地方には手薄な食料支援などの資源が豊富にある都市部で、人知れず孤立を深めている困窮者がいる。名古屋の現場で声を集め、当事者と向き合った。
◆ ◆
名古屋市中心部の栄地区からほど近い、名古屋高速道路の高架下。支援団体が行う炊き出しに、約100人もの路上生活者(ホームレス)や生活困窮者が列を作っていた。50代の男性は言う。「名古屋じゃなかったら、もうとっくに死んでるよ」
地方都市と比べて食事や住まいの支援が手厚く、多くの困窮者を引き寄せる名古屋の「引力」。列の多くは高齢の男性だが、若い人や、女性もいた。皆が静かに順番を待ち、広場の隅でカレーライスをかき込んで夜の街に消えていく。冬のイルミネーションがきらめく都会の一角に、光の届かない場所があった。
◆「毎日1食」名古屋なら 地方を離れ、炊き出しに長い列
名古屋市中区、名古屋高速道路の高架下の広場には、都市の暗部をくっきりと浮かび上がらせるような時間帯がある。生活困窮者を対象にした炊き出しが始まる午後7時ごろ。100人を超える行列ができ、温かい食べ物を受け取ってはさっと食べて去っていく。配食が始まって1時間もすると、元から何もなかったかのように静寂が広がる。彼らはどこから来て、どこへ帰っていくのか。
50代の男性は、近くの公園に止めた窓の開かない車で暮らしているという。フォークリフトの免許を持っているが、何度面接を受けても採用を見送られてきた。「じきに60歳だから。資格だけ持っとっても何の意味もない。なるだけ長く雇いたいからなんやろね」。年齢がネックになっていることは理解していた。車は故障しており、修理する現金はない。「こうして炊き出しを回ることしかできん」。半ば意地になって今の生活を続けているのが実情で、他の誰かを頼ることさえ、おっくうになっていた。
◆ ◆
岐阜市では週1回がやっとの炊き出しが、名古屋市では毎日行われている。さまざまな支援団体が連携して日替わりで担っており、場所は4カ所。毎日必ず1食にはありつける。
NPO法人「ささしまサポートセンター」(名古屋市)は、炊き出し会場で生活医療相談を行っている。十数人のボランティアが食事中の人に声をかけ、困り事を聞いて手作りの冊子を配る。行政による支援メニューや手続きの方法などを紹介しているこの冊子の表題は「路上からの脱出」。区役所まで生活保護の申請に同行することもある。
協同組合に勤める傍ら、センターの活動に携わる松島周平さん(40)は「並んでいる人の半数以上にはアパートがある。ただ、皆さん、ぎりぎりの生活です」と明かす。住まいを得てもなお1食でも食費を浮かせようとしたり、日雇いの仕事を転々としていたりと、それぞれに苦しさを抱える。行列の人数は生活保護受給日や年金支給日によって増減し、200人近くになる日もある。
◆ ◆
「元から名古屋にいる人は少ないのではないか」。複数の支援団体メンバーが同様に口にした。「大阪から自転車に乗ってきた人がいた」「北海道から来た夫婦がいた」。なぜ、名古屋なのか。
ある男性(32)は九州から電車と高速バスを乗り継いで名古屋へ来た。折り合いが悪い実母から逃げるようにして、故郷を離れたという。名古屋へ来た理由は「仕事がありそうだと思った。それに東京や大阪と違って、人が優しそうだなって」。だが、名古屋に来て始めた寮付きのパチンコ店のアルバイトは1週間と持たなかった。単純なミスが続き、まるで仕事ができない。「生活保護や福祉に頼らなくても自分は生きていけると思っていたけど、違った。やっぱり助けが必要な人間なんだなって、思い知った」。街を漂うようにしてたどり着いたのが、夜の高架下だった。
■ご意見・ご感想お寄せください■
生活に困っている人の支援や孤独・孤立対策など地域社会の在り方について、あなたも一緒に考えてみませんか。メッセージフォームから記事の感想や意見、取材依頼などを自由にお寄せください。