暗くて明るい朝焼けの青のような作品だった。

 いつからだろう、人を好きになるのが怖くなっていた。以前受けた恋人からの性暴力のせいだろう。自分に健全な恋愛ができるイメージが持てず、逆に好きになっても手の届かない人ばかりを選んでいた。そんな中、出会ったのが彼の作品だった。寂しさと健気(けなげ)さと一途(いちず)さを、技巧的なテクニックでまとめ上げたその作品たちに、異常な好感を抱いた。そしてそのクリエイターとしての好感は、恋愛対象としての好感にするりと結びついた。

 といっても、だから付き合いたいと思ったわけではない。もともと、好きであることと付き合うこと、つまり独占したいことがまっすぐに結びつかないたちで、一方的なリスペクトと慈しみがあれば満足できてしまうこともざらにある。それで彼の作品や姿を見ては、いいなあ、かっこいいなあと思うだけで十分だった。彼の作品と姿をおもうだけで、心が晴れやかになって、悩みも吹き飛んだ。

撮影・三品鐘

 彼とは何度か連絡を取った。けれど、交流はうまくいかず、どこか警戒されているのではという印象を抱いた。

 すき。その感情は美しい。でも、それに飲み込まれると、私たちは簡単にいろんなものを見誤る。相手を独占したいとおもうこと、期待通りの反応を望むこと、もっと距離を縮めたいと思うこと。その欲望は暴力性をはらんでいて、私は自分が彼に無意識の暴力を振るっていないか、気になって仕方がなかった。自分が暴力を受けたから、なおのこと。そして私は静かに彼のことを諦めていった。

 そして今なら思う。それは彼が単なる恋愛対象ではなく、私の課題だった、人を信頼する、大事に思う、そのリハビリの象徴だったのだと。そして彼の作品は今も、私の心を照らし続けてくれている。

 すき。その感情は美しく、またすきという気持ちは恋愛だけではなく、友情にも、家族にも、作品にも、単なるものにもあり、実にいろいろなものを照らしてくれる。痛みや寂しさや苦しさをほんの少し和らげたり、温めたりしてくれる。明日も生きようという希望を与えてくれる。だからようやく人にまっすぐにすきという気持ちを持った私は、ほんの少し健全になれたのだろう。今ならそうさせてくれた彼の作品に感謝したい。

 今も私の胸には、彼が見せてくれた暗くて明るい朝焼けのような青が浮かんでいる。


 のぐち・あやこ 1987年、岐阜市生まれ。「幻桃」「未来」短歌会会員。2006年、「カシスドロップ」で第49回短歌研究新人賞。08年、岐阜市芸術文化奨励賞。10年、第1歌集「くびすじの欠片」で第54回現代歌人協会賞。作歌のほか、音楽などの他ジャンルと朗読活動もする。名古屋市在住。

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