YJS名古屋ラウンド第2戦を制覇し、スマイル満開の松本一心騎手。同期の山本屋太三騎手が祝福した

 「来たー、1着ゴールイン」。笠松から参戦した松本一心騎手(20)=加藤幸保厩舎=が、家族やファンの大きな声援を背に受けて、豪快に差し切り勝ちを決めた。昨年は負傷療養中のため高知、笠松とも「騎乗なし」だったが、その悔しさをバネにゴールを突き抜けて、名古屋初勝利も飾った。

 地方競馬とJRAの若手騎手が腕を競う「ヤングジョッキーズシリーズ(YJS)トライアルラウンド名古屋」が17日、名古屋競馬場で開催され、若いエネルギーがほとばしった。ラストの笠松まで計6戦。総合ポイントでファイナルラウンド進出(地方、JRAとも上位4人ずつ)を目指す。

 笠松勢は松本騎手と明星晴大騎手(18)=後藤佑耶厩舎=が参戦した。地元・名古屋からは残念ながら出場者がいなかった。大畑慧悟騎手(20)と望月洵輝騎手(19)が既に100勝を突破し減量騎手を卒業。4月にデビューした小笠原羚騎手(18)はルール変更で出場できなかった。増加傾向にある地方騎手は「1年以上の騎乗キャリア」(2025年4月1日時点)が必要となったため。JRA騎手は変更なく、地方騎手出場者(全国)は昨年の38人から24人に減少。地元若手騎手の騎乗がない珍現象となった。

紹介セレモニーで意気込みを語る松本一心騎手(右)と明星晴大騎手

 ■笠松から成長著しいスター候補2人

 松本一心騎手は2023年4月デビューで3年目。YJS1年目はトライアルラウンド15位。松本剛志騎手の長男で、笠松では初騎乗初勝利の快挙を達成した。YJSでは「周りをしっかりと見ながら、冷静かつ熱い騎乗をしたい」と闘志に点火。「父親がジョッキーで、乗っている姿を小さい頃から見ていて自分もなりたいと。皆さんから信頼される騎手が目標」。騎乗技術もメキメキ上昇し成長著しく、追い込みを決めて人気薄での馬券圏内も多くなった。

 明星晴大騎手は24年4月デビューで2年目。昨年のYJSはトライアルラウンド15位。父が愛媛の競輪選手で、今年は笠松リーディング4位に躍進。「長い手足を生かしたパワフルな騎乗でいいところを見せたい」とアピール。「父と高知競馬場に行って見た競馬の迫力に憧れて」と同じ公営競技の騎手になった。「常にフェアプレイを心掛け、スター騎手になれるよう頑張りたい」。新緑賞で重賞初Ⅴを飾り、ファイターとして急成長を見せている。

 騎手紹介式で松本騎手は「一生懸命、追ってくるので応援お願いします」、明星騎手は「今年はいい結果を残せるよう頑張ります」と力強くあいさつ。花束を掲げて活躍を誓い、ゴール前に駆け付けた笠松ファンらの熱い声援を浴びた。

YJS第1戦、西塚洸二騎手騎乗のハクサンフラッシュが辛勝。松本騎手は4着

 ■第1戦、松本騎手最後方から驚異の追い上げ4着

 YJS第1戦の6R(B級特別、1500メートル)に地方勢5人、JRA勢7人が参戦した。松本騎手は3番人気バウブロッサム(牝4歳、塚田隆男厩舎)に騎乗。4コーナーまで最後方だったが、インからスルスルと驚異の追い上げ。ただ1頭ラスト3F39秒台の末脚を爆発させて8頭をごぼう抜き。ゴールでは4着に突っ込んだ。

 勝ったのはJRAの西塚洸二騎手騎乗のハクサンフラッシュ(牝4歳、坂口義幸厩舎)。好位から抜け出し、古川奈穂騎手・スカイダンスタイムの追撃をクビ差かわした。JRA勢が3着まで独占し1、2番人気での決着となった。明星騎手は6番人気ビッグベッターに騎乗し、中団から押し上げたが伸びきれず9着に終わった。

 検量室前に戻ってきた松本騎手は満面の笑み。差し届かなかったが、見せ場たっぷりの追い上げで掲示板を確保した。「できればもうちょっと前めで行けたら良かったが、あまり外を回し過ぎてもも良くないかと」。5日前の笠松でもゴール寸前、ラチ沿いすれすれから鋭いイン差しで勝ったレースがあってファンを驚かせた。

