2025年夏の甲子園ベスト4の礎を築いた県岐阜商前監督の鍛治舎巧さん。「No.1への道」と題し、アマチュア球界の第1人者である名将がチームづくり、選手育成、戦略・戦術のすべてをあますところなく公開する。

第3節 習熟期(3年)

1 習熟期の特徴

 習熟期の選手は、フィジカル面(体力・技術)においても、インテレクチャル面(戦術・戦略)においても、大学・社会人に近いレベルまで到達することが可能だが、メンタル面で同程度まで向上している選手は少ない。

 それは、この時期が自己確立を目指している最中であり、心が揺れ動く不安定な時期だからだ。

 自信が持てなくて不安でいっぱいだ。悩みや迷いがあり、すぐに緊張してしまうといった心理状態に陥りやすい。

 フィジカル的に優れたものを持っているのに、試合では活躍できない、力の半分も出せず「こんな筈ではなかったのに…」と振り返ることが多いのも、この時期、メンタル面で心の動揺が大きいからだ。勝てば甲子園!!という試合では、当然観客も多く大きなプレッシャーの中で戦うことになり、メンタル面が勝敗を分けることが多々ある。

 フィジカル的に高い能力を身に付けられれば、容易に自分の心をコントロールすることが出来るようになり、ここ一番の大事な試合も勝ちに繋げることが出来るようになる。

2 指導の目標

 野球という競技は、試合中考える時間が長く、心が揺れ動くメンタル的な問題は、それを解決する為のメンタルテクニックを身につけることにより大きく軽減され、試合結果にも、大きく反映、貢献することは必定である。

 メジャーリーグの選手も「野球選手は肉体よりも精神面の方がはるかに大切だ」「野球の80%はメンタルなものだと思うよ。野球は心のゲームだと言っても、決して言い過ぎじゃないと思うね」とコメントしている。

 メンタルトレーニングとは、「試合に勝つ」ためのトレーニングというよりは、「ここぞという時に、自分の実力をフルに発揮する」ための心のトレーニングだ。

 大切な場面で、メンタルテクニックを駆使し、実力を出し切ることが、結果的に「試合に勝つ」ことにつながる。

3 ピークパフォーマンスを目指したメンタルトレーニング

(1)選手のやる気の高揚

①動機づけ
 選手に十分なやる気を持たせるには、様々なやり方、処方がある。

a)外発的動機づけ
ほめる・認める、叱る、激励する、慰める、競争場面を設定する、課題を設定して、できるだけ速くさせる、時間を決めておいて、できるだけ多くさせる、ライバルを持たせる。

b)内発的動機づけ
目的意識を持たせる、課題意識を持たせる、問題意識・危機感を持たせる、感謝や恩返しの気持ちを持たせる、責任感を持たせる、反省をさせる、創意工夫の態度を身につけさせるなど。

c)自己動機づけ
選手が自分で気付いて、やる気を燃やすよう工夫する。指導者は、さりげなく指導・助言をする。

 TPOによって、これらを上手に使い分けたり、組み合せたりして、選手に最適な動機づけが使いこなせるようにしよう。

②目的意識を持たせる為の設定
 高校野球における〝目標〟とは、まず頭に浮かぶのは「甲子園」だ。高校生にとって「甲子園」は...