国会議事堂=2025年7月撮影
 安倍晋三元首相の慰霊碑に献花し、取材に応じる石破首相=7月8日午後、奈良市
 2024年の自民党総裁選に立候補した9人。秋葉原での演説会で発言する(右から左へ、上から下へ)高市経済安保相、小林前経済安保相、林官房長官、小泉元環境相、上川外相、加藤元官房長官、河野デジタル相、石破元幹事長、茂木幹事長=肩書きは当時
 街頭演説する国民民主党の玉木代表=7月6日午後、東京都品川区
 長崎県佐世保市で開かれた集会で話す自民党の岸田文雄前首相=7月1日
 2025年のドイツ総選挙での主要政党の得票率

 参院選後の永田町は、どんな風景なのだろうか。なんとか与党過半数を維持し、石破茂首相が続投しても、政治の低迷と混乱が続く可能性が高い。自民、公明の与党が過半数割れとなればなおさらだ。この場合、それこそ首相は退陣するしかないだろう。

 ▽過半数割れでも自公政権

 衆院で少数与党である以上、自民党の次期総裁が臨時国会での首相指名選挙で首相に指名される確証はない。従って、過半数に1、2議席足りないだけなら「石破続投」という判断がないわけではない。公明の斉藤鉄夫代表は、過半数割れでも石破首相を支える考えを示している。

 投開票の後には、選挙結果を受け、参議院という組織の新たな構成を確定させ、新しい正副議長を選ぶ臨時国会が召集される。さすがにここで不信任案が提出、可決されることはないので、石破政権は当面続くことは続く。しかし、参院選で有権者から「ノー」を突き付けられた政権に、野党がどこまで協力するだろうか。

 衆参両院で少数与党となると、国会運営は至難の業だ。秋の臨時国会では、野党が結束すれば消費税減税法案は衆参両院で可決、成立する。「所得税の壁」もそうだ。国家運営の根幹である税制の在り方の決定権を野党に握られ、予算案編成のやり直しを迫られる政権など、目も当てられない。

 一方で、野党が連合政権をつくる機運は、衆院、参院ともに野党が多数派となっても乏しいままだろう。野党各党が参院選後に本気で政権交代を目指すつもりなら、先の通常国会で不信任案を共同提出していただろうし、参院選では共通の政権構想を打ち出していたはずだ。

 しかし、そうならなかった以上、両院で少数与党になっても、野党間の基本的な力学と構造は変わらない。つまり、自公政権が続く可能性は高い。そうであれば、石破首相は潔く退陣し、次期総理、総裁に与野党協力の枠組みづくりや日米関税交渉、コメ政策の抜本改革を含めて全てを委ねるしかないだろう。

 ▽自民党総裁選

 辞意表明した場合、自民総裁選は7月末までに、党所属国会議員を中心とする両院議員総会方式で行い、臨時国会を8月上旬に開いて新首相を選出する日程が早くも浮上している。

 総裁選には、今の主流派の枠から林芳正氏や小泉進次郎氏、非主流派からは高市早苗前経済安全保障担当相や茂木敏充前幹事長、小林鷹之元経済安保相の出馬が取り沙汰される。いずれも、2024年の自民党総裁選に名乗りを上げた面々だ。岸田文雄前首相が再登板を狙っているとの観測も絶えない。

 だが、まず高市氏はそのタカ派的な言動が主要野党だけでなく公明党からも敬遠されそうだ。茂木氏は党内外の支持が相変わらず弱く、小林氏は政治的実績が不足している。小泉氏もそうだ。

 すると、昨年の総裁選で4位と一定の支持を集め、政治的実績と安定感で勝る林氏が現実的な選択肢になる。岸田氏が復権の意欲を押しとどめ、林氏を推す側に回れば「林新総裁」の流れはより強まるだろう。

 ▽玉木氏「消費減税は不要」と発言

 この局面で協力する野党はどこだろうか。国民民主党の玉木雄一郎代表は参院選の党首討論などで「与野党を問わず政策本位で協力する」と述べ、自公への協力を否定していない。2024年の首相指名選挙の決選投票では、所属議員に対し、野党第1党の立憲民主党の野田佳彦代表ではなく、「玉木」と書かせ、比較第1党である自民党の新総裁の選出に事実上協力した。おそらく、同じ方法をとって、その後の政策協議で実利を得ようするだろう。日本維新の会共同代表の前原誠司氏も同じスタンスではないか。

