参院選公示を前に、与野党の8党首が参加し行われた討論会=7月2日午後
 記者団の取材に応じる石破首相=7月8日午前、首相官邸
 立憲民主党の野田代表(右)と握手する石破首相=6月20日、国会
 立憲民主党の安住淳国対委員長(左)と言葉を交わす自民党の森山裕国対委員長=2020年8月、国会、肩書きはいずれも当時
 街頭演説で支持を訴える日本維新の会の吉村洋文代表(左)と前原誠司共同代表=7月6日、京都市

 参院選(3日公示、20日投開票)は中盤戦に入った。最大の焦点は、自民、公明の与党が非改選を含めて過半数の議席を維持できるかどうかだ。こうした中、共同通信など複数の大手メディアが序盤戦の情勢調査を実施。与党は大きく議席を減らして予断を許さない状況と報じられた。選挙戦の行方次第で情勢は変わりうるが、想定される最終結果とその後の政局を展望してみたい。

 ▽与党過半数維持

 ありうる最終結果は大きく二つで、一つは与党で何とか過半数を維持するケースだ。定数248議席のうち与党の非改選議席は計75議席なので、過半数の125議席を得るには、今回の選挙で計50議席取ればいい。

 自民は比例代表が12〜13議席だとしても、13ある複数区のうち東京などで2議席を取るなど善戦する可能性がある。勝敗の行方を左右する32の1人区でも、10以上ある接戦区のうち半分で競り勝てば、優勢が伝えられる10前後の選挙区を含め、全体で40以上が見えてくる。公明も自力を発揮して比例と選挙区で計10以上を取れば、合わせて50を超える計算だ。

 ▽過半数割れ

 もう一つは、与党が過半数を割り込むパターンだ。自民は1、2の複数区で最終議席を野党と競っており、取りこぼす可能性がある。1人区でも接戦区をことごとく落として負け越せば、全体で40以下に終わる。公明も、候補を立てた7選挙区のいくつかで劣勢が伝えられており、挽回できなければ、与党は過半数割れとなる。

 ▽政権パターン

 では、それぞれの場合で政権はどうなるだろうか。与党で過半数を維持すれば、ぎりぎりであっても石破茂首相は続投するだろう。「低すぎる」と言われながらも、与党間で確認した「勝敗ライン」を超えるからだ。

 続投すれば、衆院での少数与党の状況が変わらない以上、石破首相が状況の打開に動くかどうかが次の焦点になる。

 動くとすれば手段は三つある。与党での過半数回復を狙い、早期の衆院解散・総選挙に踏み切るのが一つ目だ。しかし、内閣支持率が少なくとも40%を超えてこなければ勝算は立たない。すると早期解散は非現実的だ。

 二つ目は連立の枠組み拡大に動くかどうかだ。通常国会では、政策や法案ごとに交渉相手の野党を代えて何とか乗り切ったが、政治的なコストや労力は相当なものだった。連立に加わらない野党が主要政策の決定に関わりながら、執行に責任を負わないのは民主主義の在り方として問題でもある。

 内外に難問が山積している以上、首相は政権の推進力を得るためにも連立の拡大に動くべきだし、野党もその自覚を持つべきだろう。

 ▽「自公+α」は難しい

 しかし、実際はどうなるだろうか。対象となるのは衆院で一定の議席を持つ立憲民主党と国民民主党、日本維新の会の3党に絞られる。

 まずは立憲民主だ。石破首相と野田佳彦代表は、「個人的な信頼関係がある」(首相周辺)上に、財政健全化や社会保障制度改革への考え方が近い。永田町でも、2人が主導する形で通常国会終盤に社保改革法案で修正合意し、成立させた流れで、かつての野田政権時代に続き「第2の社会保障と税の一体改革を目指すのではないか」と見る向きは少なくない。

 トランプ米大統領による高関税措置を「国難」と捉え、難局打開のために期間限定で大連立を組めばいいとの指摘もある。

 野田氏の立場になれば、同じ野党であっても国民民主や維新と足並みがそろわず、共産党やれいわ新選組、参政党や日本保守党など政策的な立ち位置が左右両端にかけ離れている勢力も巻き込まなければならないため、「野党連合政権」の樹立は実際のところ、かなり難しい。

 従って、仮に野田氏が新しい政権の枠組みをつくろうとするなら、実は自公との3党連立が政権参画への一番の近道となる。しかも、この連立は自身と首相の人間関係が軸になるのだから、「動くなら石破政権のうちに」という判断はありうる。

 ▽黒子役

 だが、自公立だとやはり「大連立」になるためハードルが高いのは否めない。「選挙での民意に反する」として立憲民主内に強い反対も出るだろう。しかも、これだけの大仕掛けを成し遂げるためには、双方での挙党態勢の構築と、水面下を含めた交渉を手がける「黒子役」が必要だ。

