東海地区3歳馬頂上決戦で最後はぶっちぎり、ゴール手前でガッツポーズ。前走「物見」で失速し2着に敗れた「芦毛の新怪物」とのコンビで復活V。26歳の主戦ジョッキーは、うれし涙で顔をぐしょぐしょにしながらファンの祝福に応えた。最後は無人のスタンドに向かって?笑撃の「カニポーズ」も決めてくれた。
「第56回東海優駿」(SPⅠ、2100メートル、1着賞金1500万円)が4日、名古屋競馬場で行われ、細川智史騎手騎乗の1番人気アストラビアンコ(牡3歳、角田輝也厩舎)が快調な逃げ。3~4コーナーで後続に詰め寄られるシーンもあったが、最後の直線を向くと猛スパート。「圧逃」のパフォーマンスを見せて2着馬に2秒1差。単勝1.1倍の人気に応えた。細川騎手はこのレース初制覇、角田調教師は5勝目。2着に2番人気のアルティメイタム=塚本征吾騎手=、3着に8番人気のタガノアイゼン=近藤颯羽騎手=が突っ込んだ。昨年覇者の望月洵輝騎手はホッカイダイオーで7着だった。
■笠松勢リバーストリート、渡辺騎手騎乗で4着
笠松からただ1頭参戦したクイーンカップ優勝馬リバーストリート(田口輝彦厩舎)。渡辺竜也騎手の騎乗で好位につけて3コーナーでは先頭に並び掛けようとしたが、最後は伸び切れず4着。名古屋の馬に騎乗した大原浩司騎手はマイネルモンテュスで5着、明星晴大騎手はエレガントファラオで9着。東海1冠目・駿蹄賞勝ちのリバーサルトップが出走回避(寝違えの影響)。主戦だった筒井勇介騎手はハチハチローズに騎乗したが12着に終わった。
■最大の焦点、アストラビアンコの気性難
最大の焦点だったのは大本命馬アストラビアンコの気性難。5月の駿蹄賞では単勝1.2倍。2周目の2コーナーで「スターターの台を物見して止まってしまったようで気性面の不安が露呈した。再びレースに参加して持ち直すあたり力があるのは間違いない。東海優駿を勝てるよう巻き返したい」と陣営。スタート地点も違って同じ失敗は繰り返さないよう細川騎手は、アストラビアンコを気分良く走らせて最高のパフォーマンスを引き出し、後続を突き放す完勝となった。
ファンの大きな支持を集めて負けられない一戦。大仕事を無事終えて愛馬と1着の枠場に入ると、角田調教師と厩務員に迎えられ、関係者から「おめでとう」の声を浴びると、細川騎手の目から涙があふれ出た。口取り写真の記念撮影では馬主の会田裕一さん(ハッピーオーナーズクラブ)らメンバーと喜びを分かち合った。アストラビアンコは父バゴ、母ウエスタンビアンコで母父がクロフネという血統。スプリングカップ、新春ペガサスカップ、ゴールドウイング賞に続き重賞4勝目。
■「最後まで止まらないように走ってくれるか、馬と僕との勝負でした」
表彰式での勝利騎手インタビュー。「さとし、おめでとう」。ファンの声にも細川騎手は感極まって涙を流し、顔を両手で覆ったり、左腕で拭いながら、喜びの声を絞り出した。
「うれしいです。先生から好きなように乗っていいという指示があったんで、雰囲気も良くてそのまま行っちゃいました。前走は折り合い気味でレースをしたら、2コーナーでうまくいかなくて。(きょうは)馬がハミをかんで、やる気を出した状態でレースをすることを心掛けた」。ゴールでのガッツポーズについて「ちょっと早かったですね」にはファンも爆笑。「(道中は)最後まで止まらないように走ってくれるか心配で、ずっと馬と僕との勝負でした」と圧勝劇を振り返った。
さらに「競馬だけでなく、いろんな形で盛り上げたい。仕事に行く時でもみんなが笑顔になってもらえるように、名古屋競馬としても僕としても、みんなを笑わせられるよう頑張ります」と来場者やネット越しにもメッセージを送った。詰め掛けたファンからは「カニダンス」を期待する声も飛んでいた。
■「カニダンス」や「オルフェーヴルのよう」でも人馬注目
名古屋競馬ではこのところ、メインレースのファンファーレに合わせて、騎乗していないジョッキーらが思い思いのパフォーマンスでレースを盛り上げている。マスコット「シャチウマ」らと一緒に、細川騎手はユニークな「カニダンス」を披露した。そのコミカルな動きはネット上の動画でバズっている。
またアストラビアンコの駿蹄賞での減速は、2012年の阪神大賞典でオルフェーヴルが見せた驚きのレース(コース外への逸走後、追撃して2着)と似ていると注目を浴びた。
