木之前葵騎手騎乗のゴールドギア(左)がレジェンドハンター記念を制覇した(笠松競馬提供)

 これぞ競馬だ、勝負あったかと思われたゴール寸前、レジェンド級の10歳馬が差し返して4歳馬をねじ伏せた。迫力満点の追い比べを制し、表彰台前は「葵ちゃんおめでとう」と祝福コールで沸騰した。

 「レジェンドハンター記念」(東海交流、SPⅢ)が14日、秋晴れの笠松競馬場で行われ、最後は2頭のマッチレース。5番人気のゴールドギア(牡10歳、榎屋充厩舎)が木之前葵騎手の力強い手綱さばきに応えた。名古屋リーディングトップに立ち、成長著しい望月洵輝騎手騎乗のコヴィーニャ(牡4歳、井上哲厩舎)にアタマ差先着した。重賞は盛岡・せきれい賞に続き2勝目。父ロードカナロア、母ギンザボナンザという血統。

 3着にヒフミバンダム(セン馬3歳、後藤佑耶厩舎)が続き、1番人気の ダグフォースは4着、地元大将格のイイネイイネイイネは8着に終わった。

レジェンドハンター記念の優勝馬ゴールドギア

 ■中央芝GⅠ制覇最接近、伝説の名馬をたたえる記念レース

 レジェンドハンター記念は1999年の朝日杯3歳Sで2着、GⅠ制覇まであと半馬身まで迫った伝説の名馬レジェンドハンター(安藤勝己騎手騎乗)をたたえる記念レース。地方所属馬の中央芝GⅠ挑戦で、半馬身差はいまだに「V最接近」記録である。レース名はウインター争覇から改称されたが、第1回ではなく第43回として実施。12頭立てで1900メートル戦のフルゲートに実力馬がそろい、東海ゴールドカップトライアルとして実施された。

 ■グイッと「黄金のギア」を上げてゴールイン 

 レースは笠松のグスタールが逃げたが、3~4コーナーで大きく動いた。2番手のゴールドギアが一瞬先頭を奪うと、ぴったりマークしていたコヴィーニャが大外を回っていったん前に出た。

コヴィーニャ騎乗の望月洵輝騎手との激しいたたき合いを制した木之前騎手&ゴールドギア(笠松競馬提供)

 残り200メートル、2頭の激しいたたき合いが続いた。木之前騎手の執念の右ムチに応えたゴールドギアがゴール寸前、内からグイッと「黄金のギア」を上げ、鋭く伸びてゴールイン。10歳馬とは思えないエネルギッシュな末脚で、場内のファンを沸かせた。人馬とも勝負根性を発揮。ゴールの瞬間は「さあどっちだ、これは分からない」と実況も声を張り上げた。

 ゴールドギアは元中央オープン馬で目黒記念(GⅡ)で5着がある実績馬。前走・鳥栖大賞3着。5走前には、ぎふ長良川オープンを木之前騎手の先行策で勝利を飾っており、得意コースでもあった。

 ■木之前騎手、カツゲキマドンナ以来8年ぶり重賞Ⅴ

 木之前騎手はカツゲキキトキト(2016年・新春ペガサスカップ、新緑賞、秋の鞍)、カツゲキライデン(17年・尾張名古屋杯)、カツゲキマドンナ(17年・園田クイーンセレクション)とこれまで全て笠松ゆかりのカツゲキ軍団で重賞勝利を挙げてきた。今回、ゴールドギアとのコンビで8年ぶりとなるうれしい重賞勝利を飾った。      

勝利を飾った木之前騎手とゴールドギアを迎える厩舎スタッフら

 優勝馬と装鞍所に戻ってくると「きょうはここがメインでした。いったん前に出られたが、また伸びて差し返してくれた」と葵スマイル全開で喜びを爆発させた。

 ファンからは「10歳にもなってようやるわ、あそこで差し返す根性すさまじい」「望月に追い負けずによく頑張った!」「ゴールした瞬間、内から差し返したの分かったんですぐウイナーズサークル飛んでいきました」などと驚きと歓喜の声がネット上にも寄せられた。

レジェンドハンター記念優勝馬ゴールドギアを囲んで喜びに浸る関係者(笠松競馬提供)

