宮崎ステークスでグランキングオーに騎乗し、鮮やかに差し切った渡辺竜也騎手

 「ギラギラ太陽が 燃えるように」~。昭和のヒット曲のように「Ⅴ量産の夏男」渡辺竜也騎手がJRAのレースへの恋心と熱い闘志をたぎらせた。オグリキャップがJRAのエリート馬たちに挑んだように「地方のジョッキーでも、なめられないぞ」と笠松発のジョッキー編「サマードリーム」。応援するファンたちの真夏の夢を乗せて芝とダートを駆け抜けた。

 渡辺騎手は7月19日、小倉競馬場(北九州市)で躍動。準メイン「宮崎ステークス」を制覇してJRA2勝目を飾った。5戦全て人気を上回る着順で存在感を示し、地方競馬ファンだけでなく中央競馬ファンも「さすがは『笠松の竜王』渡辺騎手」とたくましいその手腕をたたえた。

オグリキャップ記念優勝馬のケイズレーヴ

 ナツコク(夏の小倉競馬)最終日の最高気温は36.6度。小倉競馬場はJR小倉駅から北九州モノレールで約10分。競馬場前駅から徒歩1~2分。地方では笠松競馬場が名鉄笠松駅から約3分と最も近いが、JRAでは小倉競馬場が駅からはすごく近い。

 渡辺騎手は7月8日、地元笠松で「1日8勝」の地方・JRAタイ記録を達成したばかり。武豊騎手、クリストフ・ルメール騎手に並び、騎乗数9戦は最少で実質「日本記録」。「誰も見たことがない領域に足を踏み入れた」地方トップジョッキーとオグリキャップ記念優勝馬ケイズレーヴによるJRA重賞挑戦。関係者やファンも「厳しい戦いになりそうだが、どこまでやれるのか」と不安と期待が交錯した一戦になった。

ゴールまで、残り100メートルを切って、先頭のジューンエオスを追撃する渡辺騎手騎乗のグランキングオー

 ■必勝パターンで「竜王Ⅴロード」激走

 渡辺騎手は今年、JRAでは19戦2着2回、3着1回で未勝利だった。小倉ではエキストラを含め計5戦。芝コースで2R7着、5Rでは写真判定の末に3着で迎えた10Rの宮崎ステークス。3勝クラス特別戦でダート1700メートル。騎乗馬はオープン入りを目指すグランキングオー(牡4歳、高橋康之厩舎)。パドックでは2人引き。前走は4コーナーで前の馬と一緒に下がってしまう不利があって12着だったが、この日は渡辺騎手の手腕が光り、流れに乗れていた。

 先団をキープし、残り400メートルで3番手に上がると、折り合い重視で小回りコースに慣れている渡辺騎手にとって、笠松と同じダート右回り。好位からの必勝パターン「竜王Ⅴロード」激走に持ち込んだ。

 小倉最後の直線は291.3メートル。息切れした1頭をかわすと、逃げ込みを図った2番人気ジューンエオス=西村淳也騎手=を大外から追撃。鋭い末脚でしっかりと伸びて差し切り、4分の3馬身差で1着ゴール。ハンデ戦で前走から4キロ減の54キロで乗れたことで反応も良く、強いレース内容だった。

宮崎ステークスでJRA2勝目を飾り、歓喜に浸る渡辺騎手(笠松競馬提供)

 ■ナツコク最終日に「笠松の渡辺」を全国にアピール

 渡辺騎手は2024年11月16日の京都10R・近江特別をメイプルタピットで制して以来のJRA2勝目を飾った。勝ちタイムは1分44秒9(良)。2着にジューンエオス、3着に11番人気プロミシングスターが入った。競馬ブックの「▲→◎印」で馬単1万760円、3連単は18万1950円と高配当になった。ソダシとママコチャの半弟で注目された白毛のカルパ(牡5歳、須貝尚介厩舎)は9着に終わった。

 勝った渡辺騎手は「ゲートを出て、いいところにつけていけました。(ジューンエオスをマークしながら)直線に向き、しっかりと捉えてくれました。54キロも良かったです」とナツコク最終日に「笠松の渡辺」を全国にアピールできた。2着ジューンエオスの西村騎手は「あと少しだったのですが。惜しかったです」と悔しがった。

