中京では最後方から上がり3F最速を連発した。2025ヤングジョッキーズシリーズ(YJS)東海勢唯一のファイナリスト松本一心騎手(20)=加藤幸保厩舎=が最後の直線で猛追。ゴール前で声援を送った家族やファンの胸をときめかせた。
8Rの芝コースでは、かつてのアンカツさんか横山ノリさんかと思える「ポツンと1頭」離れたポジションから、豪脚で追い上げたが差し届かず5着。2戦目の10Rも最後方から追撃したが7着。出場16人のうち松本騎手は総合7位と健闘を見せた。笠松勢では渡辺竜也騎手の総合8位(2017年)を上回る過去最高の成績。来年以降の飛躍へも大きなステップとなった。
■トップ通過の松本騎手、園田初戦は3着
YJSファイナルラウンドに地方競馬、JRAから若手騎手が出場し園田、中京でそれぞれ2戦ずつ。計4戦の総合ポイントで優勝を目指した。
笠松から渡辺騎手、長江慶悟騎手に続き3人目のファイナリストとなった松本騎手。トライアルラウンドの佐賀、名古屋で勝利。87ポイントを挙げて地方騎手全体でもトップ通過を果たした。昨年は負傷療養中のためシリーズを欠場したが、今年は一気にブレーク。ファイナル総合Ⅴを目指した。笠松での壮行セレモニーでは「園田は地元だし、中央で乗ることはなかなかないので楽しみ」と闘志を燃やしていた。
まず園田競馬場。騎手紹介セレモニーで松本騎手は「頑張るので応援お願いします」と意気込み。笠松応援団から「一心頑張れ、頼んだぞ」と一番大きな声援が飛んだ。松本騎手や神尾香澄騎手らはマスコットキャラクターそのたん、ひめたんとの記念撮影でも盛り上げ。ファイナリストとして決戦の舞台に挑んだ。
園田ではファイナル3戦のうちそれぞれ2レースに騎乗。第1戦の6R、松本騎手は4番人気テーオーロビンソンと野コンビ。積極策でハナを切りたかったが3番手から追撃。3~4コーナーでは2番手に上がり、粘り込んだが勝ち馬から4馬身、アタマ差の3着。西塚洸二騎手(栗東)がクラウンオーシャンで差し切り、逃げた佐藤翔馬騎手(美浦)が2着。上位3着まではトライアルラウンド各地区トップの3人が占めた。
■出遅れ「悔しい、うまく出していれば勝てたかも」
松本騎手は3着ゴール後「先生の指示は『ハナへ行ってほしい』でしたが、スタートのタイミングが悪く出遅れたが、切り替えて3番手へ。砂をかぶり途中でやめることもなく、手応えは良かった」。4コーナーを回って2番手。「早く先頭に立ちたかったが、最後かわされちゃった。悔しいですよ。スタートでうまく出していれば勝てたかも」。昇級戦でもよく踏ん張らせ、地方騎手でただ一人、掲示板確保で15ポイントを獲得した。
勝った西塚騎手はデビュー4年目で、田口貫太騎手とも仲が良い。「馬が最後に根性を見せて頑張ってくれた。これから地方の騎手が追い上げてくるでしょうが、また勝って逃げ切りたい」と総合Ⅴへも手応えをつかんでいた。
■園田2戦目は1番人気、最後方から伸びず6着
第3戦の10R、松本騎手は1番人気デルマヴェーダに騎乗。勝ち負けが期待され、中団から追い上げたが突き抜けるほどの爆発力はなし。逃げ切ったテンクウワールドから0秒4差の6着。2年前の総合王者・横山琉人騎手が1着だった。
松本騎手は「動かしきれなかったです。外に出せて向正面で上がっていこうとしたが、思ったほど反応なかったですね」。いい位置につけたが、差し脚不発で残念そうだった。園田を終えて23ポイントで総合8位につけた。
笠松では12日のC級サバイバル、松本騎手は800メートル戦の3コーナーで落馬し、ヒヤリとするシーンもあった。インで後続馬との接触はなく無傷。車で装鞍所に戻り、普通に歩けたことからみんな一安心。4日後の笠松1Rでは勝利を飾り、元気な姿を見せてくれた。YJSでもまずは「落ちないように」と心掛け、コーナーでは「安全運転」で馬群に突っ込まなかったようだ。
■岐阜県出身の土方颯太騎手、8番人気で2着
