《転倒時の反射活動の例》(粕山達也:運動発達に基づく運動器疾患の予防戦略、日本予防理学療法学会誌、2024,(2):45-52より引用)

小児科医 福富悌氏

 少子化が進み、社会にとっても、どの保護者にとっても子どもの大切さが占めるウエートが大きくなってきました。子どもがけがをしないようにすること、子どもが病気にならないようにすること、子どもが生き生きとし、伸び伸びと育つことなど、子どもを大切に育てることについては多くの考え方があります。しかし、子どもを大切にすること、守ることが全て子どもにとって良いとは限りません。

 子どもは危険を予測する力が弱いため、遊びの中でさまざまなけがをすることがあります。屋内と比べると屋外では危険が多く、時には交通事故などに遭うことがあります。特に最近では新型コロナウイルス感染症の流行に伴い、予防のために家の中にいることが多くなり、子どもたちが長時間、座ってゲームをすることが日常生活の一部になってきました。その結果、子どもの身体活動量が少なくなりました。

 最近の研究で、身体活動量の低下は、筋骨格や心血管系の健康問題だけでなく、認知能力や学力、さらにはコミュニケーションなどの生活の質にまで関わることが明らかになってきました。このことはどの年齢でも同じですので、活動的な生活を送ることや、スポーツをすることは大切です。

 また、子どもの発達は一定の方向に進み、その方向は遺伝で規定されています。それだけではなく、最近の研究から、ドミノ倒しのように何かの刺激があり、次の段階に発達が進むことが分かってきました。さらに、体の発達や成長には、身長の伸びが高校生の頃に止まるように、ある程度の時間的な制限もあることも分かってきました。すなわち、身体活動量の低下からくる身体機能の低下を、大きくなってから取り戻すことが難しいと考えられます。

 子どもは自らの遊びの中で、多くを経験し発達しますが、体の動きを上手に使うためには、ただ好きな遊びや走り回っているだけでは身に付きません。運動スキルを身に付けることが大切です。そのためには、動き方を導き、教えることが必要です。運動スキルを身に付けることにより、子どものけがを防ぐことができるようになります。

 また、子どもの頃の運動スキルは成人まで影響すると考えられています。ある程度の基本的な運動スキルは多くのスポーツに共通しているため、さまざまなスポーツに生かすことができます。そのため、幼少期の頃に運動スキルを身に付けた人と、そうでない人が、成人になってから運動やスポーツを始めたとすると、上達に大きな開きができます。子どものけがを減らすことと、生涯スポーツを楽しむためにも子どもの頃に運動スキルを身に付けるようにしましょう。