細川騎手は2020年デビューで深沢杏花騎手と同期。1年目、ヤングジョッキーシリーズのファイナルラウンドに進出し総合3位に輝いた。名古屋では毎年、勝ち星を伸ばしており昨年69勝。今年は30勝(6月4日現在)。笠松での騎乗も多く、昨年は23勝を挙げた。昨夏、名古屋競馬では地方通算5271勝の岡部誠騎手が引退。リーディング・角田厩舎の細川騎手には「そのうち、いい馬が回ってくるんじゃないか」と聞いたことがあった。ところが「いえ、僕にはあまり来なくて変わらないですよ。おこぼれがあれば」とのことだった。人気薄で馬券圏内をにぎわせる騎手として注目してきたが、名古屋では現役6人目となるいわゆる「ダービージョッキー」になったことで周囲の見る目も違ってくることだろう。
■放牧に出し坂路調教、細川騎手には「好きに乗ってこい」と
タニノタビト以来4年ぶりに3歳頂点を決めるレースを制覇した角田調教師も喜びを語った。「レースは何があるか分からない。結果を見れば大差でしたが、無事に走ってくれたことにホッとしています。前走は初めての2000メートルで物見をして失速したが、盛り返して2着に来てくれたことは自力がある馬だなと思った。このままではいけないと、キャニオンファーム(滋賀)に放牧に出した」。かつての名手で育成に従事するスタッフに坂路調教をしてもらい「帰ってきて四肢がしっかり伸びるようになって良かった。調教でも気性はなかなか直らなかったが、しっかり体力を戻して元気いっぱいでレースに臨みました」という。
自厩舎の細川騎手に対しては「やはり緊張していたから『好きに乗ってこい』のひと言ですね。前走で一番つらい思いをしたのは彼ですし、今回のレースで騎手を代えることは考えていなかった。彼と一緒に勝ちたいなと。上手に乗ってくれて、2コーナーの回りでもうまく対応してくれた。馬のコンディションづくりはスタッフ一丸となって支えてくれました。3コーナーでは安心していました。強かったですし、さらに上を目指すにはいろいろと課題もありますが、挑戦できるということはうれしく思います」。
■「JRAにも挑戦していきたい」「うちの看板馬は、厩舎のジョッキーを乗せたい」
今後は「いったん放牧に出す予定で、秋まで充電して体をつくって気性がしっかりしてくれば。名古屋から次世代エースができるんじゃないかと思っています。まだまだ上を目指してJRA にも挑戦していきたいので、皆さん応援してください」。駿蹄賞2着については「負けて良かったと思います。負けたからこそ、悔しいからこそ今回の勝利があったというのが本音です」。さらに「うちの看板馬には、やっぱり厩舎のジョッキーを乗せたいですね」。細川騎手のこの日の涙については「感極まって、感受性豊かだから、それだけうれしかったと思います。でもあいつより僕の方がうれしいです」と。やはりこのレースを勝つことは、東海地区のトレーナーにとって最高の勲章のようだ。
■ルーキーの近藤颯羽騎手3着「緊張したが、いい位置を取れた」
4月にデビューしたばかりで3着と健闘したルーキーの近藤颯羽騎手。「すごく緊張しましたが、ゲートをすんなり出られていい位置を取れました。先生や馬主さんや感謝しています。コーナーから焦ってしまって、じっと我慢して外へ行っていれば2着もあったかなあと。名古屋だからこそこういうチャンスもあり、次に乗るときも頑張っていきたいです」と語り、堂々とした騎乗を見せた。
■細川騎手、愛馬との駆け引き「フワッとしたが、修正可能な範囲でした」
着替えや馬具の手入れを終えた細川騎手は「返し馬はフワーッとした感じでしたが、レースに出てから進み具合が良くて。いい感じに仕上がっていたのでハナに行きました。(2周目は)馬と僕の駆け引きというか、いかにだませるかでした。途中までいい感じでだませていた。2周目2コーナー辺り、ここで多分やるなというところでフワッとしましたが、修正可能な範囲でした。他の馬にはない気性難だったのでずっと戦っていました。最後まで油断しなかったです」。
「(ガッツポーズが出た)最後の最後、お客さんも僕を応援してくださって声も聞こえたんで、うれしかったですね。この馬には『強いのに繊細さ』を教えてもらいました」。あふれ出た涙については「我慢しようと思っていましたが、厩務員さんの顔を見たら、ちょっとウルッとしちゃいました」と振り返った。
■運命的、最高の馬との出会い「ありがたいです」
初めて重賞を勝った頃、この馬に対しては「最初は気の悪さを出していなくて無邪気で、でかくて(馬体重500キロ前後)ストライドも大きいし、そこそこやれそうだなあという感じでした。でも走るなあと分かった時には、何かちょっと怪しいな」とも感じたそうだが、細川騎手にとっては運命的な最高の馬との出会いにもなり「ありがたいです」と感謝した。
「台風などもあって、いい休暇を取りながらレースに行ったんで、それが良かったです」とオーバーワークにならないように臨んだ本番レース。「駿蹄賞の負けが逆に僕と馬を進化させてくれたのかなと思います」
■「カニポーズ!」と東海優駿Ⅴの喜びを全身で表現
