「人当たりが良くって、優しかった」。正史さんについて語る江崎恭平さんと妻のテルミさん=愛知県一宮市
事件の1週間ほど前に友人宅で撮影された江崎正史さん

 「実名報道が解禁されれば社会的な関心も高まる。賛否はあるだろうが、制度として決定したことは評価できる」。1994年、岐阜など3府県で元少年3人が起こした連続殺人事件で、長男正史(まさふみ)さん=当時(19)=を亡くした江崎恭平さん(77)=愛知県一宮市=は改正少年法について「評価する」と語った。改正法で特に大きな注目を集める起訴後の実名報道の解禁。江崎さんは「賛成だ。事件の詳細を多くの人が知ることで犯罪抑止にもつながる」との考えを示す。

 28年前の凶行は「連続リンチ殺人事件」と呼ばれ、その凄惨(せいさん)な犯行態様から大きな注目を集めた。岐阜、愛知両県警は少年少女10人を逮捕。うち主犯格の元少年3人が強盗殺人などの罪に問われたが、「少年A、B、C」と報道された。正史さんら被害者は実名。「理不尽だと思ったが諦めの心境だった」。

 2011年、3人の死刑が確定すると実名で報道された。「名前が出たことで改めて事件の重大さを感じた人も多かったと思う」と振り返る。今回の改正で特定少年が起訴された場合、実名や写真の報道禁止が解除される。「被害者にとっては少年法の壁が一つなくなった」と語る。

 さらに改正で逆送対象事件が増え、公判になる可能性が高まることも、江崎さんは「進歩」と捉える。「被害者にとってつらくても、事件の全てを知ることが回復への第一歩となる」と考えるからだ。

 江崎さんは妻テルミさん(76)と約150回に及ぶ公判を傍聴した。「殺害の再現の場」もあったが、正面から受け止めた。正史さんは元少年と面識がなく、金品を巻き上げられる「カツアゲ」がエスカレートして殺されたことがつまびらかにされた。一緒に暴行を受けていた友人を逃がし、自分だけ犠牲になろうとしたことも供述で分かった。「わが子の名誉回復の場にもなった」

 江崎さんはNPO法人犯罪被害当事者ネットワーク「緒(お)あしす」で支援にも参加している。刑事裁判ではなく非公開の少年審判で審理され、事件の全容を知ることができなかった被害者も知っている。「被害者にとって加害者の年齢は関係ない。更生のためと一方的に隠さず、事件の真実を知らせることが被害者のためになる」と語る。

 連続リンチ殺人事件を捜査した当時の岐阜県警捜査1課長、永井準一さん(82)=瑞穂市=は、元少年の取り調べも行った。3人が「思いのほか素直だった」と覚えているが、少年法改正については「18歳にもなれば、ものの善しあしぐらいは分かる。特別扱いすることなく、やったことの償いはしっかりとさせるべきだ」と強調する。警察人生の大半を刑事畑で歩み、やるせなさと悲しみに暮れる多くの被害者を見てきた。「少年であっても、やったことに対しては相応の責任を負うべきだ」と語った。

 【連続リンチ殺人事件】 1994年9~10月、当時18、19歳の少年3人が岐阜、愛知、大阪の3府県で10日余りの間に若い男性4人を集団暴行の末に殺害した事件。遺体を木曽川や長良川の河川敷に放置していたことから「木曽川・長良川連続リンチ殺人事件」とも呼ばれる。最高裁は2011年3月に被告の上告を棄却し、3人全員の死刑を言い渡した2審名古屋高裁判決が確定した。マスコミは「更生、社会復帰に配慮する必要がなくなった」として、確定後に3人を匿名報道から実名報道に切り替えた。

(2022年3月30日掲載記事)

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