有権者に支持を呼びかける(上左から)自民党総裁の石破首相、立憲民主党の野田代表、公明党の斉藤代表、日本維新の会の吉村代表、共産党の田村委員長、(下左から)国民民主党の玉木代表、れいわ新選組の山本代表、参政党の神谷代表、社民党の福島党首、日本保守党の百田代表、みんなでつくる党の大津党首=6月12日
 参院本会議場
 家宅捜索のため自民党安倍派(清和政策研究会)の事務所に向かう東京地検特捜部の係官ら=2023年12月、東京都千代田区

 第27回参院選は20日の投票日が近づいてきた。石破茂首相(自民党総裁)が必達目標とする「非改選を含む与党過半数」を巡る攻防に注目が集まる。国民にのしかかる物価高や、展望が見えない日米関税交渉への対応の在り方などが主な争点だ。だが、それ以外に、改革の必要性が長年指摘されながら、あまり顧みられていないテーマがある。重要なのに、物価高対応などに隠れている論点も少なくない。参院議員の任期は6年。衆院と違って解散はない。選挙後は、目の前の問題だけにとらわれず、国の将来像について腰を据えて議論することが求められる。忘れてはならない重要課題を改めて提起したい。

 ▽弊害深刻

 「解消すると約束しながら、いまだに実現できていないのは私どもの責任だ。深くおわびする」。参院選公示前の6月23日に首相が実施した記者会見での発言だ。首相が陳謝するというのは、それなりに重い事案だ。何かお分かりだろうか。

 首相がおわびを表明したのは、参院「1票の格差」是正のため、隣接県を一つの選挙区にする合区についてだった。記者に今なお解消できていない現状を問われた。

 合区は「鳥取・島根」「徳島・高知」。今回の参院選は2016年の導入からもう4度目となる。4県では「地方の声が国政に届きにくくなる」との強い批判がある。全国知事会は投票率低下を指摘した上で「さまざまな弊害が顕在化しており、より深刻度を増している」と訴える。

 具体例は、2023年の徳島・高知補欠選挙だ。対決した野党系候補、自民候補のいずれも高知が地盤で、盛り上がりに欠けた徳島の投票率は23・92%にまで落ち込んだ。高知は40・75%だった。

 だが改革に向けた参院での議論は、これまで大きな進展は見られない。今年6月に参院議長に提出された改革協議会の報告書は「不合理を解消すべきだとの意見が大勢だった」などと記すにとどまった。自民幹部は「ふさわしい選挙制度について、丁寧に協議を続けることが重要だ。今後も引き継いでいく」と語るだけで、熱は感じられない。

 このまま先送りを続ければ合区解消どころか、「鳥取・島根」「徳島・高知」に続く3例目を設ける事態にならないと言い切れるだろうか。

 ▽期限3年

 そもそも参院選の現行の選挙制度は、複雑で分かりにくい。改選数1の1人区、2〜6の複数区、比例代表の組み合わせだ。改選数6の東京は今回、欠員補充があるため7議席を争う。1人区は、自民や立憲民主党といった大政党中心に与党と野党の二つの固まりがせめぎ合うのが基本的な姿だ。

 一方、東京など改選数が多い複数区や、比例は中小政党なども議席獲得のチャンスがある。比例には、党などが優先して当選させたい候補を指定できる「特定枠」と呼ばれる独特の制度もある。

 参院が抱える課題は選挙制度だけではない。二院制を踏まえ、参院は衆院とは異なる視点での審議が求められる。衆院の「カーボンコピー」だとして不要だとの主張もある中、具体的にどんな役割を担うのか。参院改革や憲法の在り方を巡る論議で、長年問われ続けているテーマだ。

 参院の役割と選挙制度はどうあるべきか。合区解消を含めて一体の議論が必要だ。解を見つけるのは容易ではないが、いつまでも先延ばしするのは許されない。今回の選挙で議席を得た議員は期限を決めて議論を整理し、一定の結論を出してほしい。今回非改選の議員が任期を迎える2028年がめどとなるだろう。つまり3年後の参院選までだ。

 ▽フェードアウト

 取り上げたい課題は他にもある。自民派閥裏金事件に端を発した「政治とカネ」の問題だ。選挙戦での争点の一つと位置付けられているが、議論は低調なのは否めない。

 企業・団体献金改革は先の通常国会でも与野党間の溝が埋まらず、結論を出せななかった。いつ決着させるのか期限を定めずに閉幕したのは周知の通りだ。

 自民の参院選公約パンフレットを見ても「政治資金の透明化と厳正なコンプライアンスの一層の推進」などと記すのみ。石破首相の積極的な発信はほとんどない。このままフェードアウトを狙っているのかと疑う。

 立民の野田佳彦代表は11日、岐阜市での街頭演説で「金まみれの政治に反省がない」と自民を批判した。だが選挙戦では、物価高対策を前面に押し出し「石破政権は無策だ」とアピールすることに力点を置く。「政治とカネ」問題を巡る追及はあまり目立たない。

 改革の動きが途絶えれば、派閥裏金事件で失われた「国民の政治への信頼」は取り戻せない。特に事件を起こした自民の責任は重い。

 ▽骨太の議論

 「政治とカネ」の問題以上にかすみがちに映るのが、安全保障分野だ。大型の国政選では、どうしても経済や社会保障など内政に注目が集まってしまう面がある。

 中国は太平洋で軍事活動を活発化させており、南西諸島の重要性が増している。一方で沖縄県に基地負担が集中する現状をそのままにしていいのか。米軍普天間飛行場(同県宜野湾市)移設問題を含めて長期的な視野に立って議論を深めてもらいたい。立民は参院選公約のパンフレットに、普天間飛行場の名護市辺野古移設を巡り「辺野古新基地建設を中止し、沖縄における基地の在り方を見直すための交渉を開始する」と明記している。

 トランプ米政権による同盟国への防衛負担増要求にどう対応するのか。東アジア情勢の安定化に向けた日本の戦略が問われている。国の針路に関わるだけに、各党首による骨太の論戦がないまま投票日を迎える事態はあってはならない。(共同通信社ニュースセンター整理部長・林浩正)