参院選が公示され、第一声を上げる(上左から)自民党総裁の石破首相、立憲民主党の野田代表、公明党の斉藤代表、日本維新の会の吉村代表、共産党の田村委員長、(下左から)国民民主党の玉木代表、れいわ新選組の山本代表、参政党の神谷代表、社民党の福島党首、日本保守党の百田代表、みんなでつくる党の大津党首=3日午前
 自民党総裁の石破首相=3日午前、神戸市
 立憲民主党の野田代表=3日午前、宮崎県国富町
 日本維新の会の吉村代表=3日午前、大阪市
 国民民主党の玉木代表=3日午前、東京・新橋
 共産党の田村委員長=3日午前、東京・池袋
 日本記者クラブ主催の討論会に参加した(左から)立憲民主党の野田代表、自民党総裁の石破首相、日本維新の会の吉村代表=2日午後、東京・内幸町

 各政党の党首は参院選で何を語るか―。私は参院選が公示された3日、各党首の選挙戦最初の演説である「第一声」を固唾をのんで見守った。物価高で生活は厳しくなってきているし、日本経済の先行きも明るいとは言えない。

 国外に目を転じてもロシアによるウクライナ侵攻や中東情勢の不安定化などで不安材料は多く、アジア情勢からも目が話せない。「トランプ関税」を含め、トランプ米政権にどう向き合うかも気がかりだ。

 そんな不安に各党首はどう応えてくれるのかと思いながら、第一声に耳を傾けたが、不安は一層高まった、というのが正直な感想だ。

 ▽もやもや

 最大の争点とされる物価高対策では、与野党間で「現金給付」か「消費税減税」かで見解が分かれている。ただ、厳しい物価高を乗り越えた先には、どんな日本経済が待っているのか。「参院での与党過半数」を巡る与野党間の攻防の先には、どんな国家運営が待っているのか。もやもやは晴れない。

 各党首には不安に応えるべく「もっと先」を語ってもらいたいというのが一有権者でもある私の願いだ。声を大にして問いたい。党首の皆さん、どうなってしまうんですか、選挙後の日本は。

 ▽物価高に耐えた先

 各種選挙で候補者らが最初にする演説は「第一声」と呼ばれる。中でも各党党首による第一声は、公約や争点のアピールはもちろん、今回の選挙戦をどのように位置付けるかも含め、選挙戦序盤の流れを形づくることから注目度が高い。テレビでも繰り返し放送されるので、各党も力を入れて臨む。

 私は公示日の3日、各党党首による第一声の分析を担当した。できるだけ多くの党首の演説を聞くため、あえて本社ビルにとどまり、インターネットを使って、演説内容の確認作業に当たった。

 画面越しからでも、声を張り上げる党首の顔には汗がしたたるのが見え、炎天下で必死に有権者からの支持を得ようとする気迫が伝わってきた。

 多くの党が経済・物価高対策を参院選の最大の争点に据えたのは明らかだった。経済・物価高対策に触れなかった政党はなく、一部の政党は演説の約4分の3を充ててもいた。

 自民党総裁である石破茂首相は「生活が苦しい方々に早く給付金を届けたい」と年内の現金給付実現を明言した。対する野党第1党の立憲民主党の野田佳彦代表は、食料品消費税0%が「物価高対策として有効だ」と訴えた。野党の多くは何らかの形で消費税減税が必要だとしている。厳しい物価高の中、生活に苦しむ国民を支えることは政治の役割として当然だ。

 ▽耐えるだけでは

 しかし、与党が掲げる「現金給付」は1回限りで、どこまで効果があるのか疑問だ。野党が主張する「消費税減税」には、社会保障財源への不安がつきまとう。日本維新の会が提唱する「社会保険料引き下げ」、それ以外の道も含め、国民にとって何がもっとも適切なのか、与野党間で分かりやすく、メリット、デメリットを正直に語りながら、さらに議論を深めてほしい。

