「ここまでこれるとは、全く思ってなかった。プレーには悔いはないが、鍛治舎巧前監督と最後、同じ舞台に立つことができなかったのが唯一の心残り」。県岐阜商の捕手小鎗稜也の口から熱い思いがあふれ出した。第107回全国高校野球選手権第14日は21日、甲子園で準決勝を行い、県岐阜商は延長タイブレークの末、日大三(西東京)に2―4で敗れた。69年ぶりの選手権決勝進出を逸したが、鍛治舎前監督が培った礎を藤井潤作監督が花開かせた大ブレークの夏は今、終わりを告げた。(岐阜新聞デジタル独自記事です)

◆どん底からはい上がった新生名門を変えた〝極限のノンプレッシャー〟
昨年8月の鍛治舎前監督の退任は、100周年の昨夏が終わるまでが当初からの予定だったが、「令和最強の2020年の佐々木泰の代に匹敵する打力」と自らが評する今チーム。引き続いて指揮をとる意欲もあったが、名将は一線を引いた。
岐阜県の高校野球レベルを高めた鍛治舎前監督の退任は岐阜県にとって大きな損失だったが、選手たちにとっても衝撃だったに違いない。
中でも一、二を争うほど鍛治舎前監督を慕う小鎗に記者が話を聞いた時「鍛治舎監督の下で野球がやりたくて入った県岐阜商。そりゃショックは大きいですよ。でも、言っても仕方ないこと。頑張ります」と正直な思いを話してくれた。

「スピードとパワーで凌駕(りょうが)する。それが世界に通じる」という単純明快で選手にとってはモチベーション、可能性ともにマックスに高められる鍛治舎野球。だが、局面、局面で選手個々がいかに考えて野球できるかを掲げる、真逆の藤井監督の方針との間に戸惑いもあった。
「何か理解しにくい難しいことを要求されている」と感じる選手は多く、昨秋、今春と結果も出ない中、主力の相次ぐ故障にも見舞われ、岐阜大会を前にチームはどん底と言える状態に陥った...