泌尿器科医 三輪好生氏

 膀胱(ぼうこう)炎という名前は皆さんよくご存じかと思います。一般的に膀胱炎というと細菌性膀胱炎のことを指します。膀胱の中に入り込んだ細菌が繁殖して、粘膜の表面に炎症を起こすことで発症します。一方、同じ膀胱炎と名前が付いていても尿検査では異常がなく見逃されやすい病気に間質性膀胱炎があります。

 頻尿や排尿痛など普通の膀胱炎と症状は似ていますが、尿検査で異常がないことが多く抗生剤も効きません。他に特徴的な症状として、尿がたまってきたときに膀胱に痛みを感じます。そして排尿をすると痛みが和らぎます。中には痛みが起こる前に不快感で早めに排尿をしてしまうため痛みを感じない人もいます。膀胱炎、過活動膀胱などの診断でさまざまな治療を受けても症状は良くならず、最終的には精神的な問題と言われ、精神安定剤を処方されている患者さんも少なくありません。

 間質性膀胱炎の原因はいまだ分かっていません。間質性膀胱炎の診断には膀胱の内視鏡検査が行われます。内視鏡で膀胱の粘膜にハンナ病変=図=という特徴的な異常が見られる場合には容易に間質性膀胱炎と診断できますが、内視鏡で異常の見られないタイプの間質性膀胱炎もあります。近年ではハンナ病変の見られるものを間質性膀胱炎(ハンナ型)、見られないものを間質性膀胱炎(膀胱痛症候群)と区別して診断されます。近年、膀胱痛症候群の患者さんの膀胱の組織には炎症が見られないという報告もあり、最近ではハンナ型と膀胱痛症候群は全く別の病気であると考えられています。

 原因が不明であるため治療は対症療法が中心となります。痛みに対し鎮痛剤が使用されますが、効果は限定的です。手術療法には麻酔のかかった状態で水を注入して膀胱を拡張する膀胱水圧拡張術があります。一定の圧力で膀胱の中に生理食塩水を注入して膀胱を十分拡張した後に排液すると膀胱粘膜から出血するのが特徴です。ハンナ病変がある時はその場所を内視鏡で凝固または切除します。

 膀胱水圧拡張術によって症状はいったん改善しますが、原因が取り除かれたわけではないので再発することがあります。特にハンナ型の場合は難治性であり厚生労働省より難病に指定されています。

 そして、ハンナ型の間質性膀胱炎に対しては2021年4月から新たな治療法が保険診療で認められました。ジメチルスルホキシド(DMSO)という薬剤を膀胱内に注入する治療です。DMSOには抗炎症作用、筋弛緩(しかん)、鎮痛作用があるといわれており、海外では間質性膀胱炎の治療に古くから使用されてきました。重大な副作用はなく、入院しなくても外来で治療ができるため今後の普及が期待されます。

 DMSOは当初、薬液を注入した後は体にニンニク臭がするといわれていましたが、実際にはほとんどみられないようです。間質性膀胱炎はもともと膀胱が知覚過敏の状態であるので薬液を注入した際、膀胱にしみる痛みを感じますが、翌日からは効果を実感できることが多いようです。

 間質性膀胱炎は一般のクリニックでは見過ごされやすい病気であるため、尿検査で異常がないのに膀胱炎の症状が続く時は気のせいと諦めないで泌尿器科を受診することをお勧めします。

(岐阜赤十字病院泌尿器科部長、ウロギネセンター長)