 ■ゴール前「負けたくない、持てる力をムチに込めて」

 ファンが待ち構えるウイナーズサークルに木之前騎手が到着すると祝福の嵐となった。表彰式の勝利騎手インタビューでは「ゴール直前では、負けたくない気持ちだけで追っていました。馬は佐賀の時(3着)より更に具合が良くなっていた。(外枠11番の)いい枠を引いてペースが落ち着いたので、ここは行くしかないと。4コーナーではコヴィーニャが来たなと感じ、ここ一番で自分の持てる力を全部ムチに込めてたたきました」。

 ゴールの瞬間は「おそらく勝ったのかなあと。でも(前日も5勝挙げて)すごく調子のいい望月洵輝騎手に迫られ、負けたかなあとも。戻ってきて、1着のところ(着順表示板)が「11番」になっていてホッとしました。重賞勝ちは園田のカツゲキマドンナ以来なんでとてもうれしいです。レディス戦も頑張るので応援お願いします」と重賞Ⅴの味と喜びをファンと分かち合っていた。

レジェンドハンター記念の表彰式でファンらの祝福を受けた木之前騎手ら

 ■年末の東海ゴールドカップでもまた雄姿を

 ゴールドギアを管理する榎屋充調教師にとっても、自厩舎の木之前騎手で勝てて喜びは大きい。「佐賀遠征の疲れも癒えて、好枠からスタミナには自信がある」とここを目標に最終追い切りでも鋭い動きを披露。年末の大一番で2500メートル戦の東海ゴールドカップでもまた雄姿を見せてくれそうだ。
 
 人気のダグフォースは道営で連勝し名古屋に再転入。21走連続で馬券圏内を確保していた超堅実馬だったが末脚不発に終わった。イイネイイネイイネは全国重賞・くろゆり賞を勝って2番人気に推されたが、中団から伸び切れなかった。

 今年の笠松競馬のレースでは、くろゆり賞とともに最後の直線の攻防は見応えがあった。10歳馬が勝ち、レジェンドハンター記念新設にふさわしい迫力ある直線の追い比べとなった。

LJS第1戦、1着でゴールする佐々木世麗騎手(6)。深沢杏花騎手は3着

 ■LJS第1戦は佐々木世麗騎手Ⅴ、笠松初騎乗の小笠原騎手2着

 この日の10、12Rでは女性騎手だけで華麗に熱く火花を散らす「LJSレディスジョッキーズシリーズ」ザ・ファイナルの笠松ラウンドも行われた。ルーキーの小笠原羚騎手(愛知)が2着、1着で総合50ポイントを獲得し、トップに立った。

 第1戦(10R)は4番人気クリチャーシシー(セン馬3歳、大橋敬永厩舎)に騎乗した佐々木世麗騎手(兵庫)が先行策から最後の直線で差し返し1着ゴール。2着に小笠原羚騎手がダットデアで追い上げ、3着には深沢杏花騎手がキナッセイ(6番人気)で粘り込んだ。4着には宮下瞳騎手が3F上がり最速で突っ込んだ。
 
 佐々木騎手はハナを切ったが、2番手につけていた深沢騎手が3~4コーナーでは先頭を奪った。ジョッキー戦初勝利なるかという地元ファンの期待が膨らんだが最後は息切れ。4分の3、クビ差の3着となったが、場内を沸かせる健闘は光った。 

勝利は逃したが、3着に粘り込んでにこやかな深沢騎手

 ■深沢騎手3着「4コーナーで先頭に立ち、1着もあるかなあと」

 騎手紹介式前の4Rで勝利を飾って好調だった深沢騎手。LJS第1戦は「最後止まっちゃいましたね。2番手から道中は掛かり気味でしたが、持ったままで進めていいタイミングで仕掛けられたが3着でした。4コーナーで先頭に立ったので1着もあるかなあと。もうひと踏ん張りさせられず、勝てなくて悔しいです。折り合いをつけられたら勝てたなあ」とにこやかに振り返ってくれた。

1着ゴールを決め、ゼッケンを手に歓喜に浸る佐々木騎手

 勝った佐々木騎手は「追ってきた塩津璃菜ちゃんや深沢杏花先輩の馬は掛かっている感じでしたね。道中は焦らないで抑えて抑えて、最後の直線では後ろから来ないでくれと。ゴールでは『やったあ』という感じでした」と勝利の喜びをかみしめていた。

 ■小笠原騎手「笠松は1コーナーが特にきつい感じ」

 2着の小笠原騎手は笠松初騎乗。4番手からで「名古屋に比べてペースが速かった。笠松では最後まで持っちゃって差が縮まらず、前が強いと感じました。いい馬に乗せていただいたので勝ちたかったが悔しいです」。笠松コースの印象は「名古屋に比べ幅員が狭かったし、コーナーが結構急で、特に1コーナーがきつい感じでした」と最初の直線での先陣争いの激しさを体感した。