明星騎手はビッグベッターに騎乗し9着でゴール

 9着だった明星騎手。中団から好位をキープし、4コーナーを4番手で回った。「3、4着はあるかなあと思ったが、伸びていかなかった」と残念がった。パドックに横断幕を掲げたファンは「長い手足で馬を動かすダイナミックな騎乗で頑張ってほしい。ファイナル進出を信じています」と声援を送った。

第2戦、ステラデルシエロに騎乗しゴール前で先頭を奪った松本騎手

 ■第2戦も最後方から、大外一気の豪脚Ⅴ

 第2戦の8R(B級特別、1500メートル)。松本騎手は5番人気のステラデルシエロ(セン馬5歳、迫田清美厩舎)に騎乗。第1コーナーではまたも最後方。2コーナーから抑えきれない手応えで上がっていくと、向正面では先頭に並びかける勢い。3~4コーナーを3番手で回ると大外一気。残り200メートルを切って、他馬の脚色はいっぱいになったが、ステラデルシエロは松本騎手の右ムチに応えてグイッと突き抜け、豪脚Ⅴ。1馬身半差の2着に逃げたオオタニズスマイルの西塚騎手、3着にはシンコーマーチャンの河原田菜々騎手が食い込んだ。

豪快に差し切ってゴールイン。YJS第2戦を制覇した松本騎手

第2戦を制し、名古屋初勝利の松本騎手。ステラデルシエロと1着の枠場に入った

 松本騎手は好騎乗を見せて検量室前にある「1」の枠場に優勝馬と入ると、外国人厩務員らに迎えられてニッコリ。早速、口取り写真を撮影。優勝騎手インタビューでは「ホッとしています。人気のある馬だというのは分かっていたので、前走乗っていた慧悟(同期の大畑慧悟騎手)からもいろいろ聞いて、それが良かったのかな。いつもより直線が長く感じました。今まで名古屋でなかなか勝てなくて、ここで勝てて良かった。まだ佐賀も笠松も残っているんで、ファイナルへ行くため1ポイントでも多く取れるよう頑張ります。また笠松へも応援に来てください」と喜びを語り、ファンの拍手と歓声を浴びた。

YJS、名古屋初勝利をかみしめて喜びに浸る松本騎手

表彰式でYJS優勝ジョッキーとして祝福を受けた松本騎手(左)と西塚騎手

 ■ジョッキー仲間も優勝の2人を祝福

 松本騎手の同期で兵庫の山本屋太三騎手は、地方競馬通算100勝まであと1勝に迫っていたが5着、10着。YJSで記録達成はならなかった。8R後には、優勝し表彰を受けた2人の活躍をたたえ、ジョッキー仲間たちが祝福。西塚騎手はJRAの今村聖奈騎手らと決めポーズ。これに負けていられないと、山本屋騎手は松本騎手の優勝を祝福。撮影用に両手でガッツポーズを支えると、松本騎手のスマイルがはじけた。ほのぼのとしたシーンでほほ笑ましかった。 

西塚騎手の第1戦優勝を祝い、ポーズを決めるJRAのジョッキー仲間

 ■西塚騎手「古川さんの馬が近づいてヤバイなと。勝てて良かった」

 西日本地区JRA勢のトップに立った西塚騎手はニュージーランド出身。「世界で活躍できる騎手が目標で、エイシンフラッシュが勝った天皇賞を見たことが騎手になったきっかけ」という。田口貫太騎手はプライベートで一緒に遊びに行くジョッキーとして、西塚洸二騎手の名前も挙げていた。

 第1戦の勝利騎手となり「早めの競馬をした。直線の追い比べでは古川さんの馬が一歩ずつ近づいてヤバイなと。勝てて良かった。自分の経験と技術も上がってきているので、馬の特徴を最大限に生かせた。ゴールでは一つ勝てて安心感があった。第2戦は逃げる展開でしたが、(松本騎手の)勝ち馬が向正面から積極的に動いてきた。ファイナルへ気を抜かず頑張ります。名古屋コースはすごくきれいでいい競馬場ですね」とにこやかだった。

■松本騎手、西日本地方勢で総合トップ

 この結果、松本騎手は4着と1着で総合42P(ポイント)。西日本地区地方騎手の総合トップに立った。2位は佐賀の青海大樹騎手(12P)、3位は兵庫の山本屋太三騎手(11P)。明星晴大騎手(3P)は5位で出遅れた。JRA勢は西塚洸二騎手が1着、2着(50P)で総合トップ。古川奈穂騎手が2位(32P)、鷲頭虎太騎手が3位(18P)。
 

