遊びにおいても外で遊ぶことより、友達とゲームをするときは、どこかに集まるのではなくて、それぞれが家にいてICTを通じて行うことが多くなりました。

 これらは新しい時代の子どもの姿の一つだと思いますが、体の発達から考えると運動機能だけでなく自律神経など全身の神経バランスが発達する大切な時期に外で遊ぶ機会が減り、家の中の快適な空間で動かない時間が増えてきたことになります。さらにはゲームなどに夢中になって夜更かしすることから、睡眠時間が少なくなり朝起きられないことなども見られるようになりました。そのため、ICTは知的発達については良いものの、利用の仕方によっては子どもの発達・発育には良い状況とは言えません。

 10月は天気に恵まれることが多く運動会などもあります。ところが少し気温が高くなり急に体を動かすと体調を崩すことがあります。このような場合は、本来は外を元気に走り回る子どもであるはずが、気温変化などのストレスや運動不足により、自律神経の反応が弱くなったと考えられます。自律神経による立ち上がった時の血圧の調節や、体の多くの機能のバランスが悪くなったことによります。

 このような状態が続いて、さらに症状が進行すると起立性調節障害(OD)と呼ばれる状態になります。起立時に体内の血液移動が生じると、脳や全身臓器への血流が低下し、頻脈や低血圧を生じます。主な症状は①立ちくらみ、あるいはめまいを起こしやすい②立っていると気持ちが悪くなる、ひどくなると倒れる③入浴時あるいは嫌なことを見聞きすると気持ちが悪くなる④少し動くと動悸(どうき)あるいは息切れがする⑤朝なかなか起きられず午前中調子が悪い⑥顔色が悪い⑦食欲不振⑧腹痛をときどき訴える⑨倦怠(けんたい)あるいは疲れやすい⑩頭痛⑪乗り物酔いしやすい、などです。

 この中で三つ以上当てはまるか、あるいは二つであってもODが強く疑われる場合には、自律神経の反応が低下していることが考えられます。症状が進むと日常生活や勉強だけでなく登校などに支障を来すことがあります。これらは規則正しい生活と、散歩のような軽い運動など、体を動かすことを毎日続けることで防ぐことや治すことができます。このようなODの症状は子どもだけでなく、大人でも認められることがあります。症状が悪化した場合には医療機関を受診しましょう。