LJS笠松ラウンドで好騎乗を見せて総合トップに立った小笠原羚騎手

 4着だった宮下騎手は急きょ、次のレジェンドハンター記念も出番。3Rで負傷した渡辺竜也騎手の代打騎乗となり、コメントは聞けなかった。

 5着の塩津璃菜騎手(兵庫)は3番手からで「ずっと引っ掛かりづめでした。ちょっとペースが遅く感じ、付いてはいったが、もう少し上位にいきたかった」。12月のヤングジョッキーシリーズ最終決戦では松本一心騎手と共にファイナリストでもあり「けがなく乗れたらなあ」とまずは出場できる喜びを感じていた。

第2戦、ヒナノマーチス(4)で豪快に差し切った小笠原騎手(笠松競馬提供)

 ■第2戦、小笠原騎手が豪快に差し切りV

 第2戦(12R)はラグーン騎乗の神尾香澄騎手(川崎)が逃げ、3コーナーで木之前騎手が2番手に押し上げた。中団から小笠原騎手の2番人気ヒナノマーチス(伊藤強一厩舎)が一気に先頭集団に迫り、最後の直線では3頭の追い比べとなり、外から小笠原騎手が豪快に差し切った。クビ差2着に神尾騎手、3着に木之前騎手が粘り込んだ。後方からよく追い上げた関本玲花騎手(岩手)は4着、深沢騎手は7着だった。

第2戦優勝馬を囲んで小笠原騎手と出場した女性ジョッキーたち

 第1戦の2着に続く好騎乗で、会心の勝利を決めた小笠原騎手。「最後は差して勝てたと思いました。たたいた分だけ最後伸びてくれると聞いていたので、馬の力を出し切れるように頑張りました。(3~4コーナーでは)もしかしたら届くかもなという思いで、必死に追った。(先輩たちを破り)馬がいい走りをしてくれて、1着を取ることができて、すごいうれしいです」と笠松初騎乗日に初勝利を挙げた喜びを語った。

表彰式で優勝を喜び合った佐々木騎手(右)と小笠原騎手

 ■笠松ラウンドのポイント(P)・順位

          第1戦 第2戦 合計P
①小笠原 羚(愛知) 2   1   50
②佐々木世麗(兵庫) 1   9   32
③神尾 香澄(川崎) 6   2   28
④木之前 葵(愛知) 7   3   21
④深沢 杏花(笠松) 3   7   21
⑥宮下  瞳(愛知) 4   6   20
⑦関本 玲花(岩手) 8   4   16
⑧塩津 璃菜(兵庫) 5   8   14
⑨中島 良美(浦和) 9   5   12

ゴール前で行われた出場騎手の紹介式

 笠松ラウンドを終えて、小笠原騎手が50ポイントで大きくリード。3連覇を狙う木之前騎手と上位進出を目指す深沢騎手が4位で並んでおり、シリーズ最終戦となる名古屋ラウンドで逆転を目指す。
 
 4R後にはファンの前で騎手紹介式が開かれた。マイクロバスから登場した9人の女性ジョッキーがゴール前に勢ぞろい。1人ずつ紹介されると大きな声援が飛び、記念写真の撮影が行われた。応援の横断幕の数も多く、木之前騎手は最多の6枚と人気を集めていた。優勝騎手2人の表彰式では、色紙にサインを寄せてファンとの交流を深めていた。

 ■華麗な女性ジョッキーたち活躍、新シリーズ期待

色紙にサイン、ファンとの交流を深めた優勝ジョッキー2人

 最終戦は11月25日に名古屋競馬場。この大会は10回行われてきて「より魅力的なシリーズ競走として生まれ変わることを目指し、今回をもって終了を迎えることとなりました」というが、非常に残念である。
 
 NARのホームページで、木之前騎手は「今回でレディスジョッキーズシリーズが最後ということで、いつかまた女性騎手のレースを組んでもらえればうれしいですし、できたらいいなと思います」とコメントを寄せていた。

 男性中心の競馬社会にあって数少ないが、華麗な女性ジョッキーたちの活躍はファンを魅了する。これまで彼女たちもお互い再会を非常に楽しみにしてきただけに、新シリーズとなって、応援するファンの夢をかなえてほしいものだ。


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