YJS出場騎手紹介セレモニーで闘志を燃やす12人

 表彰式後、改めて喜びを語った松本騎手。「馬が強かったし、助けられた感じです。ペースが遅かったのでちょっと仕掛けが早かったが、持ち切れないぐらいでした」。けがで昨年は出場できなかったが「出たいなあ。悔しいなあという感じで見ていた。初戦からいい馬に乗せてもらって気合も入っていて、それがいい方向に出た」と笑顔で語った。
 
 2戦とも前走で大畑慧悟騎手が騎乗していた馬だった。同期でもあり「いろいろ話せるし良かったです。(2戦目は)引っ掛かるところがあるから気を付けてと言われていて、ペースが遅かったし、結果的には早めに行って良かったです。3~4コーナーでちょっと離されたけど、直線を向いてから、たたいたら伸びてきてくれたんで」。残り100メートルを切って勝てる勢いとなり「(後ろから)来るな来るなと思って必死に追っていた。名古屋の直線は笠松より長くて『早く終わってくれ』と。(ゴールの瞬間は)とにかくホッとしたし、うれしかったです。名古屋初Ⅴでうれしさが込み上げてきたし、以前よりも冷静に乗れるようになった」という。お母さんも兵庫から応援に来ていて「いいところを見せられて良かったです」と喜びに浸っていた。 

6R、パドックを周回する明星騎手&ビッグベッター

 ■明星騎手は不完全燃焼「佐賀、笠松で頑張りたい」

 一方9着、12着で不完全燃焼だった明星騎手は「名古屋はホームみたい(今年3勝)だというのに、ふがいない結果に終わりました。2戦目は向正面でもうないなと思った。馬場傾向をつかめなくて、脚をうまく使えず、最後も思うように伸びなかった。まだ4戦あり、チャンスはあるので佐賀、笠松で頑張りたい」と巻き返しへ前を向いていた。

 ■ファン「一心君、すごくたくましくなった」

 松本騎手の横断幕をパドックに掲示した笠松ファンは「おめでとうございます。4着、1着で弾みがついたし、名古屋初勝利で二重の喜びでしょう。この勢いで次の佐賀でもポイントを稼いでほしい。みんな感無量ですし『一心君、すごくたくましくなったね』と。これまで勝てない時期もあって、いっぱい悔しい思いもしたでしょうが、すごく努力をしてきた。この調子でファイナルへ通過し、JRAのレースでも頑張って活躍してほしい。堂々としてきたし気合が入っていて良かった。まずは無事に、佐賀でもいい結果を」と更なる活躍に期待を込めた。

6R、横断幕を背にパドックを周回する松本騎手&バウブロッサム

 また別のファンは「ゲート出た時は最後方でヒヤヒヤしたが、道中はグーッと押し上げてきて、最後は華麗な差し切り勝ちですごい。こういう競馬ができると強いので、佐賀や笠松でも勝って本戦に出てほしい。佐賀のほか、園田や中京にも応援に行きたいし、YJSの総合優勝を目指してほしい」。

 明星騎手に対しては「今年がラストチャンスでしょうし、応援しています。佐賀や笠松で勝てばファイナルに行けると思うんで。頑張ってください」。温かい笠松ファンに見守られ、2人は「希望の星」として成長を遂げつつある。過去のファイナル進出圏内は総合50~60ポイント。松本騎手は佐賀、笠松の計4戦で、5着以内を2回確保すれば、十分にファイナル圏内となる。 

 ■笠松勢、相性いい佐賀で大暴れ期待

 トライアルは残り5ラウンド(高知、佐賀、園田、金沢、笠松)。総合成績上位の8人(地方、JRA各4人)が12月18日の園田、20日の中京競馬場でのファイナルラウンドに進出できる。笠松ラウンドは10月23日。JRAから吉村誠之助騎手(19)、兵庫から瑞穂市出身の土方颯太騎手(18)らも参戦する。

 笠松勢にとって佐賀はかつてミツアキサイレンス&川原正一騎手がダートグレードの佐賀記念を連覇した相性の良い競馬場。松本、明星騎手も佐賀ラウンド(9月30日)では笠松からの応援団の声援や横断幕を背に大暴れが期待されている。


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