乳腺外科医 長尾育子氏

 今日は「Breast Awareness(ブレスト・アウェアネス)」というテーマでお話しします。最近、身に付けたい生活習慣として発信されている言葉です。アウェアネスは気付き、認識などと訳されますので、ブレスト・アウェアネスは乳房を知ること、つまり自分の乳房を意識して良い状態に保ち、乳がんの早期発見にもつながる大切な生活習慣のことをいいます。

 乳房の異常を指摘されたことがない方、乳がんの手術を受けた方、20代と若い方も、ブレスト・アウェアネスを身に付けるために、次の四つの内容を実践しましょう。①自分の乳房の状態を知ること②気を付けなければならない乳房の変化を知ること③異常があったらすぐに医師に相談すること④40歳になったら乳がん検診を受けること、です。

 (1) 自分の乳房を見て、触って、自分でチェックしましょう。乳房の硬さは個人差がありますが、表面はやや凸凹している場合があり、生理前には硬く、触れると痛みを感じることもあります。乳がんを触ったことがない方がほとんどだと思いますが、いつも自分の乳房をチェックして正常な状態を知っておくことでそれと違った点を見つけることができます。

 (2) 乳房の症状として最も気を付けたい症状はしこりです。自分でチェックするときのこつは左右を比較すること、つかまないでさすることです。また、はっきりしたしこりでなくても、何となく乳房の一部分が硬い、左右差があるなどの症状、乳頭部分の皮膚の荒れ、乳頭分泌にも注意してください。乳頭分泌は授乳後には数年間は続くことがあります。両側の乳頭の複数の穴から透明か、やや白濁した液体が出る場合はまず心配ありません。片方の乳頭の一つの穴から黒、茶褐色など、血の混じった分泌が出るときは注意が必要です。また、乳がん患者のうち1%は男性です。男性乳がんの多くは乳頭乳輪の直下のしこりで異常に気が付きますが、まさか男に乳がんはないだろうと思い、つい受診が遅れ、診断も遅れることがあります。ぜひ、男性も自分の乳頭や乳輪部分を中心にいつもと変わったことはないかチェックをしてください。

 (3) 受診先は、乳房検査を行っているクリニック、あるいは病院の乳腺外科・外科です。かかりつけ医がある場合には、病診連携のシステムを利用して病院の乳腺外科に予約をすることも可能です。コロナ下、病院を受診することをためらわれるからか、かなり進行した状態で家族に連れられて受診される方が増えた印象です。いったんできた乳がんが自然に消えるということはまずあり得ず、腫瘍は大きくなり、皮膚を引き込み乳房が変形する、皮膚を破って出血する、痛みを伴う、臭いが出るなどの症状が現れます。さらに体の他の臓器に転移すると、骨転移による腰痛などの痛みや、呼吸器症状なども見られるようになります。

 (4) 日本の対策型検診は2年に1度のマンモグラフィーが基本です。検診のマンモグラフィーは自覚症状のない方が対象であることを大前提に読影して結果を判定されていますから、自覚症状がある場合には検診ではなく病院を受診してください。岐阜県で行っている対策型の検診は、千人の女性が受診したら要精査となるのは60~70人、そしてそのうち3人ほどが乳がんと診断されています。岐阜県の対策型検診を担っている施設は、質の良い検診のために頑張ってくださっています。自費で行う人間ドックの乳房検査では超音波検査が選択できる場合もあります。職場を通じて受ける任意型の検診では、40代までの比較的若い方や、出産・授乳経験のない方、女性ホルモン補充療法を受けている方は、超音波検査を組み込んだ検診を受けてもよいでしょう。

(県総合医療センター乳腺外科部長)