競り落としたばかりのマグロをさばく松野貴紀さん。1匹を10分ほどで手早く解体する=18日、岐阜市茜部新所、市中央卸売市場
ブロックに切り分けられるメバチマグロ=18日、岐阜市茜部新所、市中央卸売市場

 朝5時。まだ暗い中を運搬車やフォークリフトが走り回る。真冬の冷えた空気を裂くようにサイレンが響き渡り、マグロが横たわる「太物売り場」で競りが始まった。

 18日の岐阜市中央卸売市場(同市茜部新所)。「ええバチやなぁ」「これでもうけてよーっ」と競り人が威勢よく売り込む。

 居並ぶ中に、黄色い長靴姿の松野貴紀さん(39)=各務原市=の姿があった。仲卸の丸井井深商店の太物部長。狙いは前日に水揚げされた千葉県産のメバチマグロだ。「銚子の魚はいい。いいやつは他に渡したくない」。この日最高値の1キロ4752円で競り落とした。

 身長180センチ、体重95キロの堂々の体格。市岐阜商業高校の野球部時代は主砲でならした。まな板のマグロに向き合うと、特注の刃渡り約130センチの包丁をしならせ、切れ味鋭くさばいていく。

 18歳で入社した時は、「ちんたらするな」と怒られた。夜中から夕方までの体力勝負。辞めるつもりで途中で帰ったこともあるが、頭を下げて戻った。「行儀の善さでない、自由な市場が合っていた」。淡水、近海物と一通り魚を扱い、30歳を前に太物担当に。自らの才覚で魚を仕入れ、顧客をつかむ面白さに魅了された。

 「マグロは目利きで決まる」といわれ、尾の断面や体つき、水揚げ港など限られた情報を基に肉質や色、脂の乗りの判断を迫られる。「同じ魚はおらへん。毎日毎日、一匹一匹違う」

 中でも色味を大切にする顧客は多い。身の赤さは空気に触れることで鮮やかさを増すため、すぐに油紙に包んで空気を抜く。届いたすし店や料亭の冷蔵庫で最も赤くなるよう気を配る。

 かつて岐阜の太物は、こうした色変わりの少ないカジキが主流だった。移転前の長住町の市場を知る先輩の田中忠美さん(71)は「戦後の闇市のようだったね。軒から幕を張って、外に魚を並べて、そこにみぞれが降ってきて…。木箱の上でカジキを切った」と当時を振り返る。

 高価なマグロの取引量は名古屋の1日分が岐阜の1年分といわれるほど少なかったが、消費者の好みの変化か、物流の改善か、いつしか逆転。食卓に映えるマグロは身近な魚になった。

 新型コロナウイルスの感染拡大で、海外産の空輸が途絶え、飲食店の注文も減った。それでも、松野さんは浜値を割りそうな魚を時に買い支える。「送ってもらえなくなったら商売もできん。漁師に『あしたも頑張ろう』と思ってもらって、市場も次の世代に残していかないとね」。仲買人の心意気を見せた。

◆岐阜市中央市場一般購入も

 新鮮なマグロが手に入るのが市場の魅力。岐阜市中央卸売市場に入る仲卸「丸井井深商店」の松野貴紀さんに食べ方を聞いた。

 しょうゆとわさびで食べる刺し身が王道だが、卵黄と絡めてご飯にのせたり、ノリでくるんだりしてもおいしいという。お薦めはホンマグロほど高くないメバチマグロ。脂が乗った中トロでもくどさがないそうだ。

 仲卸での一般客の購入は歳末などに限られていたが、2020年6月の法改正で常時できるように。丸井井深商店の場合、キロ単位で販売するブロック(1キロ5千~6千円)かサク(2サク入り3千~3500円)。「一番安いけど一番おいしい」という中落ちがあることも。水、日曜日は休み。営業は午前6~同9時。