消化器内科医 加藤則廣氏

 全身の筋肉量が低下する状態は「サルコペニア」と呼ばれ、運動機能の低下をもたらし、日常生活を不健康なものにします。サルコペニアは加齢が原因の一次性と、肝疾患や腎臓病、糖尿病などの基礎疾患に伴う二次性があります。サルコペニアは基礎疾患を悪化させるので予防が重要であり、適切な栄養療法と運動療法が必要です。今回は、肝硬変におけるサルコペニアについて説明します。

 肝硬変では、エネルギー源として肝臓に貯蔵されている糖や脂質が少なくなっているために、筋肉を構成している必須アミノ酸である分枝鎖アミノ酸(バリン、ロイシン、イソロイシン)がエネルギー源として使用されてしまいます。また肝臓の機能が低下してアンモニアなどを十分に代謝・分解できない時は、筋肉内で分枝鎖アミノ酸を用いて行われます。こうした機序から、肝硬変では筋肉量が減少してサルコペニアが発生します。さらに最近は、肝硬変の患者さんが高齢化していることもサルコペニアの増加要因です。肝硬変患者のサルコペニアの診断基準は日本肝臓学会が定めています。表のように握力を測定、またCTなどによって体内の筋肉量を測定して診断します。

 サルコペニアの予防には食事で糖質やタンパク質を適切に摂取することが重要です。1日に必要な総カロリー量は体重1キロ当たり30~35キロカロリーで、糖尿病を合併しているときは体重1キロ当たり30キロカロリーです。しかし夕食後から翌朝までは絶食時間となるため、肝硬変では早朝の空腹時は低栄養状態になりサルコペニアの発生要因になります。そのため1日の総カロリー量を4食か5食の分割食にして摂取すること、就寝前に200キロカロリー程度の夜食を取ることが推奨されています。

 一方、タンパク質の摂取は1日に体重1キロ当たり1・0~1・5グラムが適量ですが、過剰に摂取すると肝性脳症を発症する原因となるため、患者さんの病状に応じて分枝鎖アミノ酸製剤が処方されます。なお分枝鎖アミノ酸は体内でアルブミン合成に利用されますので、肝硬変では血中アルブミン値が低下して生じる浮腫や腹水に対する治療薬にもなり、また肝がんの発生を抑制する作用も報告されています。一方、夜食として分枝鎖アミノ酸を含んだ肝不全用経腸栄養剤を就寝前に処方することもあります。なお、食塩は1日7グラム程度が適量とされます。

 一方、過度の安静は筋力の低下などをもたらすため、適度のストレッチングや筋力トレーニングなどの運動療法によって筋肉量の維持と筋力低下を防止することが必要です。

(長良医療センター消化器内科部長)