 ■JRAのレースでも「もっと人気するジョッキーに」

 翌日には笠松・サマーカップシリーズがスタート。お昼には装鞍所エリアの日陰にある温度計は38度。日差しは強く猛暑日から酷暑日に迫ろうかという勢い。

 装鞍所エリアには小倉からホームに戻った渡辺騎手の姿があった。「JRA2勝目、おめでとうございます」と声を掛けた。3コーナー3番手に押し上げ、渡辺騎手得意のポジションから一気の差し切り。「まあ、手応えも良かったですし、最後は馬が頑張ってくれました。いいところが空いたので(そのタイミングを逃さず)いいところをさばけました」と中央のレースでも普段通りの騎乗ぶりで勝利に導いた。

宮崎ステークスを制したグランキングオーと喜びの渡辺騎手ら(笠松競馬提供)

 渡辺騎手は8番人気での勝利だったが「人気は意識してなかったですが、JRAのレースでももっと人気するジョッキーにならないといけないですね」とファンの支持には物足りなさも感じていたようだ。笠松では1番人気で乗ることが多いだけに、中央のファンにも名前と実力をもっと知ってほしいのだろう。

 グランキングオーを1着に導いて好結果を残したが、満足はしておらず「馬が人気してないじゃないですか。地方のジョッキーだとなめられているわけで」とも。それでも評価の低さに反発するかのように、この日に騎乗した5頭とも人気より上の着順に持ってきたのは「さすが」の手腕発揮で濃い内容だった。

 ■「地方騎手のすごさ示せた」「現地でナベタツ!って叫んだ」

 渡辺騎手はJRAで2勝目を飾ったことを自らのX(旧ツイッター)でもゴール後の写真と共に報告。「宮崎ステークスご声援ありがとうございました」と応援するファンに感謝した。

 ファンからは「地方騎手のすごさを示せましたよ。うれしいです」「『笠松の竜王』渡辺竜也ここにあり! 現地でナベタツ!ナベタツ!
って叫ばせてもらいました。おめでとうございます」「やっぱり渡辺騎手はすごいんだなあ。8番人気を勝たせた」などと祝福の声が多く寄せられた。

オグリキャップ記念制覇を喜び合う渡辺竜也騎手と榎屋充調教師。後方は優勝馬ケイズレーヴ

 ■オグリキャップ記念制したケイズレーヴは16番人気

 小倉メインは伝統の「第62回小倉記念」(GⅢ)。芝2000メートルにフルゲート18頭。名古屋のケイズレーヴ(牡4歳、榎屋充厩舎)は前走オグリキャップ記念を大外一気の豪脚で制覇し、中央の芝レースに初めてチャレンジした。ところがファンの目は厳しく「地方馬で格下」と見られて無印扱いの16番人気、単勝は191.5倍。

 距離が前走から600メートル延びて、果たしてどこまで通用するのか。ケイズレーヴを管理する榎屋充調教師は、名古屋でのオグリキャップ記念優勝報告会で「芝のレースに挑戦しようかと思っています。もっといい競馬ができるよう頑張ります」と小倉挑戦に向けて意欲満々だった。

小倉記念で重賞に挑み、パドックを周回するケイズレーヴと渡辺騎手

 ■ラスト3Fはメンバー4位の35秒0も12着

 ケイズレーヴはパドック周回から気合乗りも良く、好スタートを切った。後方2、3番手から末脚を生かす構え。4コーナーでもまだ後方2番手(1頭、競走中止)だったが、ラスト3Fをメンバー4位の35秒0。最後の直線では外から軽快なフットワークでよく追い上げたが、前4頭を追い抜くのが精いっぱいで12着に終わった。

 渡辺騎手は「このメンバーに入っても上がりの脚は使えました。もっと短い距離ならやれてよさそうです」とレース後にコメント。勝ったのは酒井学騎手騎乗の10番人気ゼンダンハヤブサ。上がり3F34秒7の決め脚を発揮し、中団から差し切った。

 ケイズレーヴは1分59秒3で勝ち馬からは1秒3差と初の芝コースで健闘を見せた。笠松に戻った渡辺騎手は「最後はいい脚を使っており、悪くなかったですね」。着順(12着)よりもレース内容自体は良くて「そんな感じでした」とやはりちょっと悔しさも残った一戦。初の芝コースでよく頑張ってはいたが、2桁着順では仕方がないところか。それでも笠松でのJRA交流戦によく騎乗する田口貫太騎手や今村聖奈騎手には先着した。ケイズレーヴとのコンビでナイスチャレンジ。芝への適性があることも分かったし、ダートグレード戦線で十分に戦えるレースを見せてくれた。