 一方、厳しい時期をどのように耐えるのか、という議論だけでは「しんどいな」というのが正直なところだ。もちろん、第一声の中でも「日本の国内総生産(GDP)を1000兆円まで必ず拡大する」(石破首相)、「大阪・関西に副首都圏をつくる。関西が成長すれば日本が成長する」(日本維新の会・吉村洋文代表)、「日本経済を復活させる成長戦略を示している」(国民民主党・玉木雄一郎代表)などと、日本経済の閉塞感を打破すべく将来像を示そうという訴えもあった。

 ただ、参院選に前後してテレビ各社などで始まった各党党首討論会でも、言いっ放しで、議論はかみ合っていない。

 さらに国際情勢への対処でも、もっと突っ込んだ議論が聞きたい。トランプ米政権と向き合うのは容易でない。長期化するロシアのウクライナ侵攻、不安定化する中東情勢や、日本と密接に関連する北東アジア情勢への対処など、混迷を深める国際社会の中での日本の針路について、一歩、踏み込んだ議論が必要ではないだろうか。

 ▽「過半数割れ」の後

 不安を感じる理由は、食い足りない政策論争だけではない。選挙後、どのような国家運営がなされるかが、いまいち見えてこないこともある。

 石破首相は今回の参院選の「勝敗ライン」を聞かれるたびに、「非改選議席を合わせて自公で過半数は必達目標だ」と繰り返している。3日夜のテレビの各党党首インタビューでも同じ見解を繰り返した。

 非改選を含む参院全体で与党過半数の維持に必要となるのは50議席で、今回の改選66議席が16減っても届く算段だ。本来、選挙は自らが信じる政策を訴え、より多くの有権者に賛同を求めていくプロセスだ。ある程度の「負け」を見越したかのような目標はいかがなものか。

 さらに言えば、仮に与党で参院での過半数を維持できたとしても、衆院での少数与党という現実は変わらない。少数与党を続けるのか、自公連立の枠組みを変えるのか、それ以外の道を模索するのか。石破首相には選挙後の政権運営の在り方をもっと語ってほしい。

 ▽国家運営のビジョン

 対する野党の側も課題山積だ。野党第1党の立憲民主党・野田代表は同じ3日夜のテレビ番組で「改選議席で自公を過半数割れに追い込むのが最低限の目標だ」と語った。前日2日の日本記者クラブの党首討論会で「あわよくば」の目標として「参院全体での過半数割れ」も掲げた。

 野田氏だけではない。日本維新の会・吉村代表も同じ党首討論会で「衆院も与党過半数割れで野党の声を聞くようになった。(参院でも)与党過半数割れをさせる」、共産党の田村智子委員長も「衆院に続いて参院でも自民、公明両党を少数に追い込む決意で戦い抜く」と語気を強めている。多くの野党にとって「参院での与党過半数割れ」は目標の一つとなっている。

 ただ仮に参院でも少数与党に追い込んだとして、その先に何が待ち受けているのか。昨年の衆院選で少数与党に追い込んで以降、立憲民主党は「自公立」、日本維新の会は「自公維」、国民民主党は「自公国」と、それぞれが与党との協議の枠組みをつくり、自らが掲げた政策の実現にまい進してきた。今回の参院選でも、野党としてまとまった動きは限定的だ。与野党対決の鍵を握る全国32の1人区の15選挙区で主要な野党は競合。参政党は全選挙区に候補を立てており、野党は政権批判票の十分な受け皿にはなっていない。

 仮に「事実上の政権選択選挙」というなら、野党には、与党を衆参両院で少数に追い込んだ先の、国民が安心できる国家運営のビジョンを示す必要がある。今回の参院選は、衆参両院で少数与党が生まれる歴史的転換点になるかもしれないと言われる。であればこそ、政治家にはこれまで以上に「選挙後」を語る責任があると思うのは、私だけだろうか。(共同通信社政治部記者 池田快)