表彰式インタビューの最後には、ファンから「カニダンス」をリクエストする声もあったが「聞こえましたよ」と本人にも届いていた。「ファンが笑ってくれるとうれしいなという気持ちで、ああいう発信はしていきたいです。あれはあれで、レースはレースで」とにこやか。「またやってくれるのか」と聞くと「いつでも、ハイ」と頼もしい返事を頂けた。
最後に決めのワンポーズをお願いすると、ガッツポーズかと思ったら、期待以上の反応。「ここでやっぱりカニをやった方がいいですか」と検量室に戻ってスタンバイ。遊び心を存分に「カニポーズ!」と東海優駿Ⅴの喜びを全身で表現してくれた。まさかの展開となったが、表彰式でのファンの声が届いたようだ。
■オグリキャップ記念、ケイズレーヴの優勝報告会「芝のレースにも挑戦しようかと」
この日の5R、名古屋・宮下瞳厩舎に移籍し3戦目を迎えたオマタセシマシタが出走。笠松時代の移籍初戦で勝利を飾った渡辺竜也騎手が騎乗。2番手から脚を伸ばせず11着に終わったが、わざわざ「オマタセちゃん」を見に来たというファンもいて相変わらずの人気馬である。
5R後には笠松でのオグリキャップ記念を制覇したケイズレーヴの優勝報告会が行われ、管理する榎屋充調教師を祝福。「反響が大きくてうれしいです。メンバーは強かったですよねえ。でも挑戦して良かったです。4コーナーを回って『行け、行け』とつぶやきながら見ていました。ウィリアムバローズに並び掛けて『あー、行ったわ』と。びっくりしちゃって」と喜びを語った。
騎乗した渡辺竜也騎手も駆け付けてくれて「優勝」のプラカードを持って「ごちそうさまでした」のひと言。万全に仕上げてもらって勝利を飾り、祝勝会もあったことだろう。榎屋調教師は「芝のレースに挑戦しようかと思っています。もっといい競馬ができるよう頑張ります」と意欲満々。ファンからは飛山濃水杯3着だった木之前葵騎手でのJRA初騎乗を期待する声もあった。
笠松でのレースの優勝報告会が、名古屋競馬場で行われることは異例だが、東海ダービー出走を断念し中央に移籍した名馬をたたえるオグリキャップ記念がそれだけビッグレースだという表れでもある。名古屋、笠松勢がしのぎを削りながら、中央でも通用する強い馬を育てていければ東海地区のレベルアップにつながる。ジョッキーの交流は盛んになっており、新たな「地殻変動」を期待していきたい。
■9月・笠松で「西日本3歳優駿」、10月「岐阜金賞」にはアストラビアンコ参戦を
ところで「東海優駿」というレース名。2年前に東海ダービーから名称が変更された。レース当日はファンも厩舎関係者も報道陣もみんな「ダービー」「ダービージョッキー」と呼んでいた。せめて、東京優駿(日本ダービー)のように副称でもいいので、東海優駿(東海ダービー)としていただければ
呼びやすくなる。横断幕は多かったが、当日の入場者数は761人と少なかったし、東海公営の騎手や調教師が「最も勝ちたいレース」にしては、場内の雰囲気も普段の開催日とあまり変わらなかった。
今年は笠松競馬場でも9月11日に「第11回西日本3歳優駿」(旧・西日本ダービー)が開催される。西日本所属場デビュー馬による戦いで、笠松では6年ぶり2回目。東海地区3冠目の岐阜金賞は10月22日に笠松で行われる。こちらは開催が真夏から秋に戻り、東海地区の3歳クラシックロードらしい日程になった。東海優駿では、田口輝彦厩舎・リバーサルトップの回避は残念だったが、放牧後のアストラビアンコには岐阜金賞にぜひ挑んでほしいし、両者再戦がかなえば、駿蹄賞のリベンジを果たせるか注目したい。
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(筆者・ハヤヒデ)電子メール ogurinosato38hayahide@gmail.com までお願いします。
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「1聖地編」「2新風編」「3熱狂編」「4挑戦編」に続く第5弾「青春編」では、笠松競馬場などでの「砂上の格闘技」で完全燃焼した人馬たちへの惜別の思いも込めた。巻頭はシンデレラグレイ賞&トークショーでのウマ娘ファンの熱狂ぶり、続いて日本競馬界最大のヒーローであるオグリキャップ、アオラキ&ハルオーブ、ストーミーワンダー、ハマちゃんなどを特集。
林秀行(ハヤヒデ)著、A5判カラー、182ページ、1500円(税込み)。岐阜新聞社発行。ふらっと笠松(名鉄笠松駅)、笠松町歴史未来館、ホース・ファクトリー(ネットショップ)、酒の浪漫亭(同)、岐阜市内・近郊の書店、岐阜新聞社出版室などで発売。岐阜県笠松町のふるさと納税・返礼品。









