鍛治舎巧監督(73)のインタビュー第3回は、選手の力を最大限に引き出す「名将の至言」。

母校県岐阜商での最後の指揮となった2024年夏決勝で選手にアドバイスを送る鍛治舎巧監督=長良川球場

 鍛治舎巧(かじしゃ・たくみ) 1951年、揖斐郡大野町生まれ。岐阜商高(現県岐阜商)のエースとして69年選抜ベスト8。早大を経て社会人野球の松下電器(現パナソニック)で選手、監督。全日本コーチも務めた。中学硬式野球では、枚方ボーイズ監督として12年間で12度日本一になった。高校野球はNHK解説者を25年務め、同社役員を退任した2014年春、秀岳館高(熊本)監督に就任し、3季連続甲子園ベスト4。母校監督は18年春から24年8月末まで務め、春夏4度の甲子園に導いた。現在、枚方ボーイズ監督に復帰した。

第1回 「メジャーから誘われたら、どうする?」 トップ選手がパナソニック、枚方ボーイズ、県岐阜商を率いる名監督になるまで

第2回 「上に立つより役に立つ」「受けた恩は石に刻め 与えた恩は砂に書け」 2人の恩師が教えてくれたこと

 ―選手にとって、監督からかけられる言葉は試合で大きな力を引き出させ、さらに人生の指針となる。監督の至言は、これまで多くの選手の代えがたい大きな力になってきたと思いますが、これも2人の恩師が基ですか。

 鍛治舎 早稲田大の石井藤吉郎監督に師事している時に、こんなことがあった。社会人になって2年目に名古屋球場でオール早慶戦があり、OBの私たち社会人野球の選手も3、4人入って現役と一緒に出場した。観客は3万人くらい、入っていたかな。私はデッドボールを受けて、一塁へ全力疾走した。ベンチに戻った際に、石井監督から呼ばれ、言われた。

 「おい鍛治舎、スタンドを見てみろ、あの3万人のお客さんはな、オメエのデッドボールを見に来たわけじゃねえんだ。ホームランを見に来てるんだ。ああいう時はな、当たってても審判に当たってません、て言うんだぞ」。

 また、日本で行われた世界大会で石井監督が全日本の監督をした。優勝候補同士のキューバ戦。一、二塁のピンチに監督が内野手とバッテリーが集まるマウンドに小走りに走って、何か話してるなと思ったら、突然笑い声が巻き起こった。続いて投手交代があり、リリーフが何とか後続を抑えた。

 その試合は結果的に1―2で負けたが、あの場面、マウンドにいたのはパナソニックで1年先輩の長谷部優さん(慶大)。「みんな笑ってましたけど、何があったんですか? あれ、何でした」。長谷部さんいわく...