 交渉ルートとしては、自民党の森山裕幹事長と立憲民主の安住淳衆院予算委員長のパイプがすぐに思い浮かぶ。だが、この2人は豊富な政治キャリアを持つものの、政局観に欠け大局での判断に劣るというのが永田町のもっぱらの評だ。森山、安住ラインでは心許ないのが実状ではないか。

 野田氏が党分裂の覚悟で連立に踏み出す選択肢もないわけではない。だが、この選択肢を含めて、次期衆院選で比較第1党となり政権交代を実現できる可能性があるのに、選挙で審判を仰ぐことなく、自公政権の延命に手を貸す合理的な理由が見いだせない。結局のところ、大連立の大義がないのだ。

 そう考えると、首相と野田氏が共に連立を希求したとしても、参院選後に自公立政権が実現する可能性は低いのではないだろうか。

 ▽国民、維新もダメ?

 では、国民民主とはどうだろうか。結論から先に言えば、やはり難しいだろう。首相や森山氏は、昨年来の「103万円の壁」問題を含めた自公国3党の政策協議で「玉木雄一郎代表には散々振り回された」として、玉木氏に相当な不信感を抱いている。

 しかも、同党は参院選公約で、実質所得がプラスになるまで当面の間、消費税率を一律5%に減税する案を打ち出しており、首相や森山氏と考え方が相容れない。石破政権下における自公国の機運はしぼんでいるのが現状だ。

 すると、残るのは維新だが、代表の吉村洋文大阪府知事は連立入りには否定的だと伝えられているので、自公維も進みそうにない。

 ▽30年前は「一本釣り作戦」

 こう考えると石破首相は、早期の連立拡大の見通しが立たない以上は、まずは内閣改造と自民党役員人事を行って求心力を高めた上で、秋に想定される臨時国会で、改めて野党の協力を得るべく態勢を整えていくのではないか。これが三つ目の選択肢だ。

 まずは人事だが、「対野党工作」のキーマンとなる森山氏は留任する可能性がある。コメ政策を担う小泉進次郎農相も閣内に留まるだろう。内閣の要であるものの、外様の「宏池会」出身である林芳正官房長官と、対米交渉を進めてきた赤沢亮正経済再生担当相を交代させるかどうかが焦点になりそうだ。

 臨時国会では、参院選で公約に掲げた一律給付金を支給するための2025年度補正予算案を通せるかどうかが、最も重要なポイントになる。参院選の序盤で森山氏は、野党が結束して求めてきたガソリン税の暫定税率廃止を今年度内に実現させる考えを明らかにしたが、これは補正予算成立に野党の協力を得るための布石に他ならない。

 これだけでなく、先の通常国会で先送りになった選択的夫婦別姓導入や、企業・団体献金の扱いに関する与野党協議の再開、国民年金底上げに伴う必要な財源の在り方を検討する与野党の協議体の新設も検討するのではないか。

 ただ、補正予算案が通せなければ、石破政権は直ちに窮地に陥る。「あの手この手」で臨時国会を乗り切ったとしても、来年の次期通常国会も少数与党下で困難な国会運営を迫られるのは必至だ。

 そこで政権内で浮上しているのが、30年近く前の橋本、小渕政権時代に、旧新進党の議員を中心に、一人一人切り崩して自民党に入れ、過半数の回復を目指したのと同じような「一本釣り作戦」だ。

 念頭にあるのは、維新内で「新参者」として不安定な立場にある一方で、石破首相との関係は良好な前原誠司共同代表や、昨年の衆院選以降、吉村氏との遺恨がくすぶる馬場伸幸前代表らの勢力だろう。保守系の無所属議員も対象になりうる。

 ▽石破下ろし

 しかし、過半数にはあと13人が必要だ。維新が分裂するなどして、ある程度まとまった人数が与党に合流するなら別だが、二桁を超える人数を一本釣りするのは容易でない。

 衆院で3議席を持ち、今回の参院選で躍進が予想される参政党との連立も取り沙汰される。しかし、新興政党への依存はリスクがあるため、慎重に判断せざるを得ないのではないか。

 結局のところ、一本釣りが不首尾に終わった上に、首相がリーダーシップを発揮できず、内閣支持率がさらに低迷するようなら、いずれ政治の閉塞感が限界点に達するのは間違いない。

 そうなると自民内で「石破降ろし」が強まるだけでなく、この閉塞状況を打ち破り、新しい政権の枠組みを作り出すために、今度こそ内閣不信任決議案が可決され、衆院解散・総選挙になる展開はあり得る。

 その時期は来年の春頃かもしれないし、もっと早いかもしれない。(共同通信編集委員 内田恭司)