 応援するファンからは「渡辺さんもケイズレーヴもよくやりました! 中央競馬メインの競馬ファンには地方競馬所属の騎手や馬がなめられがちですね。もちろん実力差があることもありますが地方の意地を示してくれてうれしい」「多分金沢のJBCスプリントを最大目標にしてると思うけど、どこかもう一戦くらい使うんかな」などとネット上に寄せられた。笠松競馬場の公式アカウントでも「小倉競馬第10競走はグランキングオーに騎乗した渡辺竜也騎手が勝利し、JRA2勝目を飾りました」とレース後の喜びの表情と共に、絶対エースの活躍を祝福した。

レース後、シャワーを浴びて馬体を冷やしてもらう競走馬たち。厩務員らが馬体のケアに努めた

 ■全国一暑い岐阜県、酷暑40度でもレースは続く

 20日には東海地方も梅雨明け。「暑さは大丈夫です」と夏男は勝利量産モードに突入したが、猛暑は始まったばかり。笠松2日目、岐阜県内は40度超えが目立ち、暑い地点も全国一多かった。レース後には厩務員らが愛馬のケアに励み、暑さに弱い競走馬たちはシャワーを浴びて馬体を冷やしてもらった。

 22日は笠松開催日でもあったが「大井に行きます」と渡辺騎手。「全国重賞ハンター」は他地区の競馬場からも騎乗依頼が多い。ナイター開催の大井では重賞「サンタアニタトロフィー競走(S3)」でグレードアイコン(牡8歳、真島大輔厩舎)に騎乗。後方からの競馬となり、末脚は不発で11着に終わった。

2歳新馬戦をベアケイであっさり逃げ切った渡辺騎手

 笠松での2歳新馬戦では渡辺騎手騎乗、断トツ人気のベアケイ(牝2歳、笹野博司厩舎)が逃げ切り勝ち。世代屈指のスピードで強い勝ち方。コパノリッキー産駒で夢いっぱいの好素材。距離が延びる秋風ジュニアに向けて大物感のある一頭がまた出現した。

 ■JBCなどで中央のファンもアッと言わせたい

 ケイズレーヴはまだ4歳で20戦9勝。芝でもやれることが証明できたし、今後のレースへの選択肢が広がった。デビュー戦から騎乗していたのが木之前葵騎手で、笠松・飛山濃水杯ではゴール前急襲の3着もあった。木之前騎手はカツゲキキトキトで重賞3勝を挙げたが、大畑雅章騎手で挑んだダートグレード競走では優勝にあと一歩届かなかった。

 昭和の時代から、笠松や名古屋の調教師らは「打倒・中央」に燃えてきた。名古屋からはジュサブローが1986年、中山・オールカマーⅤからジャパンカップ7着。笠松からは2004年、ミツアキタービンがフェブラリーステークス4着。地方勢の中央挑戦は庶民の夢が詰まっており、都会に出た地方出身者も思いを共有できるのがいいところ。ケイズレーヴにはJBCスプリント挑戦の可能性も十分にあり、追い込みの競馬に徹して中央のファンもアッと言わせたいものだ。


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 「1聖地編」「2新風編」「3熱狂編」「4挑戦編」に続く第5弾「青春編」では、笠松競馬場などでの「砂上の格闘技」で完全燃焼した人馬たちへの惜別の思いも込めた。巻頭はシンデレラグレイ賞&トークショーでのウマ娘ファンの熱狂ぶり、続いて日本競馬界最大のヒーローであるオグリキャップ、アオラキ&ハルオーブ、ストーミーワンダー、ハマちゃんなどを特集。

 林秀行(ハヤヒデ)著、A5判カラー、182ページ、1500円(税込み)。岐阜新聞社発行。ふらっと笠松(名鉄笠松駅)、笠松町歴史未来館、ホース・ファクトリー(ネットショップ)、酒の浪漫亭(同)、岐阜市内・近郊の書店、岐阜新聞社出版室などで発売。岐阜県笠松町のふるさと納税・返礼品。