小児科医 福富悌さん
子どもたちを見回しますと、走り回る子どももいますが、多くはおとなしく座っています。座っている子どもを見ますと、どの手にもスマホやタブレットがあり、じっと目を凝らし集中しています。最近はこのような光景が多くなり見慣れてきました。
電子機器やゲームそのものが子どもへ与える影響については、賛否両論があるところですが、運動不足は誰もが認めることだと思います。子どもの運動不足による身体活動量の低下は、体力・運動能力の低下だけでなく、学習意欲やストレス対応能力の著しい低下にもつながると報告されています。
運動不足でストレスが増加することによって、身体活動性が低下するだけでなく、脳の大脳側頭葉の内側部にあり、記憶、学習やストレス調節に重要な役割のある海馬の神経が脱落し、認知機能の低下が生じることが考えられています。このことは中高齢者でも同じで、運動不足や加齢に伴った運動器障害により、移動能力の低下だけでなく認知機能の低下を来します。これは、要支援や要介護になる危険の高い状態であるロコモティブシンドロームとして知られています。
生まれてからの運動発達は、神経の発達に伴い生後3カ月で首が据わり、6カ月ごろになるとお座りができ、8カ月ごろから四つんばいができ、1歳ごろには歩くことができるようになります。これらは自然に起こるように見られますが、運動などの刺激や経験によって発達していきます。子どもの発達において運動は単なる筋肉の収縮ではありません。視覚・触覚・深部知覚・前庭感覚などの感覚を脳で統合し、運動意図の下、参加する筋肉やその収縮の程度、順番、タイミングなどを、経験の中でフィードバックし修正することで、運動や動作ができるようになります=図=。
子どもたちの運動不足は、青年期にまで影響することが分かってきました。幼児期では運動機能の問題が中心となりますが、学童期になると学業成績などにも影響を及ぼし、青年期にかけては運動嫌いから、周囲からの孤立や自尊心の低下など、二次的な心理・社会的問題として発展することもあります。この一因は、海馬の機能が低下するためと考えられています。
体を使わず脳を鍛えようと脳トレに浸っても、ゲーム成績や、画面での反応性は向上しますが、論理的思考や短期記憶は向上しません。楽しい人生を過ごすためには、日々の運動で少しでも海馬を鍛えながらスタミナをつける方が得策ではないでしょうか。