「勝てて良かった、ホッとしました」。3年半ぶり勝利の味は格別だ。一連の不祥事で身に降り掛かった逆風と荒波を乗り越えて、笠松競馬に頼もしい男が帰ってきた。
東海ダービージョッキーで、笠松リーディングに2度輝いた筒井勇介騎手が2日、復帰7戦目でうれしい1着ゴールを飾った。メインでは自厩舎のイイネイイネイイネ(牡5歳、田口輝彦厩舎)でこの日2勝目。初日は苦戦したが修正能力が高く、早速好騎乗を見せてくれた。
■3馬身差完勝「1個勝てた」とニッコリ
筒井騎手復帰後のうれしい初Vは騎乗2日目の4R。4番人気のアルティマダンサー(牡5歳、後藤佑耶厩舎)で鮮やかに差し切った。最初の直線でダッシュ良く3番手につけて、3コーナーで先頭に並びかけると、ゴールでは後続を3馬身引き離して完勝となった。
レース後、筒井騎手は「砂をかぶらない位置で行けば、ワンチャンあると言われてたんで。何とか出遅れないように」と好位を追走。「思ったより手応えはなかったが、ステッキを入れたらビュッと伸びたので、反応あるうちに行ってしまおう」と快走を振り返った。
理想的なレース運びで差し脚鋭く、ゴールの瞬間は「取りあえず1個勝ったんで、まあ良かったなあという感じですね。乗せてもらったんで、ありがたかったです」と喜びに浸った。2着にはルーキーの明星晴大騎手がゴール前、岡部誠騎手をかわして追い込んだ。筒井騎手が復帰後1勝目のポーズを決めたところ、背後で明星騎手が馬具を手入れしており、一緒にパチリ。ワンツーの決めポーズにもなった。
■「祝勝会ですか」「いや反省会に」
勝利の伏線はあった。2Rでは、しんがり負け3回続きの9番人気馬エクルベージュ(牝3歳、田口輝彦厩舎)で2着に突っ込んだ。穴馬を馬券に絡ませる筒井騎手らしさが出た一戦。「あれも位置取りが良かった。また頑張っていい結果を出したいですね」と4Rの勝利へとつなげた。「きょうは祝勝会ですか」と聞くと「いや反省会に」と。復帰初日に確勝級とみられたホーリーホックで2着に敗れたほろ苦い結果が悔しそうだった。
■自厩舎のイイネイイネイイネでも勝利
11R「黒留袖特別」(A2特別)は、東海ダービー2着馬イイネイイネイイネに初騎乗だったが、調教ではずっと乗ってきて好感触。単勝1.9倍で、もう負けられない一戦。3番手につけて4コーナーで先頭を奪うと、逃げた東海ゴールドC優勝馬のストームドッグに2馬身差でゴールイン。強いレースを見せてくれた。
自厩舎の馬では復帰後初V。「お待たせしました」と吉田勝利オーナー、田口輝彦調教師らと記念の口取り写真を撮影。
筒井騎手は「きのうは駄目過ぎて、自分が情けなかったがホッとしました。イイネイイネイイネは乗り味が良かったです。(前走まで騎乗した)岡部騎手からいろいろと聞いていたんで。それも役に立ちましたね。体調はすごくいいし枠順も良く、いろいろかみ合った。調教からよく乗り込んでいて結果が出て良かったです。もっと結果が出るよう頑張ります」と意欲を示した。
田口調教師も「ホッとした。まあ頑張ってやってください」と筒井騎手の「再出発」での活躍に期待を込めた。
■厩務員、調教の仕事を地道にこなして「復活V」
筒井騎手は一時ジョッキーの道を閉ざされていた。裁判で勝訴して以降は、厩務員、調教の仕事を地道にこなして「復活V」を果たした。2019、20年には笠松競馬リーディングを獲得しており、騎乗技術は卓越。先行、逃げを得意としており、笠松コース向きの必勝パターンを持ち合わせている。
地元ファンからは「復帰おめでとうございます。このところ(かつてトップを争った)渡辺騎手ばかり勝っていますが、筒井騎手にはリーディングに返り咲いてほしい。復帰まで、つらいこともあったでしょうが『僕は一生懸命に騎手をやっていますよ』というところをアピールしてください」と活躍を期待。