 玉木氏は朝日新聞などのインタビューで、5%を超える賃上げが続くなら、手取りを増やすための消費税減税は不要かもしれないとの考え方も示している。これは明らかに参院選後の政局を見据えた発言だ。

 岸田氏はこれまで、玉木氏の赤字国債発行を財源とする消費税減税を批判し「日本の財政に対する国際的信認は重要だ」とけん制してきた。玉木氏は岸田発言を念頭に、首相交代後の与党との関係再構築を視野に入れ、呼応した可能性がある。

 もちろん、ここから先は新首相の力量次第だ。リーダーシップを発揮することができれば、安定的な政権運営ができるかもしれない。だが、衆参両院ともに少数与党の政権は限界がある。参院で与党が過半数を占めても、衆院は少数のままだ。どちらの場合でも、いずれかの時点で、連立の拡大や組み替えをする時がやってくるだろう。

 それは恐らく次期衆院選だ。ここで勝敗を決して、結果次第でようやく「自公+α」もしくは野党連合の、あるいは全く別の枠組みの連立政権ができるのではないか。特に玉木氏は、恐らくその展開をにらんでいるとみている。

 ▽日本は「多党制」の時代に

 いずれにしても、日本の政治は流動化が進み、大きな転換点を迎えているのは間違いない。しかも、この流れは一過性ではなく、今の政治の構造や力学の変化を伴って、不可逆的に進む可能性がある。

 その理由は、特定の支持政党を持たない無党派層のさらなる増加と、自民や公明だけでなく立憲民主や共産党を含めた既成政党に対する不信感の高まりだ。

 この傾向は若年層ほど顕著だ。共同通信の世論調査でも、例えば30歳以下をみると、自民や立憲民主の支持率は低い。既成政党は中高年層の既得権益の擁護者であり、中でも自民は既存の産業界や各種団体の、立憲民主は労働組合の利益を代弁していると見なされている。

 しかも、こうした若年層はネットとの親和性が高い。ネット空間が選挙戦の主要舞台になればなるほど、ネット展開が得意で若年層の利益を訴える政党が現れれば、そうした政党が支持を集めていく。

 若年層の有権者は、この先10年間は単純計算で毎年100万人ほど増えるが、今の高校生や中学生、小学生が有権者になったときに、積極的に自民党に投票する姿はなかなか想像できない。

 逆に自民支持が多い高齢層の有権者は毎年100万人以上の規模で減っていく。選挙結果に対する若年層の影響力は強まり、高齢層のそれは弱まっていくのだ。

 さらに、欧米の政治潮流と並行して、日本でも価値観が多様化する一方、社会の階層化や分断も進み、既存政党は複雑に絡まる政治的、経済的利害を調整できなくなっている。当然、支持の受け皿にはなりにくいので、既存政党離れにますます拍車がかかっている。

 そう考えると日本は、かつての自民の「1強他弱時代」が名実ともに終わり、どの政党も過半数の勢力を得ないままに、比較的大きな政党と複数の中、小規模政党が併存する「多党化時代」に入っていくのではないか。

 ▽選挙制度の議論を

 すると政権は、ドイツなどの欧州諸国のように多党連立が当たり前になる。比較第1党を中心にその時々の政治的課題によって、さまざまな組み合わせで連立政権をつくっていく姿が常態化していくことになる。

 日本の議会制民主主義の在り方については、さまざまな議論のあるところだろう。有権者の意思をどのように代表するのかは選挙制度による。現行は衆院が、1人を選ぶ小選挙区と基本とする「小選挙区比例代表並立制」で、参院はさらに複雑な選挙区と比例代表の組み合わせとなっている。

 日本の政治が歴史的な転換点を迎えている今だからこそ、10年、20年後を見据えて、日本の政治はどのような姿であるべきなのか、そのためにはどのような選挙制度が求められるのか、真剣に議論する時が来ているのではないか。(共同通信編集委員 内田恭司)