2年目、地方勢最年少18歳の土方颯太騎手(兵庫)は岐阜県瑞穂市出身。地方勢ではただ一人2年連続ファイナル進出。今年62勝と躍進し兵庫リーディング8位。1戦目は8着だったが、2戦目は8番人気カドサンガンバルで2着。ゴール前では地元ファンから「颯太~」と歓声が上がった。
家族も応援に来ていたという土方騎手は「逃げ馬不在で前残りの馬場だったんで、思い切って出していったのが良かった。ここまで来たら勝ちたかったが、人気もなくてこの2着はうれしい。最後踏ん張ってくれました」。中京の芝では「勝てたら大きいので一発狙っていきます」。松本騎手とのワンツーを期待すると「岐阜県のためにも、頑張りたい」とにこやかだった。
第2戦は断トツ人気エナフクキタル騎乗の佐野遥久騎手(川崎)が逃げ切り。ファイナル初日の園田を終えて横山騎手が暫定トップに立ち、西塚騎手2位、佐野騎手が3位で続いた。
■松本騎手、中京・芝直線だけで11頭抜き
最終決戦の地・中京では芝、ダートで競った。初めての中京コースで、松本騎手は紹介セレモニーから気合が入った表情。家族が応援に駆け付け、笠松ファンらも「芝コースが合うかも。総合優勝を目指して頑張れ」とエールを送った。
小雨の中、やや重。8Rの芝コースで松本騎手は7番人気バースライトに騎乗。ここ2走はダートで結果を出せなかったが、新馬戦を勝った芝に戻って末脚爆発。離れた最後方からただ1頭、他馬と違う脚色。インを突いた最後の直線だけで11頭を抜き去った。
上がり3Fは34秒1でメンバー最速タイム。2番目(35秒1)とは1秒差。他馬が止まっているように見える豪脚だったが、1着馬には3馬身余り届かず5着。「出たなりで行ったが、ペースが落ち着いた流れで、後ろからの競馬に。仕掛けどころが分からず、離れ過ぎた。直線勝負で最後は伸びていたので、もっと前につけていたら、もうちょっと上にいけた。武幸四郎調教師には「後ろになっちゃったね」と言われたが、見せ場をつくることができた。
初戦を勝ったのは5年目でYJSラストチャンスの古川奈穂騎手(25)。6番人気モアリジットで鮮やかに逃げ切った。YJSファイナルで女性騎手が勝ったのは初めて。古川騎手は「スタートがすごく良かったので思い切って出していきました。ためて切れる脚はないので、3~4コーナーからスーッと行って、最後は馬の力を信じて乗りました」と、2年連続ファイナル進出で待望の勝利に晴れやかだった。
■ルーキー小笠原羚騎手は誘導馬に騎乗
笠松から藤原幹生騎手会長らが応援。名古屋からは木之前葵騎手らも来場。ルーキー小笠原羚騎手(18)はYJS2戦が行われた8、10Rでは8歳誘導馬ロンゴノットに騎乗し、ファンの注目を浴びた。
レディスジョッキーズシリーズでは総合優勝を飾ったが、YJSには規定により地方競馬1年目の騎手は出場できなかった。それでも誘導馬騎手として参加でき「お客さまがいっぱいで私もここで乗りたい気持ちになった。ファイナルに行きたいです」と来年の活躍に意欲。笠松からは大卒ルーキー井口裕貴騎手(30)も出場可能となる。
■最後の1戦、14番人気でよく伸びたが7着
ファイナル最後の1戦・10Rを迎え、まだ上位8人に総合優勝の可能性が残っていた。松本騎手は総合33ポイントで8位。「もう1着しかないですね。人気がない馬なので気楽に乗ります」と表彰台目指してわずかな望みにチャレンジした。
14番人気フォーワンセルフに騎乗。またも最後方集団から最後の直線を向いた。今度は大外を回して末脚に懸け、よく伸びたが7着まで。「最後はみんな外に出してきたから、僕も外に行っちゃって。(15番で)枠的にもちょっと不利でした」。それでも直線でまたも末脚の爆発力を発揮させて7頭抜き。人気薄での7着は好騎乗だった。
最後の騎乗は「あんなもんじゃないですか」と能力は発揮させた。初めての芝コースの感触は「乗ったことなかったから分からないですけど。芝の方がいいですね、汚れないんでそんなに」と乗り心地も良かったようだ。騎乗馬はすごい脚で伸びてきたから、芝コースの適性は高かった。