また「筒井騎手の実力なら、1着を量産して頑張れば年内に50勝ぐらいいけるのでは。田口先生のところの馬でバンバン勝つところを見せてほしい。名古屋にも参戦して、笠松競馬をアピールしてもらえるとうれしいです」と復帰を歓迎していた。
■復帰初日は苦戦、渡辺騎手とのマッチレースで2着
カムバック初日(1日)も筒井騎手は、真夏の強い日差しを浴びて5鞍に騎乗。2Rでセザンステート(田口厩舎)に騎乗し2番手をキープ。7番人気で4着に粘り込んだ。その後は6着、7着と掲示板を外した。
1番人気に推された10Rでは、自厩舎のホーリーホック(牝4歳、田口輝彦厩舎)に騎乗。単勝1.3倍、3連勝中で先手を奪ったが、渡辺竜也騎手騎乗のハーイ(牝7歳、笹野博司厩舎)に食い下がられ、3コーナーからは連続リーディングの名手2人によるマッチレースの様相。筒井騎手は押し切りを狙ったが、ぴったりマークした渡辺騎手がゴール手前から一伸びし、差し切り勝ち。筒井騎手の復帰星は阻まれた。
復帰初日を終えて筒井騎手は「なかなか追えなくて厳しかったですね。感覚的なものもあるし」と苦笑い。10Rの2着が最高だったが、吉田勝利オーナーがつぶやいていた通りの結果。「3コーナーで相手(ハーイ)の手応えが良さそうだったから」と追い比べで後手に。渡辺騎手とのリーディングジョッキー対決では「お互い負けられない」と意地のぶつかり合いになって見応えがあった。
■笠松競馬のツートップとして力強くけん引を
一方の渡辺騎手は3番人気・ハーイとのコンビ。「振り切られていたんで厳しいかなと思ったら『アレッ』という感じになって」。結果的に筒井騎手の復帰初Vを阻止した形になり「みんなから僕は『敵』みたいになっているのでは」と笑わせてくれたが、名手2人の本気度が伝わる好レースになった。良きライバルとなる渡辺騎手と筒井騎手には、笠松競馬のツートップとして力強くけん引していってほしいものだ
3年半ぶりとなった実戦で「やっぱりレースと攻め馬は違う」。復帰初戦の2Rは追い込み馬だったが「バチバチに行けと言われていて」と2番手からの積極策で4着に粘り込んだ。久々の本番レース。「能力試験のレースとかは何回も乗っていましたが」、摸擬レースなどはなく、やはり戸惑いもあったようだ。
復帰戦では返し馬での本馬場入りから、熱心なファンから「お帰り勇介、頑張れよ」と声が飛んだ。一時は「ジョッキーとして復帰できるのか。笠松競馬場のレースで乗れるのか」と苦しい思いもあっただけに、ファンの声援を背に受けて喜びをかみしめながら、ゲートインへと向かった。ゴーグル越しに、晴れやかな笑顔を見せていた。
■高木騎手「頑張ります」、筒井騎手「またリーディングを」
8月1日付で晴れて笠松競馬に復帰した高木健騎手(59、水野善太厩舎)と筒井勇介騎手(41、田口輝彦厩舎)。撫子争覇シリーズ初日には場内で騎手、調教師紹介セレモニーが行われた。ファンや競馬組合が2人の再出発と、新たに厩舎を開業する荒木道哉調教師(54)と森山広大調教師(31)のスタートを祝った。
最初にベテランの高木騎手は「このたび、新しくもないですけど」と照れ笑いで始まり、ファンも大爆笑。「取りあえず頑張りますのでよろしくお願いします」とメッセージを送った。続いて筒井騎手は「こんにちは。またリーディングを目指して頑張っていくので応援をよろしくお願いします」と意欲を示した。
筒井騎手は心機一転、デザインを一新した勝負服(胴赤、そで黒・白星ちらし)を着込んで気を引き締めて登場。にこやかな表情で応援するファンに花束を手渡したり、色紙へのサインで交流も再スタートさせた。ファンからの「似合うね」の声には「大胆なものにしてみました」と斬新さをアピールした。
