精神科医 塩入俊樹氏

 私たち人間は、いろいろな「ストレッサー(外部環境からの刺激)」によって、こころやからだに「ストレス(こころやからだが緊張した状態)」が生じます。「ストレッサー」は、人間関係のような日常生活上でよく生じるものから、能登半島地震や、ウクライナやガザ地区での戦闘まで、質・量ともにさまざまなものがあります。そして、「ストレッサー」によって起こるこころやからだの反応を、「ストレス反応」と呼びます(現在では、これらを総称して「ストレス」と呼ぶことが一般的です)。

 実は、この「ストレス反応」、それ自体は誰もが経験している普遍的な体験であり、脅威や危険を察知し、回避するための警報システムであり、私たちの命を守るために欠かすことができないものなのです。ですから「ストレス反応」は生命維持のためのアラームとも言えます。

 では「ストレス反応」には、どのようなものがあるのでしょうか。ヒトは「ストレッサー」によって、どのような反応(=症状)が起きるのでしょうか。

 「ストレス反応」は、大きく精神的反応(=精神症状)と身体的反応(=身体症状)の二つに分けられます。さらに後者には、筋肉系の症状と自律神経系の症状があります。

 まず、精神症状についてです。緊張や過敏、過覚醒といった「ストレッサー」に適切に対処するために意識レベルを上げるといった正常の反応だけでなく、「ストレッサー」が過度になると、不安や恐怖を感じたり、焦燥(イライラ)や混乱を呈したり、あるいは抑うつ状態(集中困難や不眠など)になることもあります。

 また、筋肉系の症状は、ほとんど気付かない程度の緊張から、震え、けいれん、時に筋力低下まで、実にさまざまです。一般に最も多いものは、頭痛や肩こり、首の痛みなどで、不快感を伴います。

 一方、主に不安や恐怖が増大したことで、からだは命を守るために戦闘モードとなります。そうなると、安静時の自律神経系のバランス(副交感神経系優位)が崩れ、交感神経系の働きがより強くなります。その時の症状は、発汗、動悸(どうき)、頻脈、紅潮、熱感、手足の冷感、口渇、呼吸困難感、過呼吸、胃部不快感、吐き気、尿意、便意など多様です。

 そして、これらの「ストレス反応」が生じた結果、行動面の症状として、赤面、蒼白(そうはく)、眼振、緊張した表情、声が震える、落ち着かない、動作が固まる、泣き笑い、冗舌などが現れるのです。

 次回は、ストレスで生じる心の病気について、お話しします。