中京での2戦は最後方からで、道中のポジション取りに苦労。もう少し前めにつけていたらどうだったのか。「競馬って難しいと思いましたね」と、広い馬場でレースの奥深さを学んだ一日となった。
表彰台には届かなかったが、笠松の記録男で全国の重賞戦線でも活躍している渡辺騎手超えの総合7位。笠松には胸を張って帰って、26日からの年末特別シリーズで元気な姿を見せる。
■中京で女性連勝、塩津騎手は差し切ってハナ差1着
総合Ⅴが決まった10R、ゴール前は4頭が大接戦。最後は4枠青帽子の2頭。外から伸びたトルーマンテソーロに騎乗した兵庫の塩津璃菜騎手(20)がたたき合いの末、差し切ってハナ差1着。地方所属女性騎手で史上初のJRA勝利をゲットした。佐藤翔馬騎手が2着、横山琉人騎手が3着。中京で勝ったのはいずれも女性ジョッキー。ファイナルでの死闘が終わった。
昨年のYJSファイナル最終戦では望月洵輝騎手(名古屋)が15番人気でJRA初勝利を飾ったが、今年は塩津騎手が8番人気で1着ゴール。初勝利セレモニーも開かれ、同じ兵庫の土方騎手がプラカードを持ち、JRAの古川奈穂騎手が記念品のプレゼンターを務め、松本騎手らジョッキー仲間がファンらと共に祝福した。
塩津騎手は偶然にも兄弟子・石堂響騎手と同柄の勝負服(馬主服)で挑んだ。歴史的な1勝を挙げ「JRAで勝てたのはめちゃうれしいです。(ハナ差で)勝った実感はあった。ゲートを出てじっくり構えて最後の直線に懸けようというレースをしました」。今後は「自分は斤量の有利さがあるので逃げて勝ちたいなと思います。応援してくださった皆さん、ありがとうございます。調教師さん、厩務員さん、馬のおかげで勝つことができ、とてもうれしいです」とスマイル全開。ファンからの「おめでとう」の声援と拍手に応えていた。
■「ちょっと手が震えています」と初々しい笑顔
ヒロインは検量室前でも「最後は手応えが良かったです。3、4番手につけて、砂をかぶって前が止まるだろうなと思って追いました」。勝った瞬間は「ホッとしました。兄弟子、家族にも感謝を伝えたいなと。園田のファンが多くびっくりしました。直線ですごく応援をもらえたので諦めずに追い、勝てて良かった。まだちょっと手が震えています」と初々しい笑顔を見せた。
勝負服が同柄という巡り合わせで「『優勝を目指して頑張ってきて』と言ってくれた石堂さんのおかげで勝てました」とも。2年目の今年「門別(期間限定騎乗)で積極的な競馬ができ、YJSでもできたので良かったです」。地方女性騎手の快挙に「うれしいです。馬も結構動いてくれて。JRAで勝てたのは自信につながります」と歓喜に浸った。最終順位は総合6位だったが、今後の飛躍へとつながる大きな1勝となった。
土方騎手は中京では10、11着に終わった。「園田ではうまく乗れましたが、きょう1戦目は出遅れたのがきつかった。2戦目は前へ行って残らなかったらしょうがないと乗りました。悔しさが残る2戦でしたね」と無念さを語りながらも笑顔は失わず。昨年総合6位で、リベンジを目指した今年は12位に終わったが、2年連続のファイナル進出は立派だった。地方通算97勝で、YJSは今回が最後になりそうだ。
■YJSファイナル最終順位
(園田、中京総合ポイント)
①佐藤翔馬(美浦)67 ⑨高杉吏麒(栗東)34
②佐野遥久(川崎)62 ⑩谷原柚希(美浦)27
③横山琉人(美浦)59 ⑪石田拓郎(美浦)27
④西塚洸二(栗東)47 ⑫土方颯太(兵庫)26
⑤古川奈穂(栗東)46 ⑬青海大樹(佐賀)15
⑥塩津璃菜(兵庫)39 ⑭神尾香澄(川崎)14
⑦松本一心(笠松)39 ⑮谷内貫太(大井)14
⑧山本大翔(船橋)35 ⑯大久保友雅(栗東)8
(同点は着順上位優先)
最終結果は佐藤翔馬騎手(美浦)が67ポイントで総合優勝。62ポイントの佐野遥久騎手(川崎)が2位、59ポイントの横山琉人騎手(美浦)。東日本勢が上位を占めた。佐藤騎手は史上初めてファイナルラウンド4戦で1着がない総合優勝となった。西塚洸二騎手が4位、古川奈穂は2年連続の5位。