高木騎手の騎乗はなく、勝負服姿ではなかったが、花束を贈られると笑顔でファンの声援に応えていた。
■高木騎手「次の開催では乗ります」
「体重面でどうか」とファンの声もあった高木騎手は「乗ろうと思えば乗れたが、鞍を用意していなくて。次の開催では乗ります」と意欲。懐かしい勝負服姿での登場が楽しみになる。
高木騎手を応援するファンは「セレモニーで勝負服姿を見たかった。騎乗がないのは寂しいことで、みんな健さんの帰りを待っています。腕っぷしが強く差し切るレースを期待。騎乗数は少なくても注目を浴びる騎手なので頑張って。ロードバクシンでくろゆり賞を制しており、また重賞も勝ってほしい」とエールを送っていた。
また若いファンも「笠松の騎手は少なかったが、2人の復帰で増えてうれしいです。名古屋の騎手にやられることも多いが、(健さんは)1100勝超えの名手なので、ベテランの力で笠松の騎手にもいい風が吹くのでは」と期待していた。
■荒木道哉調教師「1頭1頭丁寧に」、森山広大調教師「少しずつ結果を」
荒木道哉調教師は「1頭1頭丁寧に、ゴール前で頑張れる精神力、スタミナのある馬をつくっていきたいと思います」と、森山広大調教師は「いろいろな方に助けてもらいながら、少しずつ結果を出していけたらと思います」と、ともに力強い言葉。
笠松競馬では、調教師も一連の不祥事や引退で14人に減っていたが、両調教師の加入で16人になった。
2人とも厩務員からの転身で、開業後の活躍が期待されている。厩舎と馬房は空いており、オーナーさんに競走馬を預けてもらい攻め馬で仕上げられば、次開催からでもレース本番を迎えることができる。
535頭ほどに増えてきた笠松の所属馬たち。強い馬づくりのためには馬主、調教師、厩務員、騎手らホースマンが一丸となって愛情を注ぎ、育て上げることが大切。新たに調教師の道へと踏み出した2人への期待は大きく、末永く笠松競馬を盛り上げていただきたい。
場内正門と東門に掲示されている「笠松競馬所属騎手一覧」は、休んでいた高木騎手と筒井騎手が再登場し、14人になった。これまでジョッキー数が少なくて寂しかったが、ファンの来場を待つ頼もしい顔ぶれは徐々に増えており、気温38度前後の炎天下で熱戦を繰り広げている。
お盆開催となる夏季特別シリーズ(12、14~16日)は岐阜金賞やくろゆり賞の重賞開催や、トークショーなどイベントも盛りだくさん。昭和レトロ感あふれるグルメも堪能したい。
■CCNと岐阜新聞コラボ番組、若手騎手やモデル厩舎登場
笠松競馬の歴史や魅力をCCNで放送中。岐阜新聞リポ「地元!(じもっと)」の8月特集で、ハルオーブ、アオラキ参戦日に「オグリの里」が密着取材した。若手騎手インタビューやファンの声、夏グルメ、放馬対策のモデル厩舎も登場します。
※「オグリの里2新風編」も好評発売中
「1聖地編」に続く「2新風編」ではウマ娘ファンの熱狂ぶり、渡辺竜也騎手のヤングジョッキーズ・ファイナル進出、吹き荒れたライデン旋風など各時代の「新しい風」を追って、笠松競馬の歴史と魅力に迫った。オグリキャップの天皇賞・秋観戦記(1989年)などオグリ関連も満載。
林秀行(ハヤヒデ)著、A5判カラー、206ページ、1500円。岐阜新聞社発行。笠松競馬場内・丸金食堂、ふらっと笠松(名鉄笠松駅)、ホース・ファクトリー、酒の浪漫亭、小栗孝一商店、愛馬会軽トラ市、岐阜市内・近郊の書店、岐阜新聞社出版室などで発売。
※ファンの声を募集
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