優勝した佐藤騎手と準優勝の佐野騎手は子どもの頃、4位・西塚騎手の実家(山梨)の乗馬クラブで、騎乗技術の上達に励んだ仲間でもあった。不思議な縁を感じつつ、お互いナイスファイトで上位
進出を果たした。
■総合Ⅴの佐藤騎手「うれしいが、勝ちたかった」
表彰台の一番高い所に上がった佐藤騎手「優勝を目指していたので素直にうれしいですが、レースで一つも勝てなかったことは心残り。特に最後のレースはハナ差の2着だったので勝ちたかった。これを機に来年は飛躍の年にしたい」
2位の佐野騎手「(第1戦は)前の2頭が行って、おいしい展開だと思っていたが、差し切れず2着で悔しかった。初めての芝のレースはスピード感があって良かった。リベンジできる機会があればまた来たいです」
3位の横山騎手「(一昨年優勝で2度目の表彰台について)ちょっと位置が低いですね。2戦目を勝てず残念。今年、けがなく乗れたことは良かった」
■明星騎手ら若手、それぞれの持ち味伸ばし成長を
笠松勢では2年目の明星晴大騎手がYJSでファイナル進出は逃したが、笠松で今年67勝と急成長しリーディング3位。既に通算115勝を挙げており、YJSは今年で最後となった。同期で名古屋の望月洵輝騎手は塚本征吾騎手とリーディング争い。地元笠松のレースで明星騎手は負けられない思いも強い。深沢杏花騎手はレディスジョッキーズシリーズ準優勝で自信をつけた。逃げて差して、1着ゴールも増えてきた。
東海勢でただ一人、YJSファイナルに進出した松本騎手。来年に向けては「騎乗馬も増えていますし、この調子でチャンスをもらえたらなと。重賞を取るような馬には乗っていないですが。今年けがなく乗れたので、来年も無事に乗りたいです。それが一番ですね」。今年の笠松での騎乗数は筒井勇介騎手、東川慎騎手に続き3番目と関係者の信頼も厚くなっている。
勝利数は1年目18勝、けがに泣いた2年目11勝。今年は46勝で笠松リーディング7位と躍進。佐賀、名古屋でも勝ち計48勝。地方通算では77勝、2着98回、3着131回と勝ち切れないレースも目立つが、3年目で急成長。笠松でインから急襲した鮮やかな勝利は印象的だった。プライベートでも充実した生活を送り、レースで好調さをキープしている。来年3月までに通算100勝を超えて、YJSは今年で最後にしたい。
笠松所属騎手は14人のうち20代が5人。井口騎手は30歳だが8月にデビューしたばかり。来春には笠松で実習に励んだ小林樹騎手候補生も順調ならデビューする。
20代では「別格」でもある渡辺騎手。今年は重賞ハンターとして計7勝。他場ではプチプラージュ、サキドリトッケンなどで勝ちまくり、全国区での活躍を見せてくれた。模範となる渡辺騎手のレースに向かう姿勢や騎乗スタイルなどをお手本にしながら、後輩たちもそれぞれの持ち味である個性を伸ばして成長。他場へも積極参戦し、大きく羽ばたいていきたい。
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(筆者・ハヤヒデ)電子メール ogurinosato38hayahide@gmail.com までお願いします。
☆最新刊「オグリの里4挑戦編」も好評発売中

「1聖地編」「2新風編」「3熱狂編」に続く第4弾「挑戦編」では、笠松の人馬の全国、中央、海外への挑戦を追った。巻頭で「シンデレラグレイ賞でウマ娘ファン感激」、続いて「地方馬の中央初Vは、笠松の馬だった」を特集。
林秀行(ハヤヒデ)著、A5判カラー、196ページ、1500円(税込み)。岐阜新聞社発行。笠松競馬場内・丸金食堂、ふらっと笠松(名鉄笠松駅)、ホース・ファクトリー(ネットショップ)、酒の浪漫亭(同)、岐阜市内・近郊の書店、岐阜新聞社出版室などで発売。岐阜県笠松町のふるさと